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【開催報告】10/15(木)「スナックひとみvol.005」画家・コーヒー焙煎人 中川ワニさん

「スナックひとみ」も開催5回目になりました!2020年10月15日にお迎えしたのは「伝説の焙煎人」と呼ばれるコーヒー焙煎人の中川ワニさんです。個人焙煎人で熱いハートを持ち、各地でコーヒー教室も開催するワニさん。アートと音楽(特にジャズ!)もご専門分野なワニさんの香り高い深煎りローストなトークにお客様も引き込まれてしまったようで、なんとも良い時間でした。

1. 独立焙煎人のお仕事

中川ワニさんは世間ではちょっと珍しい個人焙煎人でいらっしゃいます。ご自宅に焙煎機を持ち、全国のコーヒー店などに卸し、さらにコーヒー教室や新しい喫茶店立ち上げのコーヒーの味を作ったり、珈琲店のスタッフさん向けの「調理」指導やローストの指導もされています。いつも自宅で仕事をしているので、実際に外に出てひとと会うことをとても大切にされているとか。

ワニさんは、「スナックひとみ」のひとみママがいつもお世話になっている文京区の八百コーヒー店さんにコーヒー豆を卸しておられることがきっかけでお会いする機会があり、ひとみママもたまにおしゃべりしたりしている方。いつもワニさんのお言葉はたくさんの気づきがあって深いなぁと思っていたのですが、とうとう私たちのオンラインスナックに来てくださることになったのでした。

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2. コーヒーはコミュニケーション

画家でもありジャズにも造詣の深いワニさんにとって、コーヒーとはどのようなものなのでしょうか。「絵を描いていたとき覚えたことだけれど、絵の学校は絵を描きに行くだけのものなので、余分な自己紹介などの「前振り」がいらない。「絵」そのものを介して人と繋がる。それをコーヒーを通してやっている」とワニさん。

コーヒーは世界中のひとが飲むもの。その国の言語ができずに現地に入って行くときも、コーヒーを一つのタームとして入っていきます。コーヒーがある場所に入っていくから、コーヒーを介して会話を始めていけばいいのである意味楽な面もあるのだとか。

3. ビジネスとしてのコーヒーではない~ラオスで出会った風景と村の人々

ワニさんが最初にラオスに行ったきっかけについて教えてもらいました。「最初、ラオスでローストしている日本人がいると聞き、その豆をもらった。家で淹れたとき、ものの居住まいや感触がすごいなと。なかなか日本ではお目にかからないものだと思った」そのひとはローストのことで悩んでいたそうで、紹介してもらってお会いしたのだとか。そのひとの作るコーヒーを、ワニさんはとても美しいと感じたそうです。「コーヒーが美しいということはかなり大事。美しいものを作るのはどういうひとか知りたくなった」その人と一度東京で会い、その後生産地のラオスへ行ったのだそう。

ラオスでの経験はワニさんにとってインパクトの大きいものでした。「コーヒーにまつわる色んな風景をその人を通して見せてもらった」

でも、コーヒー豆ひとつとっても単純なものではありません。見た瞬間、それがどのようなものであるかきちんと把握できることもあれば何にも把握できないこともあるとワニさんは言います。「後になって、その人が僕に見せてくれた風景には大切なものがたくさん含まれていたことに気づいた。単純なビジネスの入り口でなく、人との入り口をちゃんと見せてくれた。だから、いまだに感謝しているのは単にビジネスだけで入っては見えない風景が見えたこと」

その後もワニさんは4〜5年続けて人と会うことを目的にラオスへ。コーヒーに関わっている人と会い、何年かすると顔なじみになってきます。ビジネスというよりコーヒーを知りに行くという感覚なのだとか。

何度も同じ場所に通ううちに、見えてきたものがあるそうです。「多くの国が多民族であるということは非常に重要なこと。それを肌で感じられた」多民族国家ならではの生活や言語、社会文化など、多くの面で勉強になったとか。それもまた、ビジネスという側面から入っていったら見えにくいものだったとワニさんは言います。そしてこの経験が自分の仕事の中に必ず入ってくるのだそうです。

4. 何が豊かさなのか考える世界

ワニさんがラオスで訪れた村はとても小さく、グローバルなコーヒービジネスに乗っているような生産地とは一線を画した場所です。小さな村はほとんどがコーヒー農家。ワニさんのような外国人が訪れると最初は警戒心を持たれてしまうので、信頼関係を作るというのはどこの国においても同様に大切とワニさんは考えます。ラオスはもっとも東南アジアらしい風景を色濃く残しています。

「昔のラオスと今のラオスが同時に味わえるチャンスは今を除いてもうないのではと思っている。ベトナムは経済も先に進んでいて、ハノイなどはある意味あまりアジアっぽくないと感じた」

多くの国で経済成長とともに格差を隠したり貧しいものに蓋をしたりする傾向があるなかで、東南アジアはそういうものがむき出しだと感じたそう。貧しい人も豊かなひともある程度のラインで見えてしまう。そこが面白い。都市部も農村部も同様とワニさんは言います。

経済的に潤えばその国が豊かになるのかというのは別の問題。コロナのロックダウンで経済活動が制限されたところで、人が活動しなかったらガンジス川が綺麗になるなどの現象が各地でおきました。「そういうところから何を拠り所に何を面白がっていくか、より良いものにしていくかというヒントが多く隠されていたのではないか」2020年、ワニさんはそう感じたそうです。

5. 情報の掴み方、実際にどう動くのかが大切

現代は情報が溢れている時代です。「これから情報の掴み方は大切になる。偏ったもので数さえあれば良いということはない」偏った情報に惑わされずどのように大切な情報を掴み取っていくのかということに、ワニさんはいつも耳を済ませています。

さらに大切なのは、行動を起こすこと。「実際にどう行動するのかというのがとても重要。これからは単純にどこの国に行くというよりは、そこで生きているアイデンティティを持った個人とちゃんと繋がってやっていくというのは大事」とワニさん。肌で感じる情報とそうでないものには大きな乖離があります。例えば、日本語の言語だけで調べられるものは幅が狭く、情報に偏りがある。多角的な視点があまりない。「全然違うものがたくさんそこに漂っているということが大事。日本語の中できまった場所に押し込められてあるという感じがするのは危険だと思った」とは、直接何度も現場に足を運んでワニさんが感じたことでした。

6. 「縁」のつながり

ワニさんが旅で一番大切にしていることは「縁」。縁と縁が重なり合っていったい自分に何が見えてくるのかというのがとても大切なこと。

現地に出かけるときも、先に情報を得るのではなくそこにあるコーヒー豆を見て感じ取ります。「自然になっているコーヒー豆というのは今はほぼないので農家が栽培してできたものを収穫している。その場所の季節も土地も表し、ひとがどのようにそこに携わっていくのかがだんだんわかってくる」

現地に行って農家のひとたちと品評会はしないとワニさんは言います。「自分は今何が必要か。その場でその豆をザルでローストしてみんなで飲んで、色んな意見を交わしていく。好みの押し付けをするのは簡単だが、そうでないものがあったときにそこから何を見いだすのかというのがすごく面白い」自分が想像していなかった味に出会ったときにどういうことを判断するのかというのも面白さなのです。

自分が行くところはローカルな場所で最先端のコーヒービジネスはない。ハイクオリティのコーヒーは選別をかけられるが、外されたものに宝物はないのかと考えるとワニさんは言います。「落ちたものが、ある時代には美味しくなかったが、今の時代にアップデートされ当時の価値観ではなく今の価値観で捉えていくことができたら、美味しさの違う発見があるのではないか」というワニさんならではの視点は、大手コーヒービジネスとは一線を画すアプローチなのかもしれません。

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7.  何を求めてコーヒーの村に入るのか

一般向けのコーヒー農場体験などで多くの人が生産地を訪れる昨今。ワニさんは「それで本当のところに行けるのかというとそれは別」と言います。農場体験はさくらんぼ狩りのようなもの。「それで十分なひとたちもいるが、何を目当てにしていくかによって違う」

では、ワニさんはどのようなコーヒーを求めて村に入るのでしょうか。「自分は<生命感>があるものを求めて村に入っていく」とワニさんははっきり言います。

「コーヒーは種子。今やろうとしていることは、生命感のある土の栄養を吸収しているものに出会うこと。美味しい生命感あふれるものは水が良かったり育てられた気候も良かったりする」こうして、注意深く感じ取るコーヒー豆の性質をだんだん頭で理解するのではなく体全体で理解することができてきたというワニさん。「目先で味を作るのではなく、体そのものに入っていくというときに生き生きしたものを作りたい。単純なヘルシー思考ではなく、無農薬というのでもなく、もっとそこに生きるエネルギーがつまっているものというのが多分人の体にはいいのではないか」生命感のあふれるもの、そのものを自分の体に入れていくということ。コーヒーを飲む喜びはそのほうが大きくなります。

果たして私たちは、健康で生きるために本当に生き生きしたものを摂取しているか?一体何がほんとうに体に良いものなのでしょうか。

それはさておき、生命力のあるコーヒー豆に出会う丁寧な仕事をしているワニさんですが、世界の全貌を自分だけで見渡せることはできません。ひととコミュニケーションを取るのはとても時間がかかるものです。

「時間かけなきゃいけないものとスピーディにやるものの両方がある。時間をかけなくては生まれないものがある。その辺の塩梅は面白いが、それを肌で感じ始めたら残りの人生の時間を考えなくてはならない年齢になってきた」とワニさん。「あらゆる芸術も同じだと思うが、どんなすぐれた天才でも途中で死んでいく。だから日々が大事なのではないか。そのときできることを出し惜しみせずにやること以外にない。それが次のエネルギーにつながる。出し惜しみをしているひとにエネルギーの確保はできない」ワニさんはコーヒー豆を通じてその日々の大切さ、エネルギーを注ぐことの重要さを感じているようです。

8. 焙煎人としてどのようなものを伝えたいか

コーヒーは世界中で身近ですが、生産者側の話は十分に伝わっていない部分も大きいのではないでしょうか。コーヒー焙煎人として、ワニさんが伝えたいことは何か伺いました。

「僕はなるべく、間に変なものが混じらないダイレクトなものにしたいと思っている。大きな分母のものができるものと、小さなものでもたどり着けるところが十分広いこともある。そこを上手に住み分けながら、エネルギーを削がずにできる方法はないかと思っている」

ワニさんから見ればダイレクトに感じられるコーヒーそのものが伝えるメッセージこそとても大切。「コーヒー豆は作っているひとたちの努力した形。飲む側にとって大切なのは、押し付けがましいものはいらないということ。コーヒーの説教やうんちくというのはいらない。理屈を超えて、これ苦手これは美味しいというリアクションのみ。本当に美味しいものを、わあ美味しいと言える単純な動機を作るために何をするか」とワニさんは言います。

そのためには、やらなくてはいけないことがいっぱいあります。自分が百万回大地のエネルギーについて語ったとしても、やはりそのものから直接伝わってこなくてはいけない。「人が飲むものを作っているからそのときにそのエネルギーが生まれていくものを作りたい」

9. 心に残る一杯

ここから先は、参加者の方も会話に参加できるオープンセッションに。(動画では公開されていません、悪しからず!)ワニさんにとって、「心に残る一杯」はどんなものだったのでしょうかと尋ねました。

「ビエンチャンのとあるマーケットで出会ったおばちゃんが入れた珈琲。そこで暮らす人が日々飲んでる珈琲。ラオスのコーヒーは練乳つかってとても甘い」とワニさんは思い出を語ります。「おいしいものには意味がある。その土地ではそれをおいしくする調理法を必ずもっている」あるとき作り方も教えてくれたけれど、「ある程度」は再現できるものの、やはりあの時の味そのものにはなりません。ワニさんにとって、そのときの一杯はまるで「生きる喜びを得られたぐらい楽しかった」のだそう。

10. 「美しい」コーヒー

ワニさんがいちばん大切にしているものは何でしょうか。「<美しさ>は全てにおいて大事」とワニさんは断言します。コーヒー豆そのものの美しさもコーヒーを作る流れの美しさも大切。「それらをシンプルに見せていくことが大事であって、どこのポイントがかけてもいけない」

ワニさんは、凝ったハンドローストというよりも「調理」という感覚が大切と考えています。毎日自分の手を経て飲む「調理」を楽しんでくれるひとが増えると嬉しいのだとか。

伝説の焙煎人と呼ばれ、実は全国にファンも多いワニさん。コーヒーを通じて、生きることの大切な部分を見ているその深煎りのメッセージは、聞いているひとにダイレクトに届けるコーヒー豆の生命力のような美しさだったのかもしれません。

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■ゲスト

画家・コーヒー焙煎人 中川ワニ さん
「伝説の焙煎人」〜コーヒーは人と人とを繋いでくれるコミュニケーションツール〜

石川県生まれ。94年「中川ワニ珈琲」を立ち上げる。ブレンドによる豆の個性の多様な引き出し方と、シティ・ローストの味わいの深さに魅了され、全て混合焙煎(ロースト前に豆を合わせる)、シティ・ローストにて作り続けている。焼き上がったコーヒー豆の美しさ、香り、旨味、後味の余韻が特色。実店舗を構えず自宅兼アトリエに8kg焙煎機を持ち、注文に応じて届けるいわば個人焙煎人のパイオニア。全国各地に根強いファンを持つ。焙煎のかたわら各地でコーヒー教室を行ない、インドネシア、ベトナム、ラオス、タイなど各地のコーヒー産地を巡っている。無類のジャズ好きでもある。

Facebookページ https://facebook.com/cottoriwa23


著書:

『とにかく、おいしい珈琲が飲みたい』主婦と生活社

『「中川ワニ珈琲」のレシピ 家でたのしむ手焙煎(ハンド・ロースト)の基本』リトル・モア

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「スナックひとみ~世界とつながるひととき」

スナックひとみは開発コンサルタントが
異業種の方をゲストにお迎えするオンラインスナックです

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