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種ともこさんが「飛べ!」と言う。

 先日、大好きな歌を歌う、大好きな人のライブに行ってきた。

 ……本当に人なのかなあ? 妖精かもしれない。見た目も妖精の様だった。可愛らしくて、パワフルで、煌めいていて。

 初めて歌を聴いてから、随分と時間が経った筈なのに、今も歌声はその頃と変わらない。やっぱり妖精なのかもしれない。

 その人の名前は、種ともこ、という。

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 種ともこさんの歌を初めて聴いたのは、高校時代に遡る。「みんな愛のせいね。」というアルバム。確か、演劇部の先輩から教えてもらった。

 これは、何度繰り返して聴いたか分からない。まっすぐな歌詞とメロディーと歌声。私の事を歌にしているんじゃないかと、うっかり思ってしまうくらい、心情を投影できる歌が多く、等身大の自分が強く共鳴した。

 そして、そう思ったのは、どうやら私だけでは無いようだった。一時期、部室ではこのアルバムが良く流れていた。

 大学時代、コンサートツアーで、この町のホールに種さんがやってきた。もちろん聴きに行った。

 生で見る種さんは、すらっとしていて、手も足も長くて、とても大きく見えた。アルバムのよく知っている歌を、全く違うアレンジで歌っていて、それがまたとても素敵だった。

 でも、社会人になってから、ライブに行く機会は、ずっと無かった。

 仕事を始めると、新しい音楽を聴かなくなって、ライブにも行かなくなって、学生時代に聴いていたアルバムばかりを、ずっと繰り返し聴き続ける人は、割と多いと思う。残念ながら、私もそのひとりだった。

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 20年振りに、種さんのライブに行ったきっかけは、震災だった。

 震災をきっかけにして、私もツイッターを始めた。最初は、周りでツイッターを始めた人たち同様、近しい人達の安否確認をするツールとして。

 でも、段々ツイッターの仕組みが分かってくると、すこしずつ、素敵だなと思う人をフォローする様になるものだ。そうすると「自分が素敵だなと思う人が『素敵だな』と思っている人」のツイートが、タイムラインに流れてくるようになる。

 誰のリツイートだったのか覚えていない。種さんのツイートが、私のタイムラインに流れてきた。

 種さんは歌も素敵だけど、ツイートも素敵だった。日常の事、お子さんの事、お料理の事、草花の事。

 ある日、新曲のリリースと、ライブツアーのお知らせを見かけた。ツアー会場の中には、この町の小さなライブハウスの名前もあった。

 新曲の収益を、震災復興に役立てる事、本当に復興に役立ててくれるところを、種さんご自身が探して、直接振り込みする事を表明されていた。

 震災のあった年は、色んな人が、震災復興の為の活動をしていたから、それ自体は珍しい話ではなかったかもしれない。それに、大きな被害を受けたとは言えない私でも、正直、まだその時期は、音楽も本も、心に入ってくるものは少なかった。

 でも、種さんの新曲はとても素敵だった。「笑ってて」というその歌は、種さんが震災に心を痛めたからこそ、生まれた歌なのかもしれない。だけど、震災の事があってもなくっても、私に染み込んで来たに違いない。

 ライブを聴きに行かなくちゃ! 是非とも聴きに行きたい! 震災の事があってもなくっても、とにかく今の種さんの歌を聴きたい!

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 20年振りに、生で見る種さんに、とにかく驚いた。だって、20年前と、全然変わっていないんだもの。可愛らしさも、歌声も、煌めきも。

 ただ、至近距離で見ると、とても華奢で小柄。昔、ホールで見た時は、あんなに大きく見えたのに。

 優れたアーティストというのは、会場の大きさに合わせて、自分の見せ方も変える、という事なのだろうとは思う。それでも、この人は妖精なのかもしれない、と、やはり思ってしまう。

 でも、種さんが妖精ではなくて、人間だとしたら、希望が持てるなあ。

 歳を取るのは悪い事ばかりじゃない、案外楽しいものだって、最近の私は感じてはいるけれど、自分より少し年上の人が、あんなに煌めいているのを見ると、歳を取る事がもっと楽しみになってくる。

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 あの年以来、種さんは、毎年の様にツアーに来てくれている。いつも会場はピアノが置いてある小さな場所。とても近い距離で、ピアノの弾き語りで、色んな歌を歌ってくれる。昔の歌を、そして、新しい歌を。

 新しい歌も相変わらず、まっすぐな歌詞とメロディーと歌声。高校生の頃と同じ様に、等身大の自分が強く共鳴する歌ばかり。

 今年のライブも、お知らせを聞いた時から、とても楽しみにしていた。あの贅沢な空間と時間を体感出来る幸せ! 今度の新曲はどんなだろう?

 種さんは強力な晴れ女という話だ。ライブの日は、とてもよく晴れていた。きれいな青空。種さんの歌の中にもよく登場する、そんな空。

 青空に包まれた会場で、種さんは相変わらず、可愛らしく、パワフルに、煌めいていた。まっすぐな歌をたくさん歌ってくれた。昔の歌も、新しい歌も。

 どれも素敵だったけれど、今回、特に響いたのは、新しい歌だった。

 最新アルバム「rolling」の中の「飛べ!」という一曲。

 私はあれほど、全身全霊、というものを体現している歌を、聴いた事が無いと思う。ピアノと一緒に、種さんは全身で歌っていた。歌声が、まっすぐに私の中に飛び込んできた。涙が出た。

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 ライブから、少し時間が経った。そして、私は、noteを始めた。

 種さんに「飛べ!」と言われた事だけが、きっかけではない。だけど、背中を押してくれたのは確か。

 種さん、ありがとうございます。
 高くは飛べないかもしれません。
 でも、自分の足で、地を蹴ってみたいと思います。
 青空はとてもきれいだから。

お目に掛かれて嬉しいです。またご縁がありますように。