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「ヘブバン」-ソシャゲ界に新たなる怪物が産声を上げた-

 大仰なタイトルを付けたわけですが、「怪物」というのはディスってるわけではなく、従来の枠組では測れないってこと。
 「平成の怪物」とか、そういう類のアレですよ。

 特にソシャゲについては
「成功に再現性があると思えないので、決してマネしてはいけないコンテンツ」
 というものは「怪物」と呼んで差し支えないと思う。


 FGOとか、ウマ娘とかは、まぎれもなく怪物。

 そして先週リリースされた、ヘブンバーンズレッド。
 通称ヘブバン。これ間違いなく「怪物」ですわ。

 「小手先のマネタイズシステムなど要らぬ」
 「シナリオが届けば、こちらの勝ちよッ!!」
 という気迫が凄まじい。
示現流かな?

 他にもゲームデザイン全般が、色々衝撃的だったので、思ったことをnoteにまとめてみることにした。

 ソシャゲのディレクションとか、マネタイズ設計の経験者にはきっと分かってもえるはず。……多分。

そうでない人は「そんなこと考えてるんだね」程度に、見てもらえたら。



【トレンドとかガン無視のマネタイズ】

 昨今のソシャゲは基本的に、中華系に覇権を取られているので、そのお作法を参考にしがち。
 
具体的には、

  • ガチャとスタミナ依存の商法からの脱却

  • 細かく、ゲームの色々な要素に少量の課金アイテムで有利になる要素を入れる。

  • 育成アイテムなどのパック販売を、有償アイテムではなく現金で売る

 ってのを踏まえてヘブバンを見てみると……。

ヘブバンのホーム画面

 有償アイテムの使い道が、キャラガチャしかねえ。
 筆者の進行度がまだDay4なので、未開放になっている「ダンジョン」「プリズムバトル」に何かあるのかもしれないが……。
※「ライフ(スタミナ的なもの)」の回復には有償アイテムが必要。

 にしたって、キャラガチャ一本勝負なのは、昨今のトレンドからはリスキーな設計のはずだ。 

「俺らのキャラは売れるッ……!」
 という、強い意志を感じるぜ……。

 というか、これで実際に初動で売上ランキング上位に食い込んできてるわけなので、ヘブバン運営の設計は間違いなく成功しているのだ。

 しかし、見れば見るほど、ヤバさが際立つゲームデザインに仕上がっている……。

 メイン商材であるキャラガチャ。
 この「キャラ」という商材は戦闘で使うわけだが、戦闘のゲームデザインも、なかなかに衝撃的だったのでそこから触れてみる。



【戦闘システムがモンスター】

★オリジナルの戦闘システム

ヘブバンの戦闘画面

 ヘブバンの戦闘システムは、他のソシャゲのガワ変えアレンジなどをしていない完全オリジナル。
 属性による3すくみのような要素はあるものの、既存ソシャゲのどれとも異なる。

「完全オリジナル。素晴らしいじゃないの」
 そう思う人もいるだろう。
 ええそれはもう。筆者も1人のクリエーターとしては大賛成だ。

 けれどビジネス的な側面だと、話がちょっと違う。
 完全オリジナルってことは、CMや画面写真では、その面白さを伝えづらい。
 特にこれだけ無料でゲームが溢れてる現代では、一見して面白いか分からないものは、ユーザーに嫌厭されがち。

 それでもなお完全な新システムをやろうってのは、それ以外の要素で客を呼び込めるし、実際に触って貰ったらプレイヤーを引き込めるという自信がないとできない。


★超シンプルなバトル設計

ヘブバンの戦闘コマンド

 ヘブバンの戦闘で、キャラクターが出来る行動は「通常攻撃」「スキル(必殺技的な)」の2種類。
 たった2種類だよ。

 
 むしろ通常攻撃を全キャラが出来ることを考えると、戦闘面の個性付けや、商材としての価値は「スキル」頼りと言ってもいい。

 これはソシャゲのゲームデザインのロジックからすると、とんでもなく恐ろしい設計だ。
 キャラクターのバトル面での差別化の幅が少ないと、あっという間に商材のバリエーションが枯渇する。
 そしたらもう、あとはステータスを上げるだけしかない。
 インフレ地獄へようこそ。

 ただ、これを回避する方法がある。
 それは「キャラ絵」と「キャラへの愛着」
 バトルの性能に関係ない部分で、商品価値を担保すること。


 好きなキャラだから、弱くても使いたい。課金してでも欲しい。
 そう思ってもらえれば、性能に大差が無くても需要は生まれる。

 だからこそ、版権モノは強い。
 元々の作品が積み重ねてきた、キャラクターへの愛着を借りられるので。

 でもヘブバンは、完全オリジナルシナリオ。
 キャラクターも全部新規。
 ……怖っ!?

 キャラクター面で優位性があるIPモノですら、バトルでのキャラ性能はある程度幅を持たせて設計できるようにする。

 ヘブバンに一番近しいと思われるFGOもそう。
 キャラ属性に加えて、宝具と3つのスキル。
 あとクラススキルとかもね。

 そういうの全部、まるっと捨てて、キャラクターの魅力で勝負しようってんだ、ヘブバンさんは。
 ちょっと覚悟決まり過ぎじゃない……?


★同キャラ編成不可の衝撃

 ここまでキャラの商材設計で、運用面で厳しい要素を書き連ねてきたけど、まだ尽きないんだわ。
 ヘブバンでは、同名キャラクターのレア度違いや、性能違いが存在する。

ヘブバンのキャラ編成

 しかし編成において、同一キャラの編成は不可。
 
不可なのだ。
 たとえ、最高レアを引いたとしても、同名キャラで同じ最高レアを持っていたら、どちらかしか編成できないのだ。


 というか、リリース直後から無料配布のSSRキャラの別バージョンがガチャから出てくる。
 地雷かな?

 その上でガチャのSSR排出率は3%。
 激シブではないが、出やすいというわけではない。
 今後、同名キャラの性能違いが、どんどん増えていくことを考えると厳しい仕様だ。

 いや世界観を重視するなら、当然理解できる。
 同じパーティに、同じ人間が2人いるとか、どう考えてもおかしい。
 ドッペルゲンガーかよ? って話だ。

 って話なのだが、既存のソシャゲは「せっかく苦労して手に入れてくれたんだし……」と、世界観よりも商品価値を優先して、同名キャラの編成を許してきたのだ。

 だが、そこはシナリオ勝負のヘブバンさん。
 一切の妥協はない。

「何よりもシナリオと、それを支える世界観の保持を優先する」
 そういう姿勢が、明確なメッセージとして伝わってくる仕様だ……。


 完全に、腹ァ括ってますわコレ。



【シナリオがモンスター】

 ここまでで、ヘブバンがいかにシナリオに全てを託して勝負する設計になっているかは、伝わったと思う。
 伝われ。

 じゃあそのシナリオ要素はどうなのか? という所だけれど、これも凄まじいことになっている。


★マジでフルボイス

 フルボイスつっても、メインストーリーだけなんでしょ?
 って思ってたら違った、キャラのセリフ全てにボイスついてる……。

 インターミッションの会話や、移動中に近付くだけで表示されるセリフまで。
 さらには期間限定イベントまで。

 全部、ボイス入ってやがる……。

 声優さんへの投資は演出としてコスパが良い部類とはいえ、ゲームとしては必須なものじゃない。
 それにイベント打つたびにフルボイスで収録するってのは、運用の固定費だって膨れ上がるし、継続や収益化の要であるイベント運用の取り回しが悪くなる。

 ってな感じで、どう考えてもビジネス的にはリスクがデカい。
 けれど、それを背負ってなおキャラクターに命を吹き込むことを選んだわけだ。

 同じ立場で、その判断できる?
 いやあ、俺は無理だなあ。


★演出が盛られすぎィ

 主人公たちは半軍属のような状態で学園生活を送るのだが、この学園生活回りにかなりガッツリ金がかかっている。
 ざっと列挙。

  • ボイスに合わせて、リップシンクのシステムが組み込まれてる。

  • イベントスチルが、かなりの数書き下ろされている。

  • 立ち絵の表情差分は言うに及ばず、カットインの表情差分も豊富。

  • フィールドに居るキャラクターが、かなり多様なモーション設定されている。

 いやあ、こだわってますね……。
 デザイナー何人体制で開発してるのかって、想像するだけで鼻血でる。

 一方でバトルの演出は、全体的に割とさっぱりした作り。
 なので、やはりシナリオと舞台装置のほうに予算を突っ込むというスタンスなんだろう。
 にしても相当だよ。


★選択肢でそこまでやる?

 ヘブバンさんの会話選択肢は、最大でなんと3×3の9パターン選択。

ヘブバンの3×3選択

 お前マジか。
 東京魔人學園系の感情入力に匹敵する選択肢の多さだよ……。

選択肢に応じてボイス付きセリフェ…

 しかもこれ、選択肢に応じてフルボイスのセリフパターンがあるんだよ。
 別に重要な分岐じゃないのにさ。※あとあとどうなるかは不明

 ヘブバンさんさァ、殺伐としたポストアポカリプス世界で「キラキラした日常感」を演出するのに、力入れすぎなんよ。
 こえぇ。

 バトルモノで日常感を丁寧に演出するのは、喪失感との対比ためだって、相場が決まってんだ。
 マジで、このあとどうなんのよ……。



【まとめ】

 「マネタイズとか商材とか、細けえこたあいいんだ! 魅力的なシナリオとキャラ作れば、ガチャで売上立つんだよ!」
 と言わんばかりのゲームデザイン。

 それがヘブバンスタイル。

 こういう考えはコンシューマーメインの開発でやりがちで、大体の場合は凄惨な爆死に終わる。
 ヤバい。
 ヤバさしかない。

 けれど、ヘブバンチームはその道を選んだ。
 麻枝准氏のシナリオを信じて予算を投じ、シナリオを阻害するものはマネタイズ要素ですら捨てる決断をした。
 常人の腹の括り方じゃない。

 結果としてヘブバンは、リリース後売上ランキングの大勢を塗り替えた。
 この結果は「Keyファンが買い支えてる」では絶対に実現できない。

 なんとなく興味を持っただけのユーザーも、しっかり取り込むことが出来たということ。
 そしてそれは、開発サイドの覚悟が為したことだ。

 今後どうなるか分からないが、初動でこれだけの結果を出せば人が人を呼ぶ。
 そしてシナリオメインで勝負するならば、インフレを抑制して、カムバックしやすい長期コンテンツにしやすい。

「麻枝准というコアなファンを持つクリエイター」
「麻枝准を全力で信じた開発サイド」
 この2つが揃って初めて到達できた境地だろう。


 それでもなお、かなりの大博打であったろうと思う。

 ヘブンバーンズレッド。
 凄いよ。

 ……凄いけど、絶対にマネしちゃダメなヤツな。



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