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敗戦は偶然?それとも必然? ~プレミアリーグ 第5節 リーズ vs ウルブス レビュー

久方ぶりにリーズのマッチレビューです。現在は地元の高校で分析官をやらせていただいているのですが、その仕事もちょっとずつ落ち着いてきたということで、開幕5試合目からとはいえ、ぼちぼちマイペースに寄稿してみることにします。


ウルブスのゲームプラン

まずは、軽くウルブスの情報から整理していきます。スタートからは 5-3-2 のシステムを採用し、ハイプレスをかけにくることは少なく、基本的には2トップで中央を閉じながら相手をサイドに誘導。リーズお得意のロングボールも5人で構成されたDFラインで跳ね返し、カウンターを狙うといったゲームプランでした。

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攻撃時はWBを上げつつ、3バックでロングボール主体。ある意味ウルブスお馴染みの戦い方ですね。

結局はこの戦い方が上手くいかずにヌーノが修正を加えることになるのですが、それはまた後ほど。


4バックでのビルドアップ

スコアレスで前半を終えたものの、チャンスの数を考慮するとリーズが圧倒したと言って間違いないでしょう。ここからはリーズがボール保持時にとっていた策とその狙い、そしてちょっとした工夫まで紹介しようと思います。

リーズの布陣は下図のような 4-1-4-1。急遽左CBでクーパーの代わりに起用されることになったストライク以外はいつものメンバーと同じです。

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スタメンを固定してくるあたりはビエルサらしいですし、シーズンを通して変わることはあまりないでしょう。

観戦していてまず疑問に感じたのは、ビルドアップにおける最終ラインの枚数です。ウルブスが 5-3-2 で挑んでくるということは直近の試合を見ると予想できていたはずです。

よって、シェフィールド戦のように片方のSBに少し低めの位置を取らせることで3バック化。それによって後方で3vs2の数的優位を作りながらビルドアップを開始する、というのが試合前の自分の予想でした。

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しかしその予想は外れ、リーズは試合開始から幅を最大限に確保した4バックでビルドアップを行うことに。

この4バックでのビルドアップがもたらす最大のメリットは、DFラインにおけるスムーズなパス交換です。これは 5-3-2 の配置的な特徴、ウルブスの守り方も大きく関わってきます。

5-3-2 の弱点、それは3センター脇のスペースです。このフォーメーションは中央を大人数で固められる分、サイドでの守備がWB1枚ずつと手薄です。なので、相手をサイドに誘導した後は3センターで同サイドに圧縮することが求められます。

当然空いてくるのは、逆サイドの3センター脇です。

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ですので「素早いパス交換から逆サイドの3センター脇までボールを運ぶことで数的優位を作る」、これが 5-3-2 の手っ取り早い攻略法です。

ただ、これは 5-3-2 を使って守備をするチームも十分承知の上です。そのため、守備側は3センターのスライドが間に合わなかった時の対処法も用意しておく必要があります。ウルブスの場合はWBを1列上げるアクションがこれにあたります。

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その対処法も事前分析で把握していたであろうリーズは、ウルブスのWBに対して両WGを深めの位置に張らせることでWBのピン止めを図ります。こうすることで、WBは3センター脇のスペースを埋めることができず、SBがフリーでボールを前に運べることができる訳です。

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更に4バックで後方からビルドアップを行う際は、サイドでパスを受ける選手(SB)の3センターから距離が遠くなるのもボール循環を向上させた1つの要因です。

後方を3バックにしてしまうと、2トップに対しては数的優位を確立できたとしても3センターの1人が1列上がってくるだけで、前からプレスをはめられます。大外の味方がボール保持者をサポートしようと低めの位置に降りてきても、WBをピン止めできていないので、簡単に対応されてしまう。

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3センターからの距離が遠くなったことで、より長い距離のカバーを3センターに強要させることができ、サイドチェンジの際に、受け手がたっぷりのスペースと時間でボールを運べます。

加えて、前述したようにウルブスはハイプレスをかける事が少なく、2CBに対するプレスが緩慢だった場合が多かったです。それもDFライン上で素早いパス交換ができた理由の1つと言えるでしょう。

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これらの要因が密接に関わりながら、5-3-2 に対する4バックでのビルドアップが成立し、ボールを相手陣地深くまで運ぶことに成功しました。

5-3-2 に対する4バックでビルドアップするメリット
・WBのピン止めから3センター脇を使う
・3センターからの距離が遠くなる所で前進が可能
・3バックだと、前からハメられサイドで優位性を保てない


フィニッシュまでのプロセス

先程紹介した4バックでのビルドアップで上手く前進できれば、次はアタッキングサードからどのようにしてシュートの段階にまでもっていくか、を考える必要があります。

ビルドアップが成功したとはいえ、ウルブスは守備原則がきっちりと落とし込まれた5バックを敷いていることもあり、崩すのは決して容易ではありません。

そんなウルブスの守備ブロックをリーズがどう攻略したかについて、この章で話していければ、と思います。

ここで1つ重要になるのが、「攻撃時のモビリティ」です。これはビエルサが展開するサッカーの最大の魅力とも言えるでしょう。噛み砕くと、「攻撃時に選手はどう動いているの?」ってことについてです。

リーズは攻撃時のポジションチェンジが本当に目まぐるしい。SBが気づけば逆サイドのハーフスペースに飛び込んでいることなどは日常茶飯事の出来事です。

ただ、こうしたリーズの動き方にはれっきとした原則、あるいはパターンが存在すると思われます。そうでないと、味方同士で動いているうちに混乱してしまう。

時折選手同士の動きがかぶったりすることはありますが、それも1試合を通して1、2回あるかないかの頻度です。

つまり相手にとってはとんだ「カオス」でも、攻撃してるリーズの選手自身からすると、恐らくいつものトレーニングで練習したことを試合で発揮しているだけ、みたいな。

昨シーズンの主力であったフォーショー(現在は怪我中)の証言によると、これらの原則は意外とシンプルなものなんだとか。現に、ビエルサ就任から1ヶ月ほどで今と似たようなサッカーを展開できていたので、選手からするとかなり呑み込みやすいものと思われます。

正直、自分はまだこれらの原則をまだ完全に理解できていません。対戦相手によって微調整している可能性も少なくないので、1試合ずつ分析しレビューを作成することで、シーズン折り返し、または終盤頃にリーズ攻撃時のモビリティの原則について体系化し、共有したいというのが今の自分の目標です。

少し話がそれちゃいましたね。ウルブス戦に話を戻しましょう。

前項目で紹介した3センター脇を上手く攻略でき次第、リーズは次に狙うエリアをWGの深さによって決めていました。

これはWGが

1、ボール保持者のサポートをしに来た場合
2、DFライン裏に駆け引きをした場合

の2パターンに分けられます。

前者の場合は相手のWBを釣り出せることになります。すると、自然と空いてくるのはWB裏のスペースです。ここにリーズの選手が飛び込んでいく、というのがまず1つの狙いであります。

これが使われるのは低めの位置、具体的にはピッチを横に3分割したときのゾーン2後方にあたるエリアから攻撃が開始された場合です。

理由としては、攻撃を低めの位置から始めた場合に相手をある程度自陣側に引き寄せることができ、DFライン裏にスペースが確保されるからだと思われます。

そのため、WB裏を狙う選手はパスを受けるや否や、スペースが十分に与えられた状況でドリブル、コンビネーションを仕掛けることができます。

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こんな時でもビエルサはディテールを欠かしません。この一連のプレーの流れから見られたのは、WB裏に走っていく選手のコース取りです。この選手たちは相手のWB-CB間を通り抜けることが徹底されていました。

なぜこうする必要があるのでしょうか。1つ挙げられるのは、WBの死角を必ずとるため、です。当然、相手のDFライン前でパスを受けるよりも、ライン裏で受けたほうが敵陣奥深くまで侵入できることは明らかです。

WB裏のスペースを狙う際はサイドでボールを保持している場合がほとんどなので、この動きを挟むことでWBが確実についてこさせないようにします。

CBが流れてきてWB裏のスペースを埋めようとすれば今度は中央が空き、リーズお得意の大外→ハーフスペースのプレーも可能になります。

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ほんのちょっとしたことでも、意図が見えて面白いですよね。こういったディテールは、自分が発見できていないものも恐らく多数存在します。リーズの試合を見る時は、間違い探し感覚でこういう点にも注目すると興味深いのかな、なんて思ったり。

更にこのWB裏狙いのプレーを掘り下げると、選手が頻繁に入れ替わりながら同じスペースを目掛けて動き出している場面が少なくないことに気がつくでしょう。

これまたリーズの魅力の1つでして、同じスペースに同じ選手がずっと「居る」のではなく「空けて使う」を繰り返し行うんですよね。

例えば、このWB裏を狙うプレー。IHがこの動き出しをしても、必ずパスがそこに出てくるとは限りません。ボール保持者の判断ミスであったり、単に出し手と受け手のタイミングが合わないなど、様々な理由が考えられます。

普通のチームならWB裏を狙ったとしても、パスが出なかったら動き出した選手はそこに留まってしまう、なんてことがほとんどだと思います。

ただ、ビエルサのチームは1人があるスペースを狙うと、その人が失敗した場合にすぐさま他の選手がまた同じスペースを狙うといった連動性が控えめに言って半端ないです。

IHがWB裏に走りこんでもパスが出なかった場合は、もう片方のIH、またはトップがWB裏に走り、再度このスペースでパスを受けようとします。

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しかも、この連動性はリーズが行う攻撃時のほぼ全てのプレーにおいて精通しています。リーズ攻撃時のモビリティにおける最大の特徴の1つと言っても過言ではないでしょう。

ここまでがWGがボール保持者に対してサポートに来た時に関してでした。次は2パターン目のWGが「DFライン裏に駆け引きをした場合」について見ていきます。

この場合はWBが後ろ掛かりな状態にあるので、シンプルにパスを出せる時点でハーフスペースに居る選手に預けます。

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ここからはコンビネーションです。実はこの大外とハーフレーンの2つのレーンに渡って行われるコンビネーション、簡単に聞こえますが、恐らくリーズの攻撃において最大の軸を握るカギであり、最も奥が深い要素だと個人的には思っています。

幾つか例は出しておきますが、深く掘り下げるとかなり長くなってしまいそうなので、これに関してはまた後日違う記事で紹介しようと思います。

こうして主に中央を避けた外からの攻撃を駆使し、ウルブスの守備組織攻略を図りました。

攻撃時のモビリティとその原則
・スペースを「空けて使う」の繰り返し
WGの高さによる攻撃
・WB裏への狙いとディテール
・シンプルなエリアへのパス


ヌーノの修正とその効果

少しリーズのことについて語りすぎましたね笑。ここからはヌーノが見せた修正をメインに話を進めていきます。

前半10分を過ぎた時点で、リーズの攻撃が上手くいっていたのは明白であり、先制は時間の問題と思われました。

そこでウルブスの監督、ヌーノは 5-3-2 の左CHのネトをWGにする 5-2-3 に変更します。では、この修正に伴ってどのような効果が現れたのでしょうか。

まず1つは、中盤でリーズに3vs2の数的優位を得られることです。ウルブスの2CHに対して、リーズは中盤に3枚(アンカー、2IH)を用意しています。

ウルブスのWGが高い位置をとり、5-2-3 化している場合はこの数的優位を使われ、リーズに中央で攻撃の起点を簡単に作らせてしまいました。

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撤退守備時にWGが下がって 5-4-1 化しても、結局WGには中央に絞ってリーズの中盤にパスを通させないことが求められます。となると、どうしてもサイドへのパスコースが空いてしまうことがあり、中央からもサイドからも起点を作られるという展開に。

更には、前線が2トップから1トップになったこともあり、1トップ付近でCBにボールをもたれるようになり、リーズはジワジワと攻撃を高い位置から開始できるようにもなりました。

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ただ、ネガティブな効果だけではなかったのも事実です。撤退守備時に 5-4-1 化することにより、5-3-2 で起こっていた3センター脇からガンガン運ばれるようなシーンは少なくなりました。

加えて、リーズは攻撃時にかなり高い位置までSBを上げるが故に、後方には2CBとアンカーの3人しかいないといった状況が多いです。攻撃を完結できれば問題はないのですが、コンビネーションなどでミスがあった場合は、このSBが空けたスペースは大きな穴となります。

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WGを用意しておくことで、SB裏のスペースをカウンター時に有効活用しやすくなった、というのも 5-2-3 におけるもう1つのメリットです。

ただ、前半の内は 5-2-3 のデメリットが勝り、リーズ圧倒という形で後半に移ります。

5-2-3 のデメリット
・中盤での数的優位を得られる
・中央、サイドで作られる起点
・1トップ付近でのボール保持
5-2-3 のメリット
・カウンター時のSB裏
・3センター脇からの攻撃の阻止


失点とその後の流れ

結果的に決勝点となったヒメネスのゴールは、やはりカウンターからでした。右サイドでリーズがボールを失った後、ヒメネスはすぐさまSB裏に動き直し、CBの死角側に。

そこへロングボールが渡り、カットインからフィリップスのディフレクションで失点。

ヒメネスのこの動きはキックオフから見られていました。ですので、これはリーズのマンマークに対して事前から用意されたものだと思われます。

一旦外側に回るといったひと手間を挟むことで、確実にCB間の距離を開くことができます。ゾーンではないため、SBもまずは敵陣深くにいるWGをマークしようと、少し高めの位置取りをします。

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となると、ロングボールが渡りさえすれば1vs1の状況が作れます。少々リーズ側のミスはあれど、完全にプランニングされたゴールでしょう。これはウルブスの流石の出来としか言いようがありません。

そこからウルブスは常時 5-4-1 の撤退守備に移行。スペースが閉じられた中、リーズは少し焦るようなプレーを見せだしました。

顕著だったのは、コンビネーションの際に簡単にチャンネルを狙う選手に対してパスを出してしまっていたことです。これにより攻撃がかなり単調になってしまい、相手にとっても守りやすくなってしまった印象を受けます。実際に失点もこのプレーでボールを失ってからの流れです。

加えて、後半の残り15分ほどCBを任されていたフィリップスも怪我をしてしまったため、CBの前へ運ぶドリブルが使えなかったのも手痛かったように思います。

結果、リーズ0ー1ウルブスでアウェーチームの勝利となりました。

・用意されたカウンターの形
・単調になりすぎたチャンネルへのコンビネーション


まとめ

こうやって試合を振り返ると、やはりペースを握っていた前半や後半序盤の内に先制できなかったのは痛手だったな、と思います。

ビエルサ自身も試合後のインタビューで「(前後半ともに)先制するには十分なチャンスを作っていた」とも話しています。

タラレバにはなってしまいますが、先制できていればウルブスを引き出せていたでしょうし、そこから生まれるスペースを使って追加点も狙えていたはずです。

ただ、試合開始10分足らずで機能していなかった 5-3-2 を 5-2-3 に修正し、マンマークに対するカウンターの形をきちんと用意していたウルブスも勝利に値します。

ですので、タイトルの「敗戦は偶然?それとも必然?」という問いに対して、アバウトな回答にはなってしまいますが、リーズが先制できなかったことを偶然、ウルブスの修正や準備を必然とすると、7:3で偶然の方が上回るというのが個人的な感想です。

ま、サッカーってそんなもんですよね。どれだけ圧倒していても、決めきれずにいるとカウンター1発ズドン!で試合が決まってしまう。

ボール保持の得意なチーム特有の「あるある」なのかもしれません。次節のアストン・ヴィラ戦ではどのような戦い方を見せたのか。そのレビューも乞うご期待。

今回は読んでいただきありがとうございました。面白かったよ、って思ったもらえたらぜひSNSで拡散よろしくお願いします。意見などがあればぜひコメント欄、Twitter にドシドシ寄せてください。今後とも記事をアップしていきますので次回も読んでいただけると幸いです。ありがとうございました。

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