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ギャラリーオーナーの本棚 #16『実践 日々のアナキズム』 服従することを静かにやめてみよう

些細なルール違反を恐れない「アナキスト柔軟体操」

アナキズム(英: Anarchism)。
語源はギリシャ語で「支配者」を意味する αρχή(archi)に「〜が無い」を意味する接頭辞の ἀν-(an-)が付いて「支配者がいない」という意味。そこから転じて国家・政府に従わないこと(=反国家主義)、また国家に限らずあらゆる権力に従わないことを意味する。

ネットで調べるとそういうようなことが書いてあります。日本も戦後しばらくは、社会的・経済的に動乱期で、そういう動きもあったのでしょうが、安定した状況が何十年も続いているので、アナキズムなんて「今は昔」といったところでしょうか。

しかしながら、ひと昔前のようなあからさまな暴力や圧力がなりを潜めた代わりに、気づかないうちにすごく不条理なシステムに組み込まれていた、となりかねないのが今の世の中です。それをよく心に刻んで、自分の良心・道徳・価値判断基準に従って、行動を起こしましょう、時には些細なルールを違反することを恐れずに、とこの本は促します。

アナキズムは、何も生命や財産を賭して、徒党を組み、巨大な権力に立ち向かうことではなく、個人が日々の生活で「これっておかしくない?」と違和感を感じる社会的な制度・規範・ルール・暗黙の了解に対して、自動的に・盲目的に服従することを「やめてみる」ことなのです。そこで何も声を上げなくていい。「ねえ、みんな、おかしいよね?」と言い出さなくていい。ただ、おかしいと思ったことを「やめてみる」だけです。著者はこの静かな抵抗を「アナキスト柔軟体操」と呼んでいます。

主義主張がないことにこそ「服従」しがち

著者のジェームズ・C・スコットは政治学・人類学の研究者で、農民運動や階級闘争などについて調べる中で、権力による抑圧を弱める効果的な方法は、たった一人の革命家のリーダーシップよりもむしろ、たくさんの匿名の人々の小さな不服従の集まりであるということに着目しました。
もちろん服従しないだけでは何も新しいことは生まれないので、そこからは別の制度や仕組みを作り上げる必要があります。その際にも、中央集権的なやり方ではなく小さなコミュニティの協働によって作り上げることが大事だとスコット教授は強調しています。

ただしこれは「大きな運動を起こすためには小さな一歩から」という意味ではないと思います。自分自身が実現したい大きな目的がある時には、人は自分の頭で考えて行動するし、効率良い方法があるならそちらを選択するでしょう。そうではなくて、主義主張があってやっているわけではないことに対しては人は思考停止しやすく、何か不本意なことや無駄なことに知らず知らず服従(加担)してしまっている可能性があって、それは実は社会の害悪になっているかもしれないから気をつけようね、ということなのだと思います。
そういうことは、非常に便利で広く流通している商品・サービスだったり、何十年も仕組みが変わっていない社会的なルールや行政サービスなど、私たちが当たり前のように何も考えずに利用しているものに潜んでいる可能性が高い。

一見平和で安定しているように見えるけれど、盲目的な服従を続けていると、静かな崩壊に気づかず、ある時破綻を迎えているかもしれません。

とまぁ、なんだかシリアスな雰囲気で書いてしまいましたが、この本自体はスコット教授の軽妙な語り口で、より良い未来を開くための前向きな講義となっていますので、安心して読んでみてください。


Gallery Pictorでは、たった一つの中心ではなく、たくさんの中心が行動して世界は成り立っているという考えの下、年間プログラム「中心はどこにでもあり、多数ある」を2023年3月まで展開中。詳細はリンクをご覧下さい。


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