花菖蒲ぢかに地に置く旅鞄/飴山實『少長集』

 「旅鞄」という名詞を「ぢかに」という副詞で手繰り寄せる力強さ。「花菖蒲」をいかにも簡単に付けることができるこのこなれた感じ。飴山實のたしかさに身を委ねてはいけないと思う一方で、やはり惹かれている自分がいる。

 最近俳句を作っているとき、よく壺のことを思う。小さくて、でも中はまっくらで、覗き込んでもよくわからない壺。

 作った句はしずくのようなもので、それをその壺の中に落とすのだ。落とすとポチャッと水音がして、ぼくがしずくを落とす前から壺の中には水があったことをそのときに知る。たぶんぼくがこれからどんな句を書いても壺は満杯にならなくて、むしろ様子ははじめとなんら変わらない。ただ壺はそこにあって、ぼくにはその壺にしずくを落とした記憶だけが残る。

 飴山實を読んでいると、そんな気持ちになる。そしておそらく飴山實は、そのしずくを落とした時の水音を楽しめる人だったんだろうな、と思うのだ。

 これから一週間くらい、飴山實の句を鑑賞したいと思います。

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