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通過点

ゴールだと思っていた到達点は、到達した瞬間に通過点になる。


サークルの先輩が、座右の銘として挙げていた言葉。

大学生活も4年生を迎える時期に差し掛かると、周りの友人と自分たちの行く末について話すことが増える。

就活でどんな事をしているか。
大学を出たら何をしたいか。
将来は、何になるのか。

無意識のうちに、自分たちの到達点について思いを馳せざるを得なくなる。


僕は今、大学院進学を目指している。

とすると、僕の到達点は大学院であるはずで、そこで研究をすることがゴールとなる。


と、思っていた。


先日、志望する研究施設が大学生のためにワークショップを行うというので、足を運んだ。

研究室の紹介とともに、実際にそこの学生として研究を行っている大学院生と一緒にご飯を食べる機会があった。

そこでの会話の流れで、僕が高校時代に1年間留学していた話をした。

すると、ある大学院生の人が僕の話に興味を持ってくれた。
彼は僕の話を聞いた後、落ち着いたトーンのまま、しかし芯のある話し方で僕にこう言った。


「この間、アメリカで開かれた学会に行ったのね。その時、前から論文で知ってた憧れの研究者が会場にたくさんいたの。でもさ、俺英語全然話せないから。せっかくの機会なのに話しかけることもできなかったんだよね」

自分の発表は準備していたため問題なく話せたが、周りの研究者が何を発表していて、自分が何を聞きたいのかが上手く言葉にできなかったと言っていた。

「俺、高校からずっと理系科目は結構勉強してきたんだけど。今戻れるなら、めちゃくちゃ英語頑張っておけばよかったなって思うんだよね」

そう話してくれた彼に、僕は返した。

「実は留学は高2で行ったから、数学とか物理とかの理系科目はほとんど日本で履修できないまま進級しちゃったんです。だから、僕は英語はできないわけじゃないけど、理系科目が疎かなのがコンプレックスなんです」

彼は少し驚いたように頷きながら、「でも足りないって思えてるならまだ取り返せるよ」と答えてくれた。

その後、彼は笑顔を向けて僕に語りかけた。

「でもあの学会の時のことを悔しいままで終わらせたくないから、今年度は必ず海外の大学院に留学するつもりなんだ。杉本くんも、日本だけで研究するんじゃなくて、早くから海外に目を向けておくと、もっと研究が楽しくなると思うよ」


僕が到達点だと思っている場所で活躍している彼は、僕の位置からじゃ視界にも入らないような遠い先を見据えていた。

やっぱり、到達した瞬間に、通過点になるんだ。


そういえば、僕が「理系科目が疎かなのがコンプレックスだ」と言った時、彼は少し笑いながら言った。

「なんか、ないものねだりだったんだろうね。今日、杉本くんと話してそれを知れたのが良かった。いろいろ聞けて良かったよ」

彼は、後輩の僕からもいろんなものを吸収している。
僕との会話の中で、気づきを得て、前向きに捉えている。


僕が目指そうとしている到達点は、想像以上に険しいところなのかもしれない。

到達したとて、そこはすぐに通過点になって、また新たな到達点に向かってがむしゃらに走るのだろう。


ないものねだりなど、している暇はない。

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