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本と靴下と書棚

自分のこころの移り変わりが
本を読むことでわかる

十代、あれだけ共鳴した
話がいま読み返すと
陳腐なものにしか見えない

何でこんな本に感情移入できたのか
今では片足すら入らない靴下のようだ

そうだ
わたしのこころは
成長したのだ
あの時よりも大きく大きく

片足も入らなくなった靴下は
年月で陽に焼け
埃を被っている

精一杯、精一杯ひろげて
おおらかな眼で見てあげる

するとその本の良さが
数十年の年月を経て
少しだけわかったような気がした

書棚をあさると出てくるわ
出てくるわ
着れないシャツ、被れない帽子、
流行遅れのジャケット
どれもこれも昔、お気に入りだった
好きだったな

何冊かまとめてベッド脇に置いて
たまにちびちび読む

ちいさかった幼子の遊んだ
ものを懐かしむように

ここで笑ったっけ
ここで泣いたっけ
なんでここに
こんな染みをつけてるんだろ?
わたし

(すてないの?)
そんな声が聴こえてくるようだ

(すてないよ)
と、こころで答える

またいつか余裕が出来たら
読み返す機会もあるし
改めて気に入る箇所もあるかもしれない

サイズが合わないのは
わたしが成長したせいもあるし
傲慢になったせいでもあるかも

また素直に読める日に
片足が入らない靴下を
元の場所にゆっくりと戻す