ナーゲルスマン

~ライプツィヒの守備、バイエルンの攻撃から紐解くブンデス天王山~  Bundesliga Matchday 21: Bayern v. RB Leipzig

両チームのスタメンです。

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Ⅰ、バイエルン圧倒の前半。その理由を紐解く3つのポイント

前半の大部分はライプツィヒが決定機を作れないままバイエルンが圧倒するという展開になりました。ではなぜそうなったのでしょうか?その理由を紐解くためには3つのポイントを見ていく必要があります。①ライプツィヒの守備と1つの狙い ②バイエルンの攻撃と2人のキーマン ③ライプツィヒの2つの問題点 この3つです。

①ライプツィヒの守備と1つの狙い


ライプツィヒは守備時に5-2-3のような布陣を用いました。前線からプレスを掛けに行く時はエンクンクとヴェルナーがCBとSB間に入りパスコースを制限。バイエルンのトップ下と両ボランチに対してはライプツィヒ側も同様にトップ下と両ボランチの誰かがついて行くといった形でした。5バックにした理由としては後ほど詳しく説明するバイエルンの5トップ気味になる攻撃を対策した意図があると思われます。

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ライプツィヒとしては珍しく消極的に自陣でブロックを組んで守る展開も少しありました。その場合はエンクンクとヴェルナーが下がって5-4-1の布陣になっていました。

前線からプレスを掛けに行く。引いてブロックを組む。一見正反対にも見える守備の仕方ですが、そこにはある共通意識がありました。それは「奪ったらSB裏」です。ここでは具体的に13:21のシーンを見ていきましょう。

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縦に急ぎ過ぎたバイエルン。ライプツィヒはボランチのスライドで対応し、エンクンク目掛けてSB裏にロングボールを蹴りこみます。実際に試合の映像を見てもらうとお分かりの通り、ライマーはボール奪取後すぐさまエンクンクの位置を確認しています。この一連の動きからライプツィヒの用意してきた形が見えてきます。

前半の内は守備がうまくハマっていなかったのもあり、このような機会を再現性高くは出来ませんでしたが、後半ではナーゲルスマンによる修正が効き、SB裏をとる動きから60:15や、この試合ライプツィヒ最大のチャンスといえる62:07のようなシーンを作り出します。(前半の内は守備がうまくハマっていなかった理由、後半からの修正については後ほど詳しく解説します。)

②バイエルンの攻撃と2人のキーマン


続いて前半のバイエルンの攻撃についてです。基本4-2-3-1をベースにはしているものの、かなり流動性の高い攻撃を見せてきます。どういう仕組みなのか。まずは基本的な攻撃の形から見ていきましょう。

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このように幅は両SB、ハーフスペースには両サイドハーフ(以下SH)が外から入ってくる、中央はレバンドフスキ、このように5トップ気味に攻めてきます。5レーンにきちんと選手を配置しているというのがよくわかると思います。ここで重要になってくるのが、この5トップの形が必ずしも固定ではないということです。具体的なシーンとして挙げられるのは開始早々4:15のシーンです。

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ここでは通常であれば幅をとるはずの左SBデイビスが上がりきれていませんでした。バイエルンの選手たちはそれにどう対応したのか。まずニャブリが幅をとります。その後ミュラーが右ハーフスペース辺りから左ハーフスペースあたりまで猛ダッシュで流れ、ゴレツカが右ハーフスペース目掛けランニングといった攻撃です。このシーンの前の1連の流れから、ゴレツカがピッチの右側に位置している+チアゴは後方に残ったまま、といったのを確認して、左ハーフスペースをとる人がいないと判断したミュラーによるランニングでしょう。サッカーIQの高さがうかがえます。そのランニングに呼応するように右ハーフスペースをとったゴレツカも同様に、です。もう1つこのシーンから伺えるのは、死角をとる斜めのランニングの効果についてです。斜めに走ることによって、ゴレツカにアンヘリーノがついていかざるを得なくなり、結果的にバイエルン3人で相手DF4人をつり出しているので右で幅をとっているパヴァールがフリーになっているのが見てとれます。

このようにチームメイト全員が「誰がどこにポジショニングすればよいのか」共通意識を持っているのがバイエルンの攻撃においての強みと言えるでしょう。

ビルドアップの形も見ていきましょう。バイエルンは2CBのボアテングとアラバ、ボランチのチアゴとキミッヒ、そしてタイミングを見計らって降りてくるゴレツカを中心にビルドアップをしていきます。

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ここで2人のキーマンを紹介します。チアゴとキミッヒです。両者共通しているのはプレス耐性とクサビのセンスが尋常ではないという点です。ビルドアップにおいてこの2人は開いたCB間に降りて3バック化したり、CBとSBの間に降りてボールを受けたりと、ビルドアップから相手陣地へ侵入するバリエーションをかなり豊かにさせていた印象があります。ビルドアップである程度前進して相手を押し込んだ状態ではタイトなマーク、狭いスペースの中でクサビを入れて攻撃を加速させていました。この後の③や以下Ⅱ、Ⅲでもより細かく説明しますがこの2人がこの天王山のカギを握ることになります。

③ライプツィヒの2つの問題点

①ライプツィヒの守備と②バイエルンの攻撃と2人のキーマンを照らし合わせるとライプツィヒの2つの問題点、しいてはなぜバイエルンが前半あれだけ圧倒したのかを理解することができます。

1つ目の問題点は相手SBに対するケアです。下図をご覧ください。

相手SBケア

ボールロスト直後やコース切りが悪かった時はエンクンク、ヴェルナーが抑えるはずの相手SBにボールが渡ってしまう事が多々ありました。この場合はウィングバック(以下WG)がSBに出ていき、3バックがスライドして対応するというのが最善策です。しかし、今回の試合でWBに起用されたのは加入して間もない上に試合感覚も乏しいアンジェリーニョと通常であれば右インサイドハーフに起用されているためSB慣れしていないアダムスでした。そんなこともあり、試合序盤はマークの受け渡しに戸惑いが生じ、特に相手SHが幅をとっている時には出ていくことができず、簡単にサイド突破を許してしまっていました。

このような状況になってしまうと、ボランチのスライドが必要となってきます。しかしそうしてしまうと今度は逆サイドに広大なスペースが開いてしまうといった悪循環が発生します。格下相手であれば話は別ですが何といっても相手はバイエルン。1人1人の選手の質が高いのでサイドチェンジをされ、チャンスを作られます。具体的には上図に表した4:10などのシーンです。

ボランチスライド

2つ目の問題点はボランチ脇です。

前半35分くらいまでは何度もボランチ脇を使われていました。14:20のシーンを見ていきましょう。

ボランチ脇

様々な形でビルドアップを試みるバイエルン。CB周りでボール回しを助けるチアゴやキミッヒに対してWボランチの1角が出ていってしまうと中盤がガラ空きになってしまいます。前半ではその空いたボランチ脇あたりにレバンドフスキやゴレツカが降りてきて前を向き、大ピンチになるシーンが多かったです。その後の14:40のシーンも先程のレバンドフスキの役割をゴレツカがこなしている形となっています。

ボランチ脇をつく形は時と場合によって様々なバリエーションがありライプツィヒを苦しめていました。しかしすべての場合で共通しているのはチアゴ、もしくはキミッヒから縦のボールが供給されるということです。これも僕がこの2人をキーマンとして挙げた大きな理由の1つです。エンクンクとヴェルナーの役割はCBにプレッシャーをかけるというよりかは、CBからSBへのパスコースを切るだけでしたので、前半を通してCBから両ボランチへのパスがいとも簡単になされていました。②でも述べたようにプレス耐性が強いこの2人にはパスを出された時点でもう手遅れです。瞬時に前を向かれ縦パスを前線に入れられてしまいます。前半はチアゴとキミッヒを抑えられなかった時間帯という印象がかなり強いです。ビルドアップにおいても相手を押し込んだ状態においても非常に重要な役割をこなしていました。

さて、この問題点に対してどういう修正をしてくるのかが後半の見どころとなってきます。

Ⅱ、ナーゲルスマンの修正から生まれる好循環とその抜け道

後半開始から1分30秒、ライプツィヒ側のある変化が見られます。今までであればSBからCBへのコースを切る役割だったエンクンクとヴェルナーが始めからCBをマークしています。キミッヒ、チアゴに対しても25と27がかなりタイトについて行き、SBに対してはWBが果敢に出ていっているのがわかるかと思います。試合の映像を実際に確認していただくと分かるのですが、ノイア―が近くのボアテングに出そうとしています。前半では簡単にボールを渡せていた選手をライプツィヒは前から抑えてきました。

前からプレス

ナーゲルスマンが施してきた修正を整理します。

1、両トップが相手両CBをマーク                 2、相手SBにはWBが出ていく                   3、前半自由にさせていたチアゴとキミッヒには25と27を予め設定し、激しくついていく。

この3つにまとめられます。その後も49:25、58:18のシーンを見ても同じような状況がピッチ上に現れています。この修正によりチアゴとキミッヒにボールが入らなくなり、バイエルン側としてはショートパスによるビルドアップが前半と比べて格段にしにくい状況になります。とてもシンプルかつ効果的で合理的な修正。流石ナーゲルスマンといったところです。

しかし、この修正にもとある抜け道のようなものが存在します。勘の鋭い方はお気づきかもしれませんがWBを上げることで後方が3対3の数的同数になってしまいます。後方では少なくとも1人多い状況にしたいところですがそのリスクを背負ってまでプレッシャーをかけに行く選択をしたナーゲルスマン。62:16のシーンを見てみるとミュラーにつられたCBのスペースをゴレツカに使われているのがわかるかと思います。このように1人つられてしまうとカバーができない状況になってしまうのがかなり厳しいところです。

前からプレス(数的同数)

修正抜け道

結果的にはこの修正が効き、後半はライプツィヒペースになっていきます。後方からつなぐ意識の強いバイエルンはなかなか62:16のような場面を再現性高く作ることができずに、幾度となくカウンターを受けることになります。ライプツィヒ側としては狙いであった相手SB裏をつける回数も増えました。ライプツィヒ側としてはチアゴとキミッヒにボールを入れさせず、ペースを握った後半と言えるでしょう。このまま試合終了までライプツィヒがおす展開になると思われましたがラスト10分で形勢が逆転します。

Ⅲ、後半ラスト10分と試合後のリアクションから見えてくる今回の試合におけるライプツィヒの狙い

ライプツィヒがかなり前がかりにプレッシャーをかけにいったことで後半のペースをつかみましたが、ラスト10分では一転して5−4−1でブロックを組む守備をする場面が多かったです。後半を通して相手がボールを保持する位置に関係なくプレスをかけに行っていたライプツィヒですが、両CBや両ボランチを追っていく場面は圧倒的にこの時間帯に少なくなりました。ただ1つ微調整していたように思うのがこれまた両SHの位置です。前半たくさんチャンスを作られている時はCBとSB間に位置していましたが、ここではCBは放っておいてSBの前に位置するようになりました。こうすることでCBと両キーマンにはかなり自由を与えますが、前述した2つの問題点、SBとボランチ脇はWBを上げずとも抑えることができます。実際にゴレツカの大チャンス以外はバイエルン側に決定的なチャンスを1つも作らせませんでした。

後半での修正は上手くいっていたのになぜ消極的に守備ブロックを組む判断をナーゲルスマンは下したでしょうか。これは戦術云々ではなく今回の試合以前の両チームの状況が関係しているのではないかと僕は思います。

バイエルンはリーグ戦3連勝と上々の出来で首位。対してライプツィヒはカップ戦含め3戦未勝利、しかも前節には首位陥落とバイエルンとは正反対です。その上この試合はバイエルンホームであるアレアンツ・アリーナ開催ということでナーゲルスマンとしては勝利を収めることができなくても引き分けで十分といった思考になるのも理解できます。それがこのラスト10分での展開を生んだと僕は考えます。試合後に数秒ですがちょっとしたガッツポーズをするナーゲルスマンの様子が映りました。このリアクションをみても勝利は手に入れられなかったが、結果には満足しているということが察せられるのではないでしょうか。このラスト10分、ライプツィヒ側もバイエルン側もチャンスを作れぬまま試合が終わりました。首位奪還のためにもっとアグレッシブにいってゴールを狙うべきだったという見解も、上手く試合を締めたという見解もできると思います。ここに関しては皆さんの自由ですが、僕は後者を選ばざるをえません。初めての首位争いをするナーゲルスマンにとって、アウェーの地で天王山という状況で0−0の結果は十分すぎる、そう個人的に思います。

Ⅳ、総括


今回は特にバイエルンの攻撃面とライプツィヒの守備面、後半の修正にフォーカスして1試合をレビューしてみました。この記事で書いた事を端的にまとめたいと思います。


Ⅰ、バイエルン圧倒の前半
①ライプツィヒ守備
・ブロックを組む5−4−1
・前からプレスをかけに行く5−2−3
・5−2−3時は両WGがCBとSB間に位置
・5バックは相手の5トップ気味になる攻撃への警戒
②バイエルンの攻撃と2人のキーマン
・基本は4−2−3−1がベース。
・SBが幅、SHが中に絞ってハーフスペース担当
・チームメイト全員が持つポジショニングの共通意識
・尋常ではないプレス耐性とクサビのセンスを持つ2人のキーマン、チアゴとキミッヒ
・ビルドアップにバリエーションをもたらす+攻撃を加速させるキーマン
③ライプツィヒの2つの問題点
・相手SBに対するケア
・慣れない両WBから生じるマーク受け渡し問題
・ボランチ脇のスペース
・CBから簡単に両キーマンにボールを入れさせてしまう守備構造

Ⅱ、ナーゲルスマンの修正から生まれる好循環とその抜け道
・2トップを相手両CBにつける
・両キーマンには25と27が予めついていき、かなりタイトにマーク
・ビルドアップをしにくくさせるのではなく、させない修正
・後方が数的同数になり、カバーができない
・ライプツィヒは狙いのSB裏をつけるようになる

Ⅲ、後半ラスト10分と試合後のリアクションから見えてくる今回のライプツィヒの狙い
・5−4−1でブロックを組む守備に戻ったライプツィヒ
・SHの役割を変更
・前半と同じような展開になり、押し込まれ続けるもチャンスは作らせない
・直近の試合で結果がついてこないままむかえた天王山
・引き分けでも十分満足できるライプツィヒの状況

次回予告

今回全くといっていいほど触れなかったバイエルンの守備とライプツィヒの攻撃面についてを次回書いていきたいと思っています。バイエルンの守備はかなりベーシックなものだったのですが、ライプツィヒの攻撃面がとにかく凄かったです。5−4−1から4−3−3の可変式。自分はこんな大胆な可変を見たことがなかったので最初は自分の考えに疑問を持ちましたが、何度も繰り返し試合を見ているとそうにしか思えなくなってきました。そこから読み取れるナーゲルスマンの意図などもあったので、ぜひ次回の記事もご期待ください。

今回は読んでいただきありがとうございました。面白かったよ、って思ったもらえたらぜひSNSで拡散よろしくお願いします。意見などがあればぜひコメント欄、Twitterにドシドシ寄せてください。今後とも記事をアップしていきますので次回も読んでいただけると幸いです。ありがとうございました。

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