イベントでのエモい話と教科書的な話

お急ぎの方は、以下の「セッションの種類」からお読みください。「背景」から読んでいただくと文脈を理解いただけると思います。

背景

大学で研究者としてソフトウェアエンジニアリングを研究をしています。エンジニアリングの位置づけでもありますが、現実にある課題を解決できるような方法を研究していくことが大事だと考えています。

そのため、現実の課題を理解し、解決できるようソフトウェアエンジニアとの対話やソフトウェアエンジニア向けのイベントで課題を伺い、研究成果をエンジニアに使ってもらえるよう努めています。そうした取組みのひとつにイベントの企画があります。過去には日本IBMの方の協力を得て、ソースコード読解のワークショップ等しており、取材していただいたこともあります(記事はこちら(atmarkit)、こちら(Codezine)、こちら(日経xtech))。

ここ10年くらいソフトウェア品質シンポジウムというイベントの企画メンバーのとりまとめをしています。シンポジウム自体はかなり長い歴史があり、それと比較すると私がとりまとめを拝命している期間は長いとはいえないのですが、10年経つと他に新しいイベントが始まったり、昔からあるイベントも様変わりしてきているなぁと感じることがあります。もちろんソフトウェア品質シンポジウムも変わっていっています。

この記事のタイトルはそうしたイベント企画に主体的に関わってきて感じたことです。

セッションの種類

ソフトウェアエンジニア向けのイベント企画に主体的に携わると感じる方も多いと思いますが、何かを得ようとしてイベントに参加した方のセッションの感想は次の2種類に分類できます。ここで想定しているイベントは複数の登壇者にお話いただくものです。感想は、直接私にお話いただいたり個々のセッションに対するものをアンケートでいただいたりしたものです。

1. 明日からの熱量をもらい、自分もがんばろうと思いました(エモいセッション)
2. 知らない知識、事例を得ることができたので、明日から役立てようと思います(教科書的セッション)

この他にも漠然と参加したり、非常に気になったことに関して「音声が聞き取りにくかった」「もっと、つっこんだ内容が聞きたかった」「全部知っている内容だった」等ありますが、ここでは対象外としています。

1のような感想が多いセッションをここではエモいセッションとします。聴講した方にとっての再現性はあまり必要なく「すごいな」「そこまでやりきったんだ」「自分もがんばらねば」といった感情面に訴える点が多いセッションです。こうしたタイプのセッションでは、誰がどういう文脈で話をしているかも大事です。また、再現性は高くなくてよく、優れたスキル、特殊な状況、場合によっては運が重ならないとうまくいかないような内容でもかまいません。

2のような感想が多いセッションを教科書的なセッションとします。聴講した方にとっての再現性は大事で「これウチでも試してみよう」「自分たちでやるならこうだ」といった具体的な活動や実践につなげられる内容が多いセッションです。1と違って対象や前提が明確であれば、誰がどういう文脈で話をしているかはあまり重要ではありません。要素技術や考え方が新しめでそれらの説明をしていたり、先進的な事例を紹介していたりする場合もこのタイプのセッションです。

あるセッションに対する感想が1, 2のどちらかだけということはなく、同じセッションの中に1, 2の両方の感想があります。ただし、1, 2のうちどちらが多いセッションかによって、エモい話なのか教科書的な話なのかを判断します。また、計画時点でどちらなのかは予想できます。

1, 2がうまくバランスしているほうがイベントに参加して新しい考えを取り入れようとなりやすいように思います。要素技術や環境がかわりやすいソフトウェアでは、新しい考えを取り入れていくことは大事です。また、調査担当の方を除けば、イベントに参加してばかりでは業務がはかどりませんので、適度なペースで新しい考えを取り入れることが重要だと考えています。

1, 2のどちらが大事ということはありませんが、イベント全体としてどちらかのセッションが極端に多いというのは避けたほうがよいと考えています。熱量だけの取組みでは成果が出にくいですし、新しい方法を試すためには熱量が必要なときが多いからです。

ソフトウェア品質シンポジウムは20人ほどの企画メンバーみんなで企画していくので私の意向で決まる部分はあまり多くありません。しかし、努力目標という位置づけで、可能な範囲でエモい話と教科書的な話の両方があるような企画を心がけています。

ここ10年くらいを遡ってみると、私が企画に携わるイベントも含めてエモいセッションの割合がかなり増えたように思います。選択肢が増えることはよいことだと思いますが、熱量だけ増やしても解決できないこともあります。教科書的なセッションは以前よりも重要になってきているのではないかと思います。20年以上前のイベントだと教科書的セッションがほとんどだったのではないかと思います。

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