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アストン・ヴィラ好調の理由とリーズ快勝の要因 〜プレミアリーグ第6節 リーズ vs アストン・ヴィラ レビュー

開幕から4勝無敗と波に乗っているホームのアストン・ヴィラ。昨季王者のリヴァプールに対して7得点を決めた第4節の出来事は、皆さんの記憶にも新しいかと思います。

そんな相手をアウェーで迎えうつは、前節ウルブス相手に0-1と手痛い敗戦を喫したリーズ。その試合のレビューはこちらから。

実はこの両者が前回戦った時、試合中に起きたとある事件が世界中で話題になりました。リーズファンなら既にピンときたでしょう。この出来事は2019年度の「FIFA Fair Play Award」を受賞することにもなるのですが、詳しくはこのハイライトをご覧ください(下画像をクリックすると見れます)。


スタメン

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ヴィラは前節のレスター戦からは変更なし。

対してリーズのメンバー変更は1人だけであったものの、ポジションの入れ替えをいくつか行いました。アンカーのフィリップスが前節肩に怪我を負ったため、ここ数試合左CBとして起用されてきたストライクが本職のアンカーのポジションに。

空いた左CBには昨季、そして今季ともに右SBとして起用されたエイリングが担当することに。右利きということもあり、昨季は右CBとして起用されることはあったものの、左CB起用にはかなり驚きました。

ただ、ビエルサがエイリングについて試合後の記者会見で語っていたように「機敏で、守備、ヘディング、ボールの扱いが良く、チームに落ち着きを与えていた」と、試合を通して安定したパフォーマンスを発揮していた印象です。

そしてここまで左SBとして起用されてきたダラスが本職の右SBに。左SBにはアリオスキが起用されることとなりました。


でたらめなプレスから生まれる優位性

この章のタイトルにもある「でたらめなプレス」。これはヴィラのことを指します。

前線から人数をかけてプレスをハメにいく形を用意するわけでもなく、ウルブスのようにブロックをしっかり組んで、引いて守ってカウンター、というわけでもない。試合を通して意図の見えずらい曖昧な守備を続けていました。

ただ、ここで言及しておきたいのがCFのワトキンス。この選手は攻守においてヴィラのキープレイヤーだと自分は考えています。

ワトキンスは自然にコースカットプレス(カバーシャドー)ができる選手です。基本的にはアンカーへのパスコースを消しながらも、機をみてCBにプレス、またGKを切りながらCBへ背後からプレスなど、リーズのビルドアップを苦しくさせていました。

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ただ、守備は1人だけでは成立しません。ワトキンスがプレスをかけにいってもWGや中盤の連動が足りないため、彼のプレスが無駄になることがほとんどでした。

そのため、ヴィラの3トップに対してリーズが4バックで数的優位を獲得し、片方のCBが常時フリーに。前述した連動性もないため、1列目と2列目の間のフロントスペースでアンカーに高い位置で攻撃の起点を作られていました。

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後方でフリーの選手を創出しロングボールの出し手を確保すれば、リーズお得意の大外へのロングボール、またはライン間へのクサビのパスが出し放題に。リーズにとってはこの上ない状況ができあがります。

今回のヴィラ戦では、特にアンカー脇のスペースがリーズの両IHによって有効活用されていました。

CBからIHへ直接グラウンダーでパスが渡ることもあれば、CBから前線へのロングボールのこぼれ球をこのスペースで拾えることが頻発。いずれにせよ、これで手数をかけずにライン間で前を向いて攻撃を展開することが可能になります。

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この場合、IHが前を向いた時点で既に5vs4の状況が目の前に完成しています。となると、DFライン裏へスルーパスもよし、大外のWGへ預けるもよし、自らシュートを打つのもよし、という風に様々なプレーが選択可能。相手に比べて2倍以上の27本のシュート数をたたき出したのも、これが1つの要因だと考えられます。

ヴィラの意図の見えない曖昧な守備
・連動性のない守備
後方でフリーのCBを創出するリーズ
・大外へのロング
・ライン間へのクサビのパス
・多用されるアンカー脇のスペース


4バックに対するアンバランスな5トップ

ヴィラの守備を苦しめていたもう1つの原因は、4バックに対するリーズの5トップです。

ヴィラの4バックに対して5トップをあてることで数的優位を獲得する、というのは容易に想像できるかと思います。しかし、ここで1つポイントとなるのが、章のタイトルにもある「アンバランス」だと自分は考えています。ここでは「つりあいが保たれていない」という意味に加え、「変幻自在」といった意味も含んでいます。

ではどのように「アンバランス」なのでしょうか。

1つは逆サイドに選手が集中している点です。大外のWGがCBからのロングボール、またはSBからの縦パスを受けた時点で、5トップ中3人がボックス内にポジションを移します。

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これにより相手DFは逆サイドに釣られ、リーズにはボールサイド側に前進する、またはコンビネーションを行う大きなスペースが与えられます。加えて2vs1の数的優位もボールサイド側で作れることに。

SBがWGにアプローチをすればSB-CB間が空き、IHのチャンネル(ニアゾーン)への飛び出しについて行けなくなりますし、IHをマークすれば大外のWGが自由にボールを敵陣深くまで運ぶことができます。

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ここから、前節のレビューでも言及したSB裏を狙う動きへ派生することが今回の試合でも頻繫に行われるようになりました。

さらに、この5トップのアンバランスさを生んでいるのが、変幻自在であるという点。リーズには様々な5トップの形が存在し、その構成が瞬時に入れ替わります。

今回の試合では4バックだったので4-1-4-1をスタートポジションとすると、この5トップの作り方には4パターン存在します。

①、3トップ(CF+WG)+2IH
②、3トップ+2SB
③、①と②のミックス
④、その他、例外のパターン

①、②、③のパターンはここ数年でかなり普及したもので、想像もしやすいかと思います。ですので、これらの説明は割愛するとして、④の例外パターンについて少し紹介したいと思います。頻度としては少ないものの、知っておけばリーズの観戦もしやすくなるでしょう。

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1つ含まれるプレーはアンカーの飛び出し。IHが相手のSB裏に流れる判断をした際、空いてくるハーフスペースをアンカーが一列上がって埋める、というものです。

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加えて、逆サイドからのハーフスペースへの飛び込みもこの例外パターンの1つと考えています。このプレーに関しては、長距離の横移動で死角からリーズの選手が侵入してくることを意味するため、相手からすると非常に阻止しにくいプレーとなっています。

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相手を押し込んだ状態ではSBが上がって2-3-5気味になったこの試合では、基本サイドでの攻撃はIH+WG+SBの3人で行っていたものの、IHが逆サイドから飛び込んできた際は4人でコンビネーションを行う場面もありました。

4つのパターンを紹介しましたが、正直5トップを作ることまでなら先程も言及したように、多くのチームが行うようになってきています。現代サッカーのトレンドの1つと言えるでしょう。

ただ、そのような中なぜビエルサのチームが世界中から注目されるほど特別なのでしょうか。

これに関しては本当に様々な理由が存在しますが、この章のテーマである5トップに注目すると、「5トップ作成からの変化」がその1つに挙げられます。

リーズは5トップを作成し、そこまでボールを運んだ後、各選手の列移動、レーン移動が凄まじいほどに行われます。この流動性、そして連動性は世界をみてもトップクラスのチームではないでしょうか。

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先ほどの4パターンを例に挙げると、5トップは最初は①、でも気づけば②に。そしてすぐに④に。最終的には③になっている、というような。図はゴチャゴチャしててごめんなさい(笑)。ただ、10秒もの間にこれだけの動きがなされていることを、どうにか伝えたい。

リーズにはフィジカル面でも、テクニック面でもずば抜けた選手は存在しません。数年前までは2部で苦しんでいた選手もたくさんいます。ですので、選手たちがとにかくいろんな場所に移動することで、集団としての優位性をを得ようとしていることが見てうかがえます。

そしてこれらの移動も、選手個人の勝手な判断ではなく、ビエルサなりの哲学、理論に基づいて行われています。ですので、変にハーフスペースに誰もいなくなったり、幅をとる選手が渋滞するようなことはほとんどありません。

常に相手の急所に選手が飛び込んでいきながら、フィニッシュのプロセスに持ち込んでいきます。

選手たちが縦横無尽に動きながらも、いてほしいスペースに選手がいる、って並みのチームができることじゃないと思うんですよね。ビエルサボールのアート性を少し感じる部分でもあります。

というわけで、後方でフリーの選手を創出できたことに加えて、5トップのアンバランスさを有効活用したリーズは、ヴィラを押し込みシュートまで持って行く状況が多発しました。

逆サイドに集中する5トップ
・ボールサイドにできるスペースと数的優位
変幻自在の5トップ
・4パターンある5トップの作り方
・ビエルサの哲学、理論に基づく5トップ作成からの変化


ワトキンスの重要性と中盤のダイナミズム

ここまでリーズが攻撃時に優れていた理由について淡々と述べてきましたが、少しヴィラについても触れていこうと思います。

前述したように、守備面ではかなりでたらめな部分が多かったですが、前半から後半序盤までの間はゴールに迫るシーンが度々ありました。ゴールラインぎりぎりでエイリングがクリアをしたりなど、見ていてヒヤッとするシーンもかなり多かったような。

この章では、ヴィラがどのようにしてチャンスを作り出したのか。さらには、ヴィラが好調の理由について深掘りしていこうと思います。

まず目立った活躍をしていたのが、章のタイトルにもあるワトキンスです。守備面での役割については解説しましたが、攻撃時では彼がさらに際立っていました。

言及しておかなければならないのが、彼のボールをおさめる技術の高さ。前線から中盤まで下りてくることもあれば、ライン間でボールを引き出すことも行い、味方からのパスを受けるや否や攻撃の起点を作ります。ヴィラの攻撃のほとんどが彼を経由していたのも、偶然ではありません。

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ここからレイオフの出し手になることも、前を向いて前線の選手への配球を行うこともできます。

そして、ワトキンスが下りてくることと相互作用で活きてくるのが、中盤ののダイナミズムです。具体的には、ワトキンスが空けた前線のスペースにIHやSBの選手が果敢に飛び込んでくることを指します。予期しない選手たちが後方から攻撃に参加するので、DFとしては守りづらいシチュエーションです。

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このダイナミズムに原則などはあまりなく、選手が個人で判断している部分が多く、アドリブ性が高い印象を受けます。ただ、プレスがハマらず押し込まれる展開になると、リーズDFの裏には大きなスペースが存在するので、ヴィラとしてはこの特徴が発揮しやすい状況。

プレスがハマっていないことが、攻撃時に功を奏すという稀な展開です。

ワトキンスから始まる攻撃、そしてそこから生まれる中盤でのダイナミズムがここまでのヴィラの好調を支えてきた、というのが自分の考えです。

この中盤でのダイナミズムに最も苦しめられていたのが、アンカーのストライクです。ヴィラのIHたちが1列上がって攻撃に参加することもあれば、WGがカットインしてくるなど、彼のエリアに攻撃が集中してしまい、結果的に前半10分でイエローカードをもらってしまいました。

さらにその直後のシーンでもまた危ないファールと、レッドカードが懸念されたシーンも。ビエルサは試合後の会見で、このヴィラの特徴も考慮した上で前半21分でのストライクの交代策だった、と語っています。

ただ、原則が仕込まれていない様子だったので、案の定押し込んだ状態での崩しでは苦しむ展開に。リーズの攻撃は「選手たちが縦横無尽に動きながらも、いてほしいスペースに選手がいる」と表現しましたが、ヴィラは逆に「いてほしいスペースに選手がいない」状況に陥っていました。

攻撃時におけるワトキンスの重要性
・ボールをおさめる技術の高さ
・レイオフの出し手、前線への配球
中盤でのダイナミズム
・ワトキンスの下りる動きとの相互作用
・スペースのある中では強力も、アドリブ性が高い


後半での主な展開

後半では少しずつ、ヴィラの守備時においてのボロが出てくるように。

まずは意思統一の無さ。ボールの奪いどころが設定されていないため、守備陣形に様々なスペースが空くようになってしまいます。

頻繁に起きていたのは、WGがむやみにCBにプレスをかけるシチュエーションです。こうすると、SBにボールがわったてしまった時にフリーでボールを運ばれてしまいます。中盤の3枚(2IH+アンカー)がスライドして対応しようとしても、連動していないために中盤にギャップが空き、そこを使われるといった悪循環。

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2点目のシーンは、バンフォードの豪快なシュートも流石ですが、その前にクリヒが中盤3枚のギャップを使えていることが見てとれます。

さらに、守備時の意思統一不足は陣形の間延びにも直結しました。

ロングカウンターから1失点目を喫したヴィラは、前掛かりにプレスをするようになるも、それは前線と中盤の選手だけであり、守備陣がついていけていないことが度々ありました。

となると、当然空いてくるのはライン間。このエリアは前半でも使われていたと話しましたが、間延びしたことにより、リーズはここでのボール保持と前進がより簡単に。

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3点目のシーンでは、十分すぎるスペースの中でロドリゴがボールを受け、コスタに展開することができています。

こうして、後半はさらにヴィラ守備の穴を的確に攻略できたリーズが3-0と快勝。

守備時の意思統一の欠如が引き起こす現象
・むやみなプレスから生まれる中盤のギャップ
・間延びする守備陣形


まとめ

プレミア昇格が決まった時点から囁かれていた「バンフォードはプレミアのCFとして大丈夫なのか問題」。この試合でそんな疑問は完全に一蹴できたかと思います。

これまた試合後の記者会見の話にはなるのですが、ビエルサ自身もバンフォードのことは高く評価しており、記者たちから「バンフォードに何か施したのか、アドバイスをしたのか」と聞かれても「昔決めれていなかったチャンスを、今決めているだけ」と丁寧に受け答えていたのが印象的でした。

次節は知将ブレンダン・ロジャース率いるレスター戦。そのレビューも乞うご期待。

今回は読んでいただきありがとうございました。面白かったよ、って思ったもらえたらぜひSNSで拡散よろしくお願いします。意見などがあればぜひコメント欄、Twitter にドシドシ寄せてください。今後とも記事をアップしていきますので次回も読んでいただけると幸いです。ありがとうございました。
サムネ引用元

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