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Appendix-2. 吹奏楽連盟側のマーチング

マガジン本編の第8話はもうちょっと待ってください。
・・・と時間稼ぎします。

マガジン第1話で、マーチングの大会は大きく分けて「日本マーチングバンド協会」(M協)主催の大会と、吹奏楽連盟(吹連)主催の「マーチングコンテスト」の2種類あると書きました。

専ら私はM協側の人で、中高時代は吹連側の大会の存在を知らずに育ち、大学進学後に吹連側の大会の存在を知ったのですが、ここでは吹奏楽連盟側の大会について、M協側の大会との差異を中心に記してみます。

・・・とは言っても、私はこれを書き始めた2018年8月26日に生まれて初めて吹連側の大会を見に行ったような素人で、「1を見て1000くらい知った気になって発信する」記事なので、素人の戯言としてご覧ください。

1.大会の設立年

M協側は1973年、吹連側はそれに遅れること15年の1988年から始まりました。もともとM協側の大会を作った広岡徹也氏は吹連の中にいた方でもありますが、あれやこれやがあって吹連を飛び出して出来たのがM協側の大会です。最初はそれこそM協側は「冷や飯を食っていた」状態ですが、少しずつ規模が大きくなっていき、武道館を使いこなすまでになったのを見て、吹連側がM協に対抗する形で大会を作ったのが1988年です。

2.出場部門

吹連側の大会は、今は「中学」と「高校以上」の2種類しかありませんが、以前はM協側と同様に「職場・一般」がありました。

今やYOKOHAMA INSPIRESと共に「横浜御三家」と呼ばれるようになったYOKOHAMA SCOUTSYOKOHAMA ROBINSの一般強豪団体も、1990年代は吹連側の大会にも出場してました。当時、M協の大会ではインスパの壁を破れず神奈川県大会だけで終わってしまっていたからです。

吹奏楽からマーチングに鞍替えした後の湘南台高校も、2000年代前半まで吹連側の大会に出てました。2002年からM協側でも全国大会まで出られるようになってますがまだ出られない年もあり、しばらく吹連・M協の2足の草鞋を続けます。2000年代後半以降はM協の全国大会に安定的に出られるようになり、今やグランプリ常連校にまでなっていますが。

他にも、中学部門で今はM協側全国大会常連の潮田中や、一時期広岡氏が指導しに行っていた鵠沼高校も最初は吹連側の大会に出てました。

何故そんな状況になったかと言うと、この時期の吹連の県大会は「出れば高確率で神奈川県代表」という状態であり、マーチングの人達が欲する「フラットに評価してもらえる場」が多く確保できたためと考えられます。特に1995~1999年と2001~2002年は全カテゴリで出場団体全て神奈川県代表にするという荒業もしてました。近年はそこまで高確率ではありませんが、それでも出場団体の半分以上が神奈川県代表になっています。

この「神奈川県代表になりやすい吹連側に流れてしまう」状況を看破できなかったM協側は、2000年代後半に小・中・高・一般の全部門で神奈川県大会の通過(関東大会推薦)枠を大幅に拡充する施策を打ちます。高校と一般部門は年度によっては出場全団体が関東大会に推薦されるようになり、小学生部門の推薦枠は13校も用意するまでになりました。

この施策のおかげで、M協側の思想で活動している団体が無理に吹連側の大会に出る必要が無くなり、M協側の大会に完全に移行していきます。そして吹連側の神奈川県大会は、中学と高校しか出てこなくなります。今回(2018年度)もそうでした。

3.人数制限の有無

M協側は人数制限がありません。M協の全国大会では人数の多寡で「大編成」「中編成」(高校部門のみ)「小編成」に分かれ、それぞれの編成ごとに金・銀・銅の賞が振り分けられますが、グランプリだけはその垣根が取り払われ、全団体中1団体のみに授与されるようになっています。

一方、吹連側は「80名まで」という規定が存在します。またM協側大会に出てくる団体に比べると奏者1人1人の音量の幅が小さいので、M協側の中編成・大編成の団体が放つ「迫力」という点では大きく見劣りするのは否めません。さらに80人ギリギリまで出してくる団体でもスネアが2人しか居らず、かつ「叩いているのはどちらか1人だけ」という局面ばっかりで、バッテリーの貧弱さはM協の大会を知ってる人ならキレて良いレベル。

私が現役の時は「ブラス15~20人に対してスネア1人が適正」と言われてたので、この人数ならスネアは常時3~4人必要となる計算なのですが・・・

ただこうなっているのは後述の理由があるからのようです。

4.大道具・カラーガード・PIT楽器の使用可否

吹連側は一切この手のアイテムは使えません。正確には吹連側の大会は、規定をひたすら守って全国大会を目指す「A部門」と、規定は緩いが地方大会までしか行けない「B部門」の2種類があり、A部門は大道具・カラーガード・PIT楽器は使用不可です。PIT楽器の代わりに、マーチング用のシロフォン・グロッケンなら使用可です。

これは、吹連側の大会が「普通の吹奏楽部がマーチングをやる」ことを想定して運営されている大会であり、「米国のコースタイルを起源としたマーチングバンドがやる」M協側の大会とは思想が根本的に違うためです。

だから、大道具もカラーガードも要らないし、スネアの人数も普通の吹奏楽部は1人か2人なんだから少なくて良い。そういう思想なんですね。

・・・とは言え、PITは使わせない根拠が弱いと思うし、なぜか分からないけど、今日見た団体の中で、「スネア2人・テナー1人・バスドラム4人・シンバル8人」という訳の分からない編成していたところもあったのだけど??M協の大会ではありえないバッテリー編成だし、「普通の吹奏楽」でシンバル複数人ってないよ??

他にもシンバルがスネアより多かった(3人以上の)団体が複数あり、本当に意味が分からなかったです。大会に出場できる打楽器の人を増やしたいからでしょうか・・・。

5.演技時間

吹連は6分、M協は8分(中学のみ6分30秒)と大差ありません。どちらも入退場の時間は含めません。昔はM協側は「入退場含めて12分」あったのですが、大会規模の拡大に伴って演技時間が短縮されてしまいました。吹連の6分は論外ですが、8分というのも短いよなあ・・・。起承転結を完遂させるなら10分は欲しいところ。

6.演技の規定

吹連の大会のA部門は、「カンパニーフロント」と呼ばれる一列行進など、年度ごとに指定された特定の演技(3種類程度)を6分間の中で行わないといけないという規定があります。一方でM協側はそういう規定がありません。(もちろん、火器を使ってはいけないなどの禁止規定はある)

ここまでいろいろ吹連側の規定を書いていきましたが、他競技に例えると、吹連の大会はフィギュアスケートの「ショートプログラム」に近く、M協の大会は「フリースタイル」に近いと思います。

7.大会の会場

全国大会は、近年は吹連側は大阪城ホール、M協側はさいたまスーパーアリーナで開催されています。M協側は東京体育館→横浜文化体育館→日本武道館→スパアリと専ら関東地区での開催を続けてますが(1991年のみ、武道館改修工事の影響で名古屋レインボーホール)、吹連側は一時期幕張メッセでやっていた時期があった以外は関西地区で全国大会を開催しています。なぜかは分かりません。

ちなみに神奈川県大会は、吹連は小田原アリーナ、M協は横浜アリーナで行われています。出場団体も吹連側は小田原~秦野あたりの神奈川県西部の学校が中心で、M協側は横浜~藤沢あたりの神奈川県東部~県央部の団体が中心です。県大会レベルでも見事にM協と吹連は東西分裂しています…

8.審査員

M協の大会は、マーチング・ドラムコー出身の審査員が審査します。当たり前ですね。

一方、吹連の大会は、吹奏楽コンクールの審査員が審査します。

・・・え?( ゚д゚)ポカーン

いや、神奈川県大会の審査員の中に、こないだの神奈川県吹奏楽コンクールの打楽器審査員だった佼成ウインドの秋田氏の名前があったのを見た時は本気で目を疑いました。秋田氏は、マーチング専門外ですよ?プロフィールにマの字すらありませんよ??

「普通の吹奏楽部がマーチングをやってみた」思想が、審査員にも適用されるのは、ねぇ…

9.一般向けの知名度

・・・と、いままで吹連側の大会をこき下ろしまくりましたが、M協側の大会が唯一吹連側に勝てないのが「一般向けの知名度」です。

これを私が思い知らされたのは、大学1年の時に越谷市民交響楽団にエキストラに行った時。私の楽器経歴でマーチングを少し前までやっていたという話を楽団の人達にしたら、

「あ、マーチングやってたんだ。浦和学院とか強いよね

・・・う、浦和学院???埼玉栄じゃなくて??

浦和学院は、吹連マーチングコンテストで全国常連の高校でした。冒頭にある「大学進学後に吹連マーチングコンテストの存在を知った」のもこの時です。私が如何に狭い世界で天狗になっていたかを痛感するとともに、M協の大会が設立5年あまりの大会に知名度で負けていたことがショックでした。

この傾向は最近でもあまり変わりません。今の時期は吹連のマーチングコンテストの都道府県予選と、M協系の大会の一つ「ジャパンカップ」が行われているのですが、8月28日のTwitterでのそれぞれのヒット数を見ると…

2倍近くの差。しかもジャパンカップは競馬のジャパンカップも混ざっているので本当の差はもっと大きいです。

M協側の大会の知名度が劣っている理由はいくつか考えられます。

①.吹奏楽連盟主催の大会ではないため、存在を気にする人が少ない

M協の大会は「吹連への反乱の賜物」です。そのため、吹連とは今でも断絶状態が続いています。昔あった「バスケのプロリーグ分裂」のいざこざがかわいく見えるくらいです。

この状態に対して当事者側も一定の課題意識はあったようで、1990年代後半から2000年代前半にかけてはM協の全国大会の後援に吹連が入ったりするなど、融合が図られた時期もありました。

ところがいつの間にか吹連はM協の全国大会からは手を引き(地方レベルでは今でも地方吹連が独自に後援することはあるけど)、2000年代後半からは再び断絶状態に戻ります。

そのため、M協の大会は「大会に出ない学校の出身者は誰も気にしない」傾向になりやすいです。先日吹連マーチングコンテストに行った時も休憩時間にあちこち回って観客の会話を気にしてみたのですが、吹奏楽コンクールの話は出ることはあってもM協の大会の話題は誰もしてなかったですね。

一方で吹連マーチングコンテストは、日本の部活動で一番人数が多い「吹奏楽部」を束ねる吹奏楽連盟が主催する大会であるため、吹奏楽に籍を設けている人であれば多少なりとも気にします。出場メンバーは吹奏楽コンクールとは別の集団にすることがありますが。Twitterでは、「吹奏楽コンクールは残念だったけどマーチングコンテストで頑張る」というツイートがこの時期いっぱい見られます…

②.強豪校が「スポーツがあまり強くない」ところばかりで、高校野球や高校サッカーなどの「ブラバンが応援団としてメディアに出てくる」ところにほとんど出てこれない

例えば直近の甲子園。金足農の決勝対戦相手になった大阪桐蔭のマーチングがTwitterで少し話題になってました。こちらはその一例。

 また、近年は京都橘高校が高校サッカー選手権に出るようになり、それに付随して吹奏楽部が奏でる「sing sing sing」が度々話題になっています。

この2校、いずれもマーチングは吹連側にしか出てこないのですね。少なくとも全国大会レベルでは。

こういう、全国一般層へのアピールが出来る高校は、M協側だと今のところは・・・埼玉栄か大濠高校に期待するくらいでしょうか。

③.宗教戦争の様相を呈しており、メディアが扱いづらい

これも大きいと思います。

M協側は、高校カテゴリは長らく天理高が一歩抜け出てましたし、最高カテゴリである一般団体に至っては、創価学会傘下の創価ルネサンスバンガードと天理教傘下の愛町バンドの一騎打ち状態が20年以上続いています。

マーチング精神の中に「特定宗教の差別はしない」というのがあるので、その精神に反したことを書いてしまいますが・・・

メディアのタブーの1つに「特定宗教を扱うこと」があります。

例えば、創価学会の信者である芸能人やスポーツ選手はあちこちに居るけど、TV地上波やBS放送で創価学会のフレーズが出ることは先ず無いでしょう?たまに広告で出ることはありますけど、その程度。

だから、宗教色のない吹連側の京都橘・大阪桐蔭・市立柏などはメディアで扱えるけど、天理高や愛町、創価ルネバンはメディアでは扱いづらい。

あと個人的な感情を言うと、私は創価系列が大嫌いです。元から好んでなかったのですが、大学3年次の東京都吹奏楽連盟合同演奏会で一緒にステージに立った創価大の人からしつこく入信を誘われて半日監禁された(注:筆者の昔のブログに飛びます)トラブルがあったのが決定打でした。

その意味では、宗教が一切絡んでいない湘南台高校は救世主のような存在です。数年前には湘南台高のOBOGバンドであるWhite Galaxyが立ち上がり、設立3年でM協全国大会金賞まで行ってますので、一般カテゴリの創価天理寡占状態をぶち破ってくれるのはここかもしれません。私的には知ってる方が指導しているスカウツ・ロビンズにそこまで行ってほしいのですが。。。

外野の推測なので、的外れかも知れませんし、他にもあるかも知れませんが。ただ一つ言えるのは、私が18歳の時にマーチングから吹奏楽に鞍替えし、横浜市からも出ていった時に、知名度の違いを痛感するイベントが度々あったということです。

今私が居る普通の一般吹奏楽団では、インスパやスカウツなどのM協側の話が普通に出来ますし、関東学院出身と言うことで、他のOBOGの動向も聞かれたりします。ただ、それは、広岡氏のお膝元であり、マーチング発祥の地「横浜市」だからなんでしょうね…。


最後は愚痴になってしまいましたが、「吹連マーチング」と「M協マーチング」の違いを以上の通りまとめました。今年初めて「吹連マーチングの大会」を見に行ったわけですが、あの規定に閉じ込められた堅苦しい演技集が「日本のマーチング」だと思われるのは正直かなり抵抗があります。

M協側は逆にショーの要素が強くなりすぎてしまい、ドリルの動きなどの基礎技術がおざなりになってきてるという批判もあるっちゃありますけどね。

多少偏見が入ってますが、まあご容赦ください。

以上。

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