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空気になれる 2024年7月9日

日記です。

・命懸けで出かける毎日。本当に暑いですね。いよいよ死の香り漂う季節ですね。

・先週末、国立博物館に行きました。お目当ては、特別展示の内藤礼さんの個展「生まれておいで 生きておいで」。

・上野の国立西洋美術館や上野の森美術館は一人でも回れる規模の美術館であり、企画展の内容も、他人と会話しながらではなく、一人でたくさん情報を咀嚼しながら鑑賞したいという思いもあり、ずっと一人で行っていた。この国立博物館は、一人で回るにはでっっっっっっっかすぎる。なのでずっと行けていなかったのだが、今回は恋人について来てもらえることになったので、行ってきた(付き合ってくれてありがとう)。

・内藤礼さんの個展は会場が3か所に分かれた構成となっていた。ただ、その会場にたどり着くまでに、常設展含めたさまざまな展示・企画が随所にあった。

・その全部が面白すぎて困った。

・博物館には11時くらいに入場したのだけれど、途中お昼ご飯を挟み再入場をするまでの1時間を省いて、全5時間、閉館まで滞在した。全然時間が足りなかった。行く先行く先に魅力的な展示があり、キャプションをじっくり読み、その内容の面白さに感嘆し、鑑賞して感じたことを伝えあって新しい発見をするのを、ずっとずっと繰り返していた。

・作品の修復作業に着手する前に、3Dスキャナーを通して構造を内部まで調べ、それを3Dプリントで形に起こすと、仏像の頭の中に空洞の部分があり、その中からまた別の小さな仏像が出てきたという展示があった。また、実際に展示されている所蔵品に用いられている漆や刀の金属の部分、陶器の釉薬の部分、鎧の装飾の部分など、同じ素材を集め、実際に触れるという展示もあった。この2つはほんの一部に過ぎない。

触れる展示。

・「本当に触れるの!?」と言いながら触りまくり、仏像に使われている木材の艶感や、刀の鞘の皮の柔らかさ、館内のエレベーターに用いられている金属の冷たさなど初めて知ることができた。ずっと興奮していた気がする。

・常設展を見ていて、やっぱり私は日本の絵画が好きなんだ…と改めて気付かされた。
・現代美術はインパクトだったり、コンセプトだったりに重きを置いているものが多い印象で、それはそれで大好きなのだけれど、中国の古典絵画をはじめ、日本絵画では、余白の美しさや、自然が我々の心にもたらす効果、それを追求するために磨かれた技術のすべてに価値があり、毎度感嘆するばかりだ。特に風景画は、鑑賞時に、時代を超えても、自然は私たちの心に静けさをもたらすということが変わらないということを汲み取ることができ、心が粟立つような気持ちになる。実際に、博物館で実物を間近で見ると、使われている画材や技法がとてもよくわかり、その喜びも倍になった。少ししか東洋美術史を勉強できていない私でもこんなに感動できているのだから、専攻されている方たちはもっと楽しめる場所なのだろうな、ここは……。
・私の通う大学はキャンパスメンバーズに加盟しているので、ありがたいことに、この感動体験は500円で味わえた。本当にこの体験がスタバのフラペチーノよりも、ココスのハヤシライスよりも安い値段でできてしまっていいのだろうか……!?文化を守る法を作ってくれた先人に感謝した。。

・内藤礼さんの個展も見るのは今回が初めてだった。彼女の表現に対して私の見解や感想を文章に起こすと、私の文章の拙さがゆえに良い影響は生まれないので、ここにこう感想を残すことに対して不安を覚えるが、ただ、展示空間に立つと、音もなくただそこには、時と言語を超えた、この地に生を授かった者たちの呼吸が聞こえるようだったということは、私が後ほどこの体験を振り返るときのために残させていただこうと思う。実際には作品に触れることはできないが、触れたらその空間の空気になれるのではないか、むしろそれを望みたくなるような、そんな感覚を覚えた。


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