菱川みひろさんの演技を観た感想
先日、縛羅天に出演させていただきましたという投稿をしまして。
当日は、夜にはお店(緊縛サロン縛楽)に戻らなければならなかったため、他の出演者の演技はほとんど見れなかったのですが、菱川みひろさんだけはなんとしても観たくてですね。
その感想を書きたいなーと思っているのですが、菱川さんに対しては、個人的に思い入れが深い部分がありまして、まずそこから話をしたい次第でございます。
ほとんどの人にとっては「知らんがな(´・ω・`)」案件かとも思いますが、この前提を無視しては、たかせの言及する感想の意味がわからないかと思いますので、お付き合いくださいますと幸いです。
菱川みひろとたかせ秦之助に共通する境遇
菱川さんとたかせの最重要な共通点は、「緊縛活動のために安定的な地位を捨ててきた」という点にあると思います。
菱川さんはプロのイラストレーターとして、たかせはプロのクリエイティブディレクターとして、それぞれ実績もあり、安定的な地位にあったにもかかわらず、緊縛活動を本業とするため、それを捨ててきています。
役職は違えど、互いに商業クリエイティブの業界に身をおいていたところも、共通点と言えるかもしれないです。
それともうひとつ、元は同門におり、同時期に講師として所属し、後に所属を離れることになり、現在はそれぞれ独立して活動をしているという点。
その時期には、同じステージに立ったこともあります(同じイベントに出演したとかではなく、文字通り、ひとつの演目として同時にステージに立ちました)。
菱川さんの方が若干先輩ではありますが、ほぼ同期の感覚でいたりします。
衝撃的に境遇が似過ぎているわけなんですが、そのくせ、表現への取り組み方が真逆なのがまた衝撃なんです。
菱川みひろとたかせ秦之助で異なる表現手法
先日の記事をお読みくださった方にはお分かりかと思うのですが、たかせは大層、理屈っぽいです。
これはもう、元職の職種(クリエイティブディレクター)にも現れているのですが、たかせの本領は、戦略、企画、設計にありまして。
そういう仕事だからそうなったのか、元からそういう性格だからそういう仕事に就くことになったのかはよくわかりませんが、なんにせよ、クリエイティブにおいては、常にメタ的なところに意識が向いてしまうわけであります。
一方の菱川さんはというと、最後のアウトプットを担うイラストレーターというお仕事をされていたわけです。
現在においても、本職は画家であり、徹底してアウトプットの最前線におられるわけです。
その結果、たかせはコンセプトを最重視し、道具から演出に至るまで、全てが理屈の上に構成されます。
菱川さんは、自らナレーションを吹き込み、役になりきり演劇のような表現をされていました。
コンセプトを重視するたかせ、アウトプットを重視する菱川さん。
もう、真逆も真逆。
とても個人的なコンプレックスの話になるのですが、たかせは元職において、クリエイティブの業界でクリエイティブをしない(最終的なアウトプットを作成しない)人でありまして、クリエイターの皆様方に対して、尊敬と同時に劣等感を抱え続けてきたわけであります。
役割分担の話なので、そこに良し悪しはないし、むしろ互いに補完関係にあるのですが、それでも”クリエイティブ”業界においては、やはりクリエイターこそ主役と感じてしまうわけなんです。
そんなこんなで、似たような境遇にありながら、圧倒的にクリエイターであり続ける菱川さんに対して、途轍もない尊敬と憧れを持っているわけなんです。
似たような境遇にあるからこそ特に、です。
縛羅天での菱川さんの演技の感想
と言うわけで、やっとこさ本題です。
結論から言うと、途轍もない将来性を感じました。
まず、緊縛ショーにおいて、そこに演技を持ち込む人は、非常に少ないです(ゼロではないです)。
演技っぽいようでも、キャラクターは自分自身であることがほとんどです。
つまり、演劇レベルでキャラクターを憑依させている演者は、緊縛ショーにおいては、本当に珍しいと思います。
そして、全編通じてナレーションが大きな役割を担っているのですが、これもご自身で収録されている点も、かなり衝撃でした。
先にも言及していますが、菱川さんの本職は画家です。
俳優でもなければ、声優でもない。
なのに、ステージの上で演技し、自らナレーションを吹き込んでいる。
徹底的にアウトプットを重視するピュアクリエイターである菱川さんだからこそのアプローチだと思います。
たかせだったら、演技は無理だからとハナから放棄するし、ナレーションは得意そうな人に依頼します。
これだけでも凄いと思いますが、演技の構成において、緊縛ショーの問題点をきちんとカバーする演出になっていた点もすごかったです。
最大のポイントは、緊縛において間伸びしやすいところ(後手縛りとか)ではナレーションを主にし、見応えのある緊縛の展開の時にはインスト音源にして緊縛を主にする手法。
見事だと思いました。
そして、緊縛ショーの重大な問題点である、尺の問題。
緊縛ショーは、技術上の問題もあり、ほとんどの場合において20〜30分ほどの尺になっています。
ですが一般的に、ステージパフォーマンスは、ほとんどのジャンルで10〜15分程度になっています。
それは、それ以上の時間、観客の集中力を維持させることができないからだと考えています。
ただし、ストーリーを伴う演目に限っては、状況は異なります。
演劇はもとより、バレエ、オペラ、ミュージカル、歌舞伎、落語、講談などなど。
前提としてストーリーを伴うジャンルにおいては、30分どころか、90分や120分のものも珍しくありません。
30分もの長尺のパフォーマンスに耐えうる基本は、そこにストーリーを載せることであると考えています。
緊縛ショーにストーリを載せ、ナレーションと緊縛の展開を交互に切り替え、ストーリーに則った振る舞い(演技)をし、演技に合わせたナレーションを自ら吹き込んでいる。
すごすぎなんですが。
マジで、とんでもないことをしていると思います。
菱川みひろは現代の伊藤晴雨なりや?
ちょっと見出しで煽り過ぎている感はありますが、これは菱川さんが自ら言っていることではなく、あくまでたかせが勝手に言い出していることでありますので、石を投げるならたかせにお願いします。 #投げないでください
緊縛の起源には諸説ありますが、少なくとも日本において、伊藤晴雨氏をその起源とする説には、支持する方も多いのではないかと思います。
この伊藤晴雨氏は、演劇(新劇)における責め場(罪人が責めを受ける場面)を見て、責め絵(現在で言う、緊縛絵)を描くようになったと言われています。
そして、その責め絵の制作手法は、自らモデルを縛り、写真に撮り、絵を描くと言うものでした。
これは、緊縛画家である菱川みひろさんが実践されている手法と同じです。
緊縛絵を描く人は多数いますが、自ら縛り、撮影し、絵にしている人は、ほとんどいないのではないかと思います。
菱川さんが、伊藤晴雨の手法を知った上で実践されているのかどうかは知りませんが、真似たとしても、容易に真似できるようなものではないと思います。
たかせに至っては、絵を描けないことは元より、自ら縛り、自ら写真を撮るということすらできません。
縛って撮るって、それだけでもかなり大変なことなんです。
そして、伊藤晴雨氏は大の演劇好きで、新聞紙上で劇評の連載を持つほどだったと伝わっています。
緊縛と、写真と、絵と、演劇と、伊藤晴雨氏と言えば必ず出てくるこれらの要素を、菱川さんは知ってか知らずか網羅している、緊縛業界でも稀有な存在なんです。
もちろん、重箱の隅をつつけば差異などいくらでも出てきますが、それにしてもこれほどまでに、緊縛の始祖とも言える伊藤晴雨氏と類似した存在は、他にはいないのではないかと思っています。 #いたら教えてほしい
結論
とはいえ、菱川さんの演技は、現時点ではまだ完成には至っていないと思います。
一方で、容易に真似のできるものでもないと思います。
無二の表現に至りつつある菱川みひろという緊縛師であり、緊縛画家に注目しないのは、本当に勿体無いことだと思います。
似たような境遇からシンパシーを感じている菱川さんですが、表現者としては、自分なんかと比較するには恐れ多くて、悔しい気持ちもありますが、表現者たるやかくあるべしと思い知らされます。
この先10年、菱川さんが緊縛表現を諦めるようなことがなければ、きっととんでもないことになっているように思います。
ほぼ確信です。
きっとまたステージに立たれることもあると思うので、その際には、ぜひ多くの人に見届けていただきたいです。
いつか自慢できます。
アプローチは全く異なりますが、自分も負けないよう、精進して参ります。
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