見出し画像

スナックかすがい第十三夜「よ!場づくり名人」体験記【前編】

Text by ひらばやし ふさこ | Fusako Hirabayashi
Photo by 伊藤 愛輔 | Aisuke Ito

「この世を去る時に『楽しかった~』と思いたいから。『ああ、よかった。何ごともなくて』じゃなくてね」

1年半ほど前、友人はそう言って勤めていた大企業を辞め、少し前に立ち上げていた自分の事業に注力し始めた。その後、彼が運営する瓦割り体験処「瓦割りカワラナ」は次々にメディアに取り上げられ、人気俳優の石原さとみさんとのCM共演で話題をさらう。瓦割り体験と並行して数々の企画を立ち上げ、2020年2月現在、その数は22に及んでいる。

その友人、川口民夫さんが、複業研究家の西村創一朗さんと対談するという。
タイトルは「よ!場づくり名人!~多芸多能なワクワクメーカーの脳内散策~」

画像1

「これは聴きに行かなければ」と思い、“スナックかすがい”とは何ぞや?と調べてみた。春日井製菓さんが主催している月一回の対談イベントで、“かすがい”は春日井製菓の「春日井」と「子は鎹(かすがい)」の「鎹」をかけているのだそうだ。

画像2

春日井製菓のwebによれば、”スナックかすがい”は「好奇心旺盛な大人たちが、生ビールとグリーン豆をお供に、気になる人の気になる話を聞いて楽しむ社交場」とのこと。社交場。もう一度、言う、社交場...。

なんと、参加費1,000円で生ビール飲み放題!ビールの飲めない私は仲間に入れていただけるのだろうか?連れがほしくてビール好きの友人に連絡したら「何それ?マジ?行く!」と即答。当日会場で落ち合うことに。


いざ、”かすがい”の場へ

イベント会場はWeWork新橋。7階建のビル全体がWeWorkで、春日井製菓のマーケティング部のオフィスがここにあるという。

新橋駅から会場に向かう途中、友人から「ごめん!体調悪くて早退した。今日は行けん」とのメッセージが…。開催案内には、対談の後に“かすがいタイム”なる交流タイムが設けられていると書かれていた。そう、社交場ですものね。社交的な友人にくっついていれば大丈夫と思っていたが、人見知りの私一人では壁の花になりそうな予感満載。

画像5

画像6

恐る恐る会場に入り、受付でIDカードの代わりに豆の袋が下がったストラップを受け取る。それを首にかけてドリンクカウンターへ。ビールを横眼に、静岡市協賛という水出しの日本茶をいただいた。静岡市銘茶「つゆひかり」旨い!

スライド6

スライド7

仕事帰りらしい参加者が続々とやってきて席は埋まっていった。一部ではビール片手に名刺交換が始まっている。気配を消して、空いていた前の方の席に静かに座った。

スタートは”プチかすがい”から

“スナックかすがい”のシステムの説明後、マスターの豆彦さんの音頭で参加者全員で乾杯!

画像7

民夫さんと西村さんの軽い自己紹介に続いて、豆彦さんから今日の第十三夜は第十二夜のゲスト紫乃ママへのアンサーソングである旨の説明があった。

豆彦: 第12夜でゲストの紫乃ママが「コミュニティは主催者になった方が楽しいよ」っていう話をしてくれました。つまり今日で言うと僕がいる側に、スナックで言うとカウンターの中の側に立ってみると視界が違うよ、という話です。
そして、自分以外に二人集めたら、もうそれでコミュニティだよ。三人集めたらコミュニティだよっていう話をしてくれたんですよね。それ僕すごくいいなと思ったんですけど、「やってみたらいいじゃん楽しいよ」って言われても、なかなか難しいんじゃないかなって。
そう思った時に、コミュニティ創りとか場創りがうまい人を呼んで、「どういう風にやってるの?」なんて聞くことで、更に一歩が踏み出しやすくなるんじゃないか、という想いから、このお二人に来ていただきました。なので紫乃ママのアンサーソングって形で、今回設定させていただきました。

画像21

ここでいきなり、1回目の“かすがいタイム”。席の近い4,5人で自己紹介し合う。「連れで来た同士はダメですよ~」との豆彦さんのアナウンスに、上司と部下らしい隣席の二人が慌てて移動。人見知りの私もお茶と豆を手にお仲間に加えていただいた。

画像8

画像9

画像10

早速、自己紹介して名刺交換。みなさん礼儀正しくフレンドリー。自己紹介のお題の一つは今日の参加理由。若いビジネスマンが「上司が前回参加して『よかったから』と誘われて」と笑顔で語る。さきほど席を変えていたのは彼の上司らしい。”スナックかすがい”にはそういうリピーターもいて、そこからまた広がっているのだな。一つひとつのかすがいの連なりが、いつか大きな建造物になるのだろう。

普通の人が普通に楽しい社会を

スライド24

本編は川口民夫さんの経歴紹介から。「学生時代に70ヵ国以上を旅して」というところで、会場から一斉に「えー!70?」の声があがる。「帰国して日本超いい国と思った」には「へー」の大合唱。ビールの影響か、先ほどの“かすがいタイム”の効果か、しょっぱなから会場の一体感が半端ない。

民夫さんの経歴に戻ると、大学卒業後、1社を経てリクルートジョブズに入社。その理由は「営業力をつけたかったから」。ここで豆彦さんから「営業力が大事だと思ってリクルートに入って、なんで瓦割りなの?」というツッコミが。

民夫: 手短にまとめると、リクルートで20代から30代前半まではすごく成長感を持ちながら楽しくやれたんですけど、30半ばぐらいから面白くないなっちゅうか、楽しめてないなっていう自分がいて。たまたま縁あって瓦割りをしに行った機会があって、瓦割りしてみたらむちゃくちゃ気持ちよかったんですよ、むちゃくちゃ。朝、瓦割りしに行って、その気持ちよさっちゅうか、この高揚感が夕方ぐらいまでずっと続いてるような。

西村: 
すごい!一日持つんですか⁈

民夫: うん、これはむちゃくちゃやばいなと思って。その体験があって。

画像12

初めての瓦割り体験の4ヶ月後、民夫さんは自分で合同会社ハハハを立ち上げる。その時はまだ何をやるかは決めていなかった。「会社立ち上げたんだよ、スゴイだろ」と言っている時に、瓦割り体験処の主催者が高校の同窓生だったことを知る。ご縁が繋がって翌年、浅草で「瓦割りカワラナ」を始めた。

スライド26

豆彦さんが用意したカワラナのこのスライドに「すごいとこ、持ってきますね」と感心半分呆れ半分の民夫さん。(※ゲストはどんなスライドが映し出されるか一切知らされていない)
豆彦さんからの「これ、儲かるんですか?」とのツッコミに、「儲からない。瓦高いですからね」と返すと、「儲かんないのにやったの?」と豆彦さんが畳みかける。

民夫: あんま考えてなかったですね。その時はまだリクルートに勤めてましたから、副業で僕自身が楽しく暮らすことを大事にするために会社立ち上げていて、やってるサービスが誰かを楽しくさせることであれば、やったほうが世の中的にいいことだから。あくまで兼業の位置付けでサービスを始めてたんで、始めてみたらやっぱ儲かんねえなと。そういう順番です。

画像14

瓦割りを始めるずっと前から民夫さんのベースはいつも「自分が楽しく、周りも楽しく」だったよなぁと思っていたら、豆彦さんもそこはしっかり押さえていた。

豆彦: 僕、知らないふりして聞いてますけど、実は結構調べたんで知ってるんです(笑)。民夫さんって最初からビジネスとして、ターゲット設定とか価格設定とかを周到にしてやってたわけじゃなくて、割と趣味とか部活みたいな感じで人を集めてたんですよね。

ここでスライドに「カタカナ読書会グループ」登場。

スライド28

「ここがオリジンじゃないですか。2003年からでしたっけ?」と訊く豆彦さんに、「ここオリジンじゃなくて。2003年は間違ってないんですけど、2003年にプレゼンサークル始めたところが最初です」と民夫さん。

ここでまたしても豆彦さんのツッコミが。

豆彦: 何、寂しかったの? 一人でやっててもいい、趣味って言えば済むのに、みんなを巻き込むじゃないですか。

民夫: ……、うん、たぶん寂しいんだと思うんですよ。

西村: 正直っ!(笑)

画像16

最初からずっと、民夫さんの話の切れ目に西村さんがプスッとひと言入れてくる。豆彦さんのツッコミ、民夫さんの返し、西村さんの挟み。それがリズムを作って、軽妙にトークが続いていく。

画像18

民夫: いや、寂しいっていうのも否定しませんけど、それよりも単純に、みんなでやったほうが面白いと思ったんですね。僕、学生時代は一人で旅行してて、サークルもいろいろ顔出してましたけど、「みんなで何かやる」っていう経験はあんまりしてなかったから。だからその揺り戻しで、一人でやるよりも誰かと一緒につくるとか、一緒にその場を楽しむ、みたいなほうが楽しいなってやり始めて、そこから拍車がかかって、瓦割りに行き着いていくんだと思うんですよ。

画像22

プレゼンサークルを立ち上げた数年後、民夫さんは札幌に転勤。友達づくりを目的にサッポロ読書会を立ち上げた。読書会を選んだ理由は「東京で流行ってるらしいから」。ところが札幌では読書会を見つけられず、それがどんなものかわからないまま、「たぶんこんな感じかな」で始めてしまう。

再度の転勤で東京に戻ってくるとき、仲間がそれを引き継いでサッポロ読書会は続き、ここで知り合って結婚したご夫婦もいる。東京に戻った民夫さんはアサクサ読書会を立ち上げ、各地に広がって現在15箇所。

豆彦: 皆さん、ここでちょっと一つ頭にとどめておいてほしいんです。今日は「場づくり名人」っていうテーマで、どうやって場を創ってきたのかをお聞きしているわけですが、今の話の中に結構エッセンスがあると思ってるんですよね。寂しがり屋だとか、あとは、流行ってるからっていうミーハー感とか。

西村: それですよね。

豆彦: なんだけど、僕がすごいなと思うのは、自分がつくったから俺の場だ!俺の会に来い!っていうジャイアン性というか、独占欲がないんですよね。ジャイアンっぽい声なのに(笑)

そうなんだよなぁ。私がスミダ読書会を始める時も、民夫さんはありったけのノウハウを教えてくれて、ロゴも作り、アサクサ読書会のメンバーに呼びかけて初回に駆けつけてくれた。自分で読書会を始めると他の読書会に行く余裕がなくなり、アサクサ読書会にもなかなか顔を出せなくなるのだけれど、民夫さんは気にしない。

カタカナ読書会グループという名前だけど、共通点は名前を開催場所のカタカナ表記にすることと、ロゴの形とフォントだけ。後は各地の主催者の自由。サポートはするけど縛りはしない。民夫さんらしい繋がり方だ。

豆彦: ノウハウがきっとあるはずなんですよね。ご自身でゼロからつくったわけだから。それをよく手放すというか、オープンソースみたいにされているところが、僕、西村さんとすごい共通があるなと思っているところなんですね。民夫さん、ここだけ最後、民夫さんパートの締めなんだけど、民夫さんこれ説明してください。

スライド30

このセンテンスは私が2018年に民夫さんにインタビューした時に出てきた言葉。豆彦さんがそれを見つけてピックアップしてくれたのだった。

民夫: 合同会社ハハハを会社員の傍ら立ち上げるときに、何を目的に俺は会社を立ち上げたいんだろう?って考える機会があって、そのとき僕あんまり毎日が楽しくなかったんですよね。僕の周りにいる友達とか、プライベートにせよ会社にいる連中にせよ、あんまり楽しそうに暮らしてなくて、日々毎日を乗り切るのに大変みたいな感じで過ごしてました。

それで、僕も含めたみんなが楽しく暮らせるともっと良いのになっていう単純なところからスタートして、みんな楽しく暮らせて、死ぬときに楽しい人生だなって思えたら、これ本当にいい人生だなと思って。

って...すごい曲かかりますね(笑)。

開店前から昭和な曲のオンパレードだったけど、ここで流れた曲は安全地帯の「ワインレッドの心」。「スナック感やばい!」と西村さん。

画像19

民夫: いや、あの、これあんまりこういう場で話すことじゃないかもしれないんですけど、これまで僕の仲間、複数人亡くなってまして。だから僕も、いつ何時死ぬか分からんって思うわけですよ。

豆彦:
 そこすごい共感します。いや、話してくれてありがとう。そうですよね、死は生の対極じゃないよなって思いますよね。

民夫: そうですね~。ってそれ『ノルウェイの森』の言葉ですね。だから常に死に向かってるし、「この生活が先々まで続くのが当たり前」とか、「100歳まで生きるのしんどい」って言ってる場合じゃないなって。

豆彦: 仲間の悲しい出来事も、自分に置き換えたらどうするか?って考えた結果が、ちゃんと今につながってるのが、民夫さんのすごいところです。いやー、一見脈絡のないすっとんきょうなことをやってるヒゲの人に見えて(笑)、限られた人じゃなくて、"普通の人が普通に楽しい社会”っていう、ライフミッション的な考え方がすごくすてきだなって思いました。なので、この"自分が息を引き取るときに、どういうふうに思いたいか?”"その最期に向かって今をどう生きるか?”ってことを、今夜のキーワードとして残させてください。

画像20

「場にそぐわない話をして申し訳ないです」と謝る民夫さんに、「いえいえ、そぐうよ。俺もう泣くかもしれないから」と豆彦さん。

民夫さんは「仲間」という言葉をよく使うけれど、「仲間」とそれ以外の間に線引きをしない。囲い込もうとしたり、「仲間なんだから」と何かを押し付けてきたりも一切しない。その独特のスタンスがどこから来るのか知りたくて、かつて話を聞かせてもらい、インタビュー記事にまとめた。それが私の生涯初のインタビュー。それがきっかけとなってフリーライターとなり、今ここにいる。

「人生最後の瞬間に『楽しかった』と思いたい」インタビューの時にも聞いたその言葉を時折思い出す。そして自分に聞いてみる。「明日がその時だとしたら、『楽しかった』と思えるかい?」

【後編(西村創一朗さん+ゲストお二人のセッション)】


この体験記を書いてくださった人

ひらばやし ふさこさん|Ms. Fusako Hirabayashi
IT企業にて研究開発、企画、マーケティング等の業務に携わった後、フリーのエディター・ライターに。現在の仕事はビジネス系が中心だが、分野拡張検討中。趣味は散歩と料理。宅地建物取引士。東京都在住。「スミダ読書会」主催。


この体験記の写真を撮ってくださった人

伊藤 愛輔さん|Mr. Aisuke Ito
神奈川県相模原市出身。キャリアのスタートよりフリーランスにて、音楽シーンをメインフィールドに活動。メジャー、アンダーグラウンド問わず、様々なアーティストのライブ、アーティスト写真、ジャケット等を数多く撮影。自身の作品性を保ちつつ支持を高め、多くの信頼を得る。
一歩ずつ活動の幅を拡げ、人物ポートレート、インタビュー、企業等の各種イベント、店舗等の空間撮影や、料理等の静物撮影まで、ジャンルを問わず展開。流れの中でのナチュラルな表情を捉えることを特に得意とする。aisk815@gmail.com

好奇心旺盛な大人たちが、生ビールとグリーン豆をお供に、気になる人の気になる話を聞いて楽しむ社交場、それが「スナックかすがい」です。いっしょに乾杯しましょう!