第12夜「価値を惹き出す達人たち」体験記
Text by マツイアヤコ | Ayako Matsui
Photo by 伊藤愛輔|Aisuke Ito
面白い人のところには、面白い人が集まる。
つねづねそう思ってきたが、
今回ほどそれを感じたことはない。
12夜はスナックかすがい一周年☆
スナックのマスターが、スナックのママをお招きする、いわばスナック of スナック企画だ。
酒がある、乾きものがある。
人がいる、そして、つながる。
これぞ、スナックの真骨頂。いつも以上の相互交流。
カウンターの向こう側のトークを通して、「うんうん、そうそう」って共感したり、「そっか、そうだよね」なんて気づきがあったり。
そばにいる方々と交流する、”かすがいタイム”は2回ほど。さらに、客席からの声をいろいろ聞けちゃったりして、会場はびっくりするほどの一体感。
『スナックひきだし』によって、自分の想いがひきだされ、『スナックかすがい』によって、周囲とかすがえた2時間半。
頭が悪い言いかただけど、ステキ過ぎて、
「マジ、来てよかった!!」と思いましたよ。
生きかたのヒントがザクザクあるので、
ぜひ酔って、じゃなかった、寄ってって~。
予想外のぶっつけ本番スタート
今日のゲストはコチラ。
『(株)ヒキダシ』代表取締役、『スナックひきだし』の木下 紫乃さん。『(株)ファイブグループ』経営戦略室長、『(株)イレブン』代表取締役の山﨑 大輔さん。
いったい、何をやっている人? それは、追々説明していくが、はじまったとたん、マスターから衝撃的な一言が。
「今日、喉の調子が悪いんで、山﨑さんのとこは、紫乃さんに進行やってもらいますね」
ええっΣ(・ω・ノ)ノ!?
そう言って客席に移動したマスター。会場、どよめく。いや、そう感じたのは私だけかもしれないが、なんだ、そのムチャぶり。大体どんなスライドが用意されているのか、全然わかんないだろうし、そもそも、紫乃さんと山﨑さんは初対面で、会ってまだ数分ほどだ。
普通だったら断るだろう。何が普通か知らんけどできないだろう。
でも、そこをなんと紫乃さん。「受けた仕事はちゃんとやるというのが私の主義なんで、どんどん突っ込んでいきたいと思います!」と、潔く、というか楽しそうにマイクを握った。
いきなり振られたのに、この人スゲー。
なんてカッコいいんだ。惚れた💛
居酒屋は社会大学
そんなわけで、仕込みなしのぶっつけ本番、紫乃ママの「スナックかすがい」が開店した。
紫乃さん
「山﨑さん。ざっくり言うと、何やっている人?」
山﨑さん
「『ファイブグループ』は、国内に140店舗くらいある飲食店の会社。『イレブン』は人材紹介会社です。ていうか、僕、何が映るか聞かされていないんで、いまはじめてみているんですけど(笑)」
紫乃さん
「私も知らない(笑)」
※ニコニコしながらスライドめくる
紫乃さん
「『リクルート』出身ってこと?」
山﨑さん
「あ、そうですね」
紫乃さん
「私もすごい昔におりました」
※まさかの共通点
山﨑さん
「大先輩にあたるんですね♪」
紫乃さん
「いやいや(笑)」
マスター
「かぶっていないんですか?」
※客席から突然割り込む
紫乃さん
「全然かぶっていない。1ミリもかぶっていない」
山﨑さん
「僕、たぶん小学生くらいのときに、大学卒業されている」
紫乃さん
「そんなことない(笑)。あ、わかんない。…いや、そんな感じ?(笑)」
一同爆笑
テンポよく小気味よく。交わすつなげる。
何度も笑いが起きる。温かい空気が流れる。
後から話すが、紫乃さんはメインのお仕事もサブのお仕事も、その人の個性や価値、ご本人すら気づいていない可能性をひきだすスペシャリスト。
対する山﨑さんも、さすがノリのよさは抜群だ。ボケてツッコむ、漫才トークのような展開が繰り広げられていった。
さて、そんな山﨑さんだが、リクルートでは経営企画をやっていたという。
紫乃さん
「エリートやん!なんで?悪いことやっちゃったの!?」
山﨑さん
「悪いことやっていないです。何もやっていないです(笑)」
紫乃さん
「あ、違う。なんで転職されたんですか」
それは、とある勉強会でのこと。ちょうど経営企画をはじめたいと考えていたいまの社長と出会い、話していくうちに入社したくなってしまったのだとか。
実は飲食関係のアルバイト経験すらなかったというから、思い切った方向変換。転職も結婚もタイミングだ。
働きがいNo.1飲食業
若者を応援する風土がある『ファイブグループ』。もうひとつ、こんなことも話してくれた。
そうすることで、世の中にリーダーを多く輩出する。お店が社会を学ぶ場なら、会社は自分のスキルを高める場となっているんじゃないか?
実際に、”働きがいのある会社ランキング”ベストカンパニーに、5年連続で選ばれている。
働きがいと主体性を大切にする社風は、オリジナリティあふれる店舗展開にも反映されている。
たとえば、女性向けの洋風居酒屋『ペコリ』。おしゃれな空間だけでなく、社員のアイディアで、いろんなコスメが化粧室に置いてある。マニキュアやコロンまであるというから、驚きだ。
そして、私も大好きな、懐かしナポリタンの『パンチョ』。大盛りで有名だが、レギュラーでもペロリとたいらげてすまうほど、もっちもちの太麺がホントに、んっまい!
最初のアイディアは社長。けれど、どうやったら面白くなるかは、ブランドの責任者や料理長みんなであれこれ決めていく。
最後のスライドが終了してひとこと。「大丈夫ですか?8割くらいCMでしたけど(笑)」と言う山﨑さんに、一同爆笑。
他にも違う顔を持っているのだが、ここでいったん紫乃さんのお仕事へ。
40~50代こそキャリア支援を
客席で傍観していたマスターだが、さすがに今度はカウンターに戻り、今度は紫乃さんの生きざまを根掘り葉掘りひきだしていく。
『リクルート』後の転職先で、若い世代のリーダー育成研修の設計を、ずっとやってきた紫乃さん。
「若い人たちの力になりたい」と思ってきたが、「いや、変わるべきは私たちだ。私たちの価値観が変わらないと」と考えた。
「自分も同じ世代だし、自分もチャレンジしたいし」。そんな想いで起業した『ヒキダシ』。
具体的には、企業向けの人材開発や組織開発支援、個人向けのライフキャリア設計支援。ミドルシニアを対象とした、『キャリア50』の企画・運営も行っている。
きっかけは、「中二病になって(笑)」、45歳で入った慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科。と言っても、よくある社会人大学院ではない。20代の若者たちと一緒に2年間学んだ。
周囲に問題意識がある人が多かったから、と思いきや、むしろ逆。「あきらめなくていいのに」と感じる人がたくさんいるという。
私も同世代だが同感だ。もう、年だし、あらがわなくても、という声を何度聞いたことか。新しいことをはじめると、すごいね、と言われるし、未来の話をするとびっくりされる。
いやいや、そうじゃなくてさ。年齢に逆らうのでもなく、年齢を嘆くのでもなく。可能性は果てしないし、数字なんてただの記号だ。
自分の心の声に耳を澄ませる。何をしたいか、どう生きたいか。もったいない人って、たくさんいる。
スナックなら本音を言える
ということで、目の付けどころが素晴らしい! そう、私は思ったが、実は、会社を立ち上げた3年前は、「10人に事業内容を話すと、15人が絶対やめた方がいい、と。相談した人の数より反対する人の数が多かった(笑)」と笑う。
しかも、最初は全然人が来なかった。
こうしてオープンしたのが、『スナックひきだし』だ。
場所は麻布十番『Charlie’s Bar』。オーナーは大学院時代の同級生(といってもいくつか年上)。某大手企業に20年間勤めてきたが、ずっとやりたくてはじめたという副業のお店を間借りした。
12人くらいがマックスだが、頑張れば(?)20人ほど入れるスペース。いまは毎週木曜日13時~18時に営業しているが、スタート2年前は隔週で19時~21時30分だった。
最初は友人がやってきて、面白いからまた来て、そのときに今度は誰かを連れてくる。人が人を呼び、Facebookだけの告知でどんどん増えていった。
いちばん大きな気づきは、「人は誰かに話せば、それだけで悩みは結構解決される」ということ。
ワークショップやセミナーの集客。ターゲットにしているミドルシニアの方々が、どんなことで悩んでいるかということを拾い上げるマーケットリサーチ。そのつもりではじめたが、そうじゃなかった。
場さえつくればいい。場さえあればいい。そこで本音で話せる人がいたら、それで8割くらいの悩みは解決される。
周囲におかしい人だと思われたら恥ずかしいので平静を装っていたが、この話を聴いていたとき、私はそうそう!!と、イメージとしては頭を大きくぶんぶんと振るほど共感した(笑)。
プライベートな話で恐縮だが、私はキャンサーサバイバーだ。いったんシャバに戻ったものの(笑)、初発から数えると17年間がんと向き合っている。
たくさんの患者さんと出会った。たくさんの悩みを聞いた。たくさんの不安に耳を傾けた。
そこで、感じたことは、人は話すだけで心が落ち着くということ。自分の気持ちに気づくということ。想いが整理されていくということ。
解決するのは、他人ではなく自分自身。周囲は、その人が一歩前へ踏み出すための後押しを、そっとするだけ。
傾聴するときはいつもそう心がけているし、実際、それを提供するための当事者会を毎月行っている。
回を重ねるたびに感じるのは、場が大事なんだ、絶やしてはいけないということ。けっして、一人ではなく、ここに来ればわかちあえる仲間がいるという、この場所を。
常連さんからもいろんな声を聞いた。
「自分のもやっとしているものを吐き出せる」「隣同士で気軽に話せる」「つながりが勝手にできる」
「人のいいところを見出す力がある」「これやったらどう?と人の背中を押すのがうまい」
などなど。
滑舌がよく、声のトーンが心地いい。紫乃さんは、「この人について行きたい」というカリスマ性や知性はもちろんあるのだが、他に感じた素晴らしいところは、ニコニコと笑顔で耳を傾けてくれるだけでなく、それが、自然体であるということだ。
傾聴というとやたら大げさにうなづく人がいるのだが、そういうリアクションをされると、実はこの人はかたちだけで話を聴いていないんじゃないか、と思うことがある。
けれど、紫乃さんは違う。ちゃんと相手の声を受け止め、ちゃんと想いを共にしてくれているという実感がある。表面だけの繕いは、必ず見破れらていく。
最近は占い教室にも通った。
他にも雑誌で紹介されたり、TV番組に出演したり。コミュニティFM『レインボータウン』では、「ラジオスナック」という番組も持っている。
主催者になろう
最後にみんなで、こんなテーマについて語り合った。
この方のサードプレイスは、子供の頃に慣れ親しんだ銭湯。本業の営業マネージメントとは別に、意気投合した銭湯の若旦那に働きたいと直談判して、清掃やセールスマネージメントを行っている。
治療で外見が変わりやすいがん患者さんに、メイクアップアドバイスやエステなどアピアランスケアをしている美容アドバイザーさん。病院や学校で講師も務めているが、本来の自分でいられる、という意味では、むしろ本職がサードプレイスだという。
ちなみにゲストの一人、山﨑さんは『夢キャンプ』の主催者を務めている。
そこで1からステージを設営し、ライブも開催。もともと仲間を集めるのが大好きで、大学生のときに400~500人規模の野外イベントをやっていて、それをもう一度、という想いではじめた。
たき火を囲みながら、一人ひとり夢や人生を語る『タキビトカタリ』も好評だ。実際に願いを叶えている人たちが、続出しているという。
『スナックひきだし』を100回以上やってきた紫乃さんは、「『私もママをやりたい』という人が、ぽつぽつ出てきたんですよ」と話す。
「いや、ホント、大賛成ですね」という山﨑さん。さらに、紫乃さん、こんなことを話してくれた。
いまでこそ大盛況だが、最初はお客さんがあまりいないこともあった。でも、1人でも2人でも来店していただいたことが、モチベーションになったという。
「確かに、ここに座ると角度が変わる、ランドスケープが変わるという体験はある」と語ったうえで、マスターの豆彦さん。
自分で自分の限界をつくらない。傍観者ではなく、まずは伝える、やってみる。
なんだか、これ、今日の全部につながるなあ。やっていこう、頑張ろう、勇気、もらった。
「あともうひとつ」と、紫乃さん。
これは私も実感している。以前よりだいぶなくなりつつあるが、特別な目でみられたり、不利益を被ったりすることから、がんであることをなかなか言いづらい、いまの世の中。
けれど、経験者であることを相手の方に伝えると、「実は私の父も」「うちの妻が」とか、ぐんと距離が近くなることがある。
だから、私は隠さない。みずから公表することで、誰でも普通に打ち明けられる時代へ。たとえば、風邪をひいて、と同じような感覚に、少しずつなっていけたら、と思う。
これは、がんに限らない。他の病や障がい者、ジェンダーといった、社会に生まれがちなすべての壁。こういうことをきっかけに、そのひとつひとつを外していけたら。
ちょっと横道に逸れてしまったが、話す、聴く、わかちあう、そして、つながる。2019年の締めくくりの『スナックかすがい』は、まさに、かすがうスナックそのものだった。
この場にいてよかった、この人たちと出会ってよかった。
ありがとう。
そんな気持ちでいっぱいだ。
この体験記を書いてくださった人
この体験記の写真を撮ってくださった人