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本桜鱒の「Smolt」、つきみいくらの生産を支える地道な研究

最近では青空レストランなどでも取り上げられた宮崎県の本桜鱒の養殖企業、「Smolt」。
実は、元は宮崎大学で行われていた研究から立ち上げられた企業であるということをご存知でしたか?

本日は最近話題沸騰の「Smolt」、その長年の研究の裏側についてご紹介します!

宮崎大学発のベンチャー企業「Smolt」


「Smolt」は宮崎大学で研究している桜鱒(サクラマス)を「本桜鱒」というブランドとして生産している企業です
本桜鱒は、宮崎県でサクラマス本来の生き方を大事にして育て、幾世代にも及ぶ掛け合わせにより洗練されたSmoltオリジナルのサクラマス血統です。

サクラマスとはヤマメが海水に適応した姿のことです。淡水から海水への環境の変化に順応するべく、体の仕組みを整える際にヤマメの体色が銀色に変化することをsmolt(スモルト)と呼びます。

そう、「Smolt」という会社の名前はここから取られているんです。

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上)通常のヤマメ 下)銀化したヤマメ

しかしながら、九州においてはヤマメがサクラマスになることはありません。
ヤマメは主に北海道や本州の特に東北などで海に下り、サクラマスになります。つまりサクラマスは寒冷な気候を好むため、温暖な九州ではヤマメが淡水に留まってしまうんです。
これを養殖によって解決するための研究が宮崎大学で始まり、それが今の「Smolt」に繋がりました。


本桜鱒の養殖、地道な試行錯誤

「Smolt」が企業としてスタートしたのは2019年のことです。しかしサクラマス養殖の研究が開始されたのは2012年。実に7年もの期間が空いています。
この7年の間に様々な研鑽があったのです。

きっかけ

研究スタートのきっかけは、地元の生産者さんのふとした思い付きからでした。冬場に餌を食べなくなったヤマメを海に放流してサクラマスにならないか試してみたそうです。
もちろんほとんどのヤマメはサクラマスになることができなかったのですが、一部のヤマメはすくすくと成長し、サクラマスになることができました。

そこで宮崎大学農学部の内田勝久教授に、どうにかヤマメからサクラマスへの養殖ができないかというコンタクトがなされ、研究が始まることになったのです。

もちろん当時は商品化を目処にいれていたわけではなく、あくまで学術的な興味が強い中でのスタートでした。


山積みの課題

生産には多くの課題があり、それらを解決するために沢山の学生がテーマを持って解決に取り組みました。
研究室での研究以外に、時には実際に屋外の生産現場に行って作業することもありました。

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真冬の寒い中、重い魚を運んで何時間もかけて作業したりと、現場での作業は非常に大変でした。

この当時、本桜鱒の生産における大きな課題は、それぞれの魚のサイズがバラついていたことでした。これについて宮崎大学の学生たちが何人も関わっていき、長年の選抜育種によって魚の性質を均一化することによって解決していきました。

選抜育種とは文字通り優れた形質をもつ個体を”選抜”して掛け合わせ交配を行い、個体の質を”種”から改善していくことです。
この選抜育種には一世代あたり二年の周期が必要であり、非常に長期間の試行錯誤が繰り返されてきました。

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他にも、輸送する際のストレスで死んでしまうのを防ぐため、専用のトラックをチャーターするなど、様々な手法で生産の課題をクリアしていきました。
それらの研究過程で、最終的に関わった学生の累計人数はなんと20人にも上ります。

新たな課題と直面

そこから更に研究が進んでいき、2017年になってくると、サクラマスを養殖できる量が増え、計画通りの生産ができるようになってきました。
そこでプロの料理人の方に、実際に養殖したサクラマスの試食をお願いすることになりました。
長い期間をかけて研究したのですから、さぞや好評……
かと思いきや、返って来たのはまさかの酷評

曰く、くさみがある、味が薄い……などなど。今までは「養殖を可能にすること」に焦点を置いて研究してきたため、肝心の「味」の仕上がりまで考えて生産できていませんでした。

そして研究は、「おいしい本桜鱒を作る」という新たなフェーズへとシフトしていきました。
養殖環境を改善し、魚のくさみを抜く。サクラマスの生態から見直し、最も脂の乗る夏、低い水温で身の引き締まったタイミングで魚を締める。
このような一連の流れが定まっていきました。

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今までにない方向性の研究でしたが、その甲斐あって現在ではプロの料理人の方からも絶賛を頂くほどのサクラマスを作ることができるようになりました。
このようにしてたくさんの人たちの影の努力のもとに生まれたのがSmoltの「本桜鱒」なのです。

2020年1月の事故

多くの研究を経て2019年、遂に企業として新たなスタートを切った「Smolt」でしたが、いきなり大きな困難に直面することになりました。

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会社として初めて海での養殖を行おうとした2020年1月中旬。
現地の生産者の方と協力して延岡市土々呂町にヤマメの生け簀を作り、冬を越させるはずだったのですが……

海の大しけにより生け簀が崩壊。
本桜鱒になるはずだった1500匹ものヤマメが放流され、大きな損失を被りました

何回も壁を乗り越え、ついに……

この失敗を踏まえて、強度の高い丈夫な生け簀を用意する、海域の水温や気象リスクを事前にリサーチして種苗を導入する、導入する生け簀をもつ生産者さんと入念に事前打ち合わせをしてリスクとその対処方法を話し合っておく……などといった方法で、現在は場所を変え、延岡市北浦町で本桜鱒の安定した生産体制を実現しています。
これらの地道な研究と課題に直面し、乗り越え、今日の「Smolt」のブランドとして商品を皆様にお届けできています。

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おわりに

大きな痛手となるような事件もありましたが、それからもめげずに商品開発は続けられ、最近ではクラウドファンディングも成功させた「Smolt」の本桜鱒。

この背景には、多くの困難を乗り越えた人の努力がありました。

たくさんの苦労や失敗の積み重ねで、現在の「Smolt」の生産体系は出来上がっています。
その過程で地域の水産事業者、行政の方、流通の方、料理人の方などのたくさんの人にお世話になりました。
もちろん生産についての研究、味についての研究、いずれもまだまだ試行錯誤を重ねている最中です。
解決すべき課題も多いですが、その研究こそが「Smolt」の原動力です。

「美味しい魚を魚として、いろいろな食べ方でいつまでも食べていく。皆が魚食を楽しめるようにすること」

「Smolt」の掲げるビジョンに近付いて行けるように、これからも努力を重ねていきます。

いかがでしたか? 多くのメディアにも取り上げられ、プロの料理人にも認められた「Smolt」ですが、その本桜鱒を育てる研究の裏にどんな苦労があったかのご紹介でした。
そんな数々の研鑽の果てに生まれた本桜鱒、興味があればぜひ一度召し上がってみてはいかがでしょう?


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