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オアシス、ブラー、スウェード…ブリットポップ再燃の予感!その魅力と再評価の動きを追う 【Britpop+第1弾】

ブリットポップ、来てます!

 唐突ですが、ブリットポップ、来てます! リアム・ギャラガーが今年8月に、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズが12月に来日。さらにブラーが再始動&新作をリリースし、サマーソニックに出演。パルプも再始動し、マニック・ストリート・プリーチャーズスウェードが11月にダブルヘッドラインツアーで来日、ティーンエイジ・ファンクラブも来年2月から3月にかけて東名阪でライヴを行うなど、いったい今は何年なの? というくらいにブリットポップを盛り上げたバンドたちが活発な動きを見せています。

 さらにBBCラジオでは『Britpop Forever』という特番も放送。当時NMEの記者としてシーンの真っ只中にいたスティーヴ・ラマックがプレゼンテーターで出演して、当時を振り返っています。彼は、デビュー作を世界中で1位にして解散するとうそぶいていたマニックスのリッチー・エドワーズに“マジで言ってるの?”と聞いて、リッチーが逆上して自らの腕に“4REAL”とカミソリで刻んで血だらけになった“事件”を引き起こした人物でもあります。

 そんなこともあったよねー、と懐かしくなってしまいますが、今年から来年にかけて30周年(!)を迎えるブリットポップのアルバムが目白押しで、再評価の機運がこれからどんどん高まっていくことでしょう。しかも、2024年はオアシスのデビュー・アルバム『オアシス』(Definitely Maybe)の30周年。もしかすると、もしかするかもしれません。このnoteではそんな期待を込めつつ、「Britpop+」と題して連載形式でブリットポップの魅力を発信していきます。企画の第1弾として、まずは ブリットポップとは何だったのか、その音楽の魅力について新しいリスナーにも伝わるように、あらためて振り返ってみたいと思います。

ブリットポップとは? 90年代における英国音楽と文化の祭典

▲ブリットポップムーヴメントのなかで象徴的に用いられたユニオンジャック(英国旗)

 ブリットポップとは、90年代前半に登場したイギリスのロック・バンドによるムーヴメントです。60〜70年代のポップやロックからインスピレーションを得た音楽スタイルで、オアシス、ブラー、スウェード、パルプなどのバンドが活躍しました。ブリットポップは音楽だけでなく、政治や社会の変化にも関連しており、イギリスの文化やアイデンティティに対する関心や誇りを高めました。

ビッグ4:オアシス、ブラー、スウェード、パルプ

 ブリットポップで最も有名で成功したバンドはオアシスブラースウェードパルプの4バンドです。それぞれ異なる音楽スタイルや背景を持っていましたが、自信や野心、威勢の良さという姿勢は共通していました。また、チャートやメディア上で互いに競い合い、ブリットポップをゴシップ的にも盛り上げていったのも彼らでした。

【オアシス (Oasis)】

 マンチェスター出身のギャラガー兄弟が中心に91年に結成。ザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズなどの伝統的なブリティッシュ・ロックから影響を受けたサウンドで、アンセム的な曲を多く生み出しました。95年リリースの2ndアルバム『モーニング・グローリー ((What's the Story) Morning Glory?)は全世界で2,200万枚を売り上げ、全英チャートで10週間にわたって1位を記録。UKチャート史上5番目に売れたアルバムとして今も聴き継がれています。

【ブラー (Blur)】

 デーモン・アルバーン、グレアム・コクソン、アレックス・ジェームス、デイヴ・ロウントゥリーによってロンドンで90年に結成。インディ・ポップから始まり、サイケデリアやパンク、ミュージック・ホールなどの要素を取り入れた多様で折衷的なサウンドを展開しています。3rdアルバム『パークライフ (Parklife)(94年)は当時のイギリス社会を風刺的に描き、ブリットポップの象徴的な作品となりました。

【スウェード (Suede)】

  ブレット・アンダーソンとバーナード・バトラーを中心に89年に結成。グラム・ロックから影響を受けた美学とロマンチックな歌詞が特徴で、デビュー・アルバム『スウェード (Suede)(93年)は英国を代表する音楽賞であるマーキュリー・プライズに輝き、ブリットポップの先駆者とされました。

【パルプ (Pulp)】

  シェフィールド出身のジャーヴィス・コッカーによって78年に結成。最も長く活動しているブリットポップ・バンドで、90年代半ばにメインストリームで注目されるまでに数枚のアルバムをリリースしました。パルプの音楽はウィットに富み、皮肉が効いた洗練されたもので、社会問題や人間関係を扱っており、95年発表のシングル「コモン・ピープル (Common People)」は労働者階級をテーマにしたブリットポップの代表曲となりました。

ブリットポップの歴史的ルーツと影響

 ブリットポップは、60年代のイギリスのポップ、ロックに大きく影響されています。この時代はイギリス音楽の黄金時代と言われており、ザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズなどのバンドが世界的な人気と革新性を誇り、音楽だけでなく、ファッションやスタンスでもポップ・カルチャーや社会に影響を与えました。ブリットポップ・バンドは、彼らに敬意を表して曲をカヴァーしたり、イメージを真似たり、歌詞に引用したりしました。

 ブリットポップはまた、70年代のグラム・ロックやパンク・ロックの要素も取り入れています。このふたつのジャンルは、ポップ・ミュージックやカルチャーに対する挑戦と革命でした。デヴィッド・ボウイやT・レックスらに象徴されるグラム・ロックはキャッチーなメロディと派手な衣装やパフォーマンスで人気を博し、パンク・ロックはセックス・ピストルズやクラッシュなどが先駆者となって速くて攻撃的な音楽と歌詞で体制や現状に反抗しました。ブリットポップ・バンドは、グラム・ロックの美学やパンク・ロックの姿勢を取り込んでいたのです 。

ブリットポップの社会的背景と影響

  ブリットポップは音楽史だけでなく、社会史とも密接に関係しています。ブリットポップが登場した90年代はイギリスが政治的にも文化的にも大きな変化を迎えていた時期でした。79年から97年まで政権を担ってきた保守党は、経済不況や社会不安、汚職、スキャンダルなどによって人心を失っていました。一方、トニー・ブレアが率いる労働党は、モダンで進歩的なイギリスの新しいヴィジョン“クール・ブリタニア”を掲げ、若者の支持を獲得。ブレアはブリットポップを自分の選挙キャンペーンに取り入れ、97年の総選挙で圧勝しました。ブレアは首相に就任後、オアシスのノエル・ギャラガーらのミュージシャンを首相官邸に招待。ブリットポップとの親和性をアピールしました。

 ▲ノエル・ギャラガーも出席した労働党主催のパーティーの様子

 ブリットポップはまた、イギリスの文化やアイデンティティに対する関心や誇りを高める役割も果たしたと言えます。特にサッチャー政権時代に育った若者たちは、イギリスらしさとは何かという問いに答えようとしました。ブリットポップ・バンドは、ユニオン・ジャックの旗やジェームズ・ボンドやウィンストン・チャーチルなどのイギリスのアイコンを使って、音楽やファッションや態度でイギリスらしさを表現。ブリットポップはさらに、イギリスの文化的黄金時代とも言える60年代のスウィンギング・ロンドンへの郷愁も呼び起こしました。

 しかし、ブリットポップは単純なナショナリズムや過去への回帰ではありませんでした。ブリットポップは90年代のイギリス社会の多様性や複雑性も反映していたのです。ブリットポップには、女性や黒人やアジア系の人々も参加し、自分たちの視点や影響を音楽に加えたのです。ブリットポップはまた、失業やドラッグや暴力、人種差別、性差別、同性愛嫌悪、消費主義などの社会問題も取り上げて、現実的な視野も持っていました。

 ▲ロンドンのエコーベリー(Echobelly)にはインド系イギリス人女性のソニア・マダン(Vo)をはじめ、多様なバックグラウンドを持つメンバーが参加した

ブリットポップの終焉

  ブリットポップは1990年代後半に衰退し始めました。ビッグ4のバンドが音楽的に変化したり、解散したりしたことが要因と言えますが、97年のダイアナ妃の悲しい死は英国民の楽観的なムードを打ち砕き、ブリットポップが浮世離れしたものになったという指摘もあります。また、スパイス・ガールズ、テイク・ザット、ボーイゾーンといった、ブリットポップよりも若く、メインストリームのオーディエンスにアピールするティーン・ポップ・アーティストの台頭や、トリップホップ、エレクトロニカ、ポスト・ロックなど、実験的で革新的な新しい音楽ジャンルが出現したことも熱が冷めていく一因となりました。

 しかし、ブリットポップは、イギリスが自信に満ち、創造的でクールだった時代の一瞬を捉えたユニークなムーヴメントであり、単なる音楽ジャンルではなく、当時の若者たちにとっては生き方そのものだったのです。

おわりに

 そんな彼らが愛したサウンドは伝統的なメロディを受け継ぎ、キャッチーであるからゆえに、ザ・ビートルズのように今も色褪せることなく愛されています。ブリットポップ時代の名曲をまとめたプレイリスト『Britpop+ (ブリットポップ・プラス)』で、ぜひその魅力に触れてみてください。

プレイリスト『Britpop+』公開中!

 鉄板のアンセムから知る人ぞ知る名曲まで、90年代のイギリスが生み出した珠玉のロックチューンを凝縮。SpotifyとApple Musicで公開中です。

監修:油納将志 (British Culture in Japan)

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文/油納将志(British Culture in Japan)