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陽射しに片想い

 気分も体調も、気候と天候に左右される質だ。

 ここ数日、冷たい雨の寒い日が続いたけれど、ようやくこの町に、五月らしい陽射しが戻ってきた。とても嬉しい。

 五月が好きだ。街路樹の多いこの町が、一年で一番美しいのは五月だ。

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 四月の風は冷たい。季節外れの雪が降る事もある。

 五月に入れば、もうそんな事はない。急に気温が下がる日があったって、さすがに雪は降らない。雨が緑を濡らすだけだ。

 雨が止んで、雲が通り過ぎれば、柔らかい風が吹く。気持ちだって大らかになる。

 あっ! いけない!
 タイヤ交換しなきゃ!

 自分のうっかりに気付いても、つい笑ってしまう。だって五月だから。

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 そう、五月は素敵だ。
 でも、困る事がひとつ。

 強い陽射しの美しさは嬉しい。
 嬉しいのだ。
 嬉しいのだけど、困る。

 わたくし、実は、日光アレルギー持ちでございます。

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 強い陽射しに直接当たってしまうと、発疹と痒みが出てしまう。一度発疹が出ると、秋になるまで、なかなか引かない。

 発疹が出たところに汗をかくと、事態はいっそう悪くなる。自分の汗に負けるって、生き物としてどうなのか。でも負けるんだ、これが。

 せっかくの美しい陽射しだけど、諸手を挙げて、無防備に浴びる訳にはいかないのだ。

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 しかも、合う日焼け止めに、未だに巡り逢っていないと来ている。頼みの綱だった、粘土の日焼け止めで痒くなってから、探す気力を持てずにいる。

 ファンデーションも駄目だ。特にパウダーファンデは、絶対に駄目。一時間くらいすると、もう頬が痒い。ああやだ、思い出しただけで、何だか痒いです。

 若い頃に、リキッドファンデを色々試した。あ、これは痒くない! 大丈夫だ! 一生使おう! と、思っても、一ヶ月くらい使うと、頬と瞼がやられてしまう。何で? あなた、私の一生のファンデになってくれる筈じゃなかったの? この裏切り者め!

 何度も裏切られた結果、痒くなる可能性があるものに、もうこれ以上、時間とお金を費やしたくない、と、ファンデーションを使う事自体を諦めた。

 今はクッションファンデやら、水ファンデやら、色んなアイテムがあるとは聞くけれど、痒くなる可能性を考えると、試す気力が無い。

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 結果どうなるかと言うと、帽子に日傘、気温が上がっても長袖の、季節感の無い、怪しい女が出来上がる訳です。

 せっかくの美しい陽射しだけど、一番陽射しが輝く時間帯には、あまり外に出ないように気を付けている。

 平日は諦めがつく。どうせ職場の事務所に籠りきりだ。でも、五月だ。休みの日も快晴な事が多い。いいんだ、窓越しの陽射しだって、きれいだもんね、と、負け惜しみを言ってみる。だけどやっぱり、陽射しの下を歩きたくなる。

 諦め悪く、陽射しが傾いてきてから、おもむろに外を徘徊する、季節感の無い女。うーん、ますます怪しさが増すなあ……。

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 それでも、五月は素敵だ。

 朝の始まりが早く、ゆっくりと夕方が訪れる。住宅街もビル街も、透明な緑に溢れる。

 あんまり美しいから、五月の陽射しに片想いするのを、どうしても止められない。

 やっぱり私は今年も、五月の風と緑を追いかける。

 帽子と日傘と長袖で武装して。

お目に掛かれて嬉しいです。またご縁がありますように。