見出し画像

なぜ、パントマイム表現に筋トレは必要なのか #23

パントマイムの練習、トレーニング
イメージ的にはそんなに激しい筋トレをしている感じはしないかもしれない。しかし、どこのパントマイム教室でもカリキュラムの中にはしっかりと筋トレが入っている。

パントマイム表現において、筋肉は必要なのだろうか

この記事では、何のためにどのような筋トレが必要かについてまとめてみよう。

筋トレの意義

最初にお伝えしておくこととして、パントマイミストの筋トレは筋肥大を目的としていない。

パフォーマンスの一環として肉体を舞台上で披露することもあるし、そういう視覚的な肉体美も必要ではある。しかしジャンルとしての目的を言うならば、筋トレはあくまでも

・出来る動きを増やす
・筋肉をコントロール出来るようにする

というのが目的になるだろう。

出来る動きを増やす

先ずは出来る動きを増やすという目的がある。
出来る動きという言い方はあまりピンとこないかもしれないが、我々は常に全身の筋肉を意識的だったり無意識にでも動かしながら出来る動きの中で生きている。

立って歩いたり、座ったりなどの基本的な日常動作は誰もがいつの間にか出来るようになっている。当たり前のように無意識に出来ているので意識したことは一度も無いかもしれないが、これらの動きは身につけた動作だ。

人は誰しも最初は歩けず、座ることも出来なかった。上手にお箸も持てなかっただろうし、ご飯を口に運ぶことも出来なかったはずだ。それらは人生の過程の中で身につけた動きではあるが、全て運動能力なのである。

なかなか出来なかった動きもある。
小さい頃は自転車に乗れず、何度も転びながら練習をしたり、逆上がりが出来なくて、鉄棒でその動きが出来るまでトライしたりもしただろう。それらはスムーズに身に着けるのが難しい動作なので、練習が記憶にも残っているかもしれないが、歩くことだって本当は上達の成果なのだ。

出来ない動きを出来るようにする
日常で用いる動きは誰もが簡単にやってのけるが、我々パントマイミストは日常動作以上の動きをパフォーマンスの中で必要とする。その時にその動作を表現するために必要な筋力というものが出てくる。不安定な体勢でポーズを維持したり、高いジャンプを必要としたり、一定の速度で体を動かしたりなどだ。

日常の反復だけでは習得しきれない動作、その動作を行う為に必要な筋肉がある。腕立てや腹筋が50回連続でやれる筋力がないと、出来ない振り付けにあったとしたら対応出来ない。筋トレによって出来る動きを増やしているのだ。

筋肉をコントロール出来るようにする

次に筋トレに求める要素として、筋肉をコントロール出来るようにするということがあげられるだろう。

出来る動きを増やすと共に、その筋肉を扱えるようにしなくてはならない。
扱うとは、自分が思ったように動かせるということだ。

スローモーションやロボット振りなどに代表される、スピード感のコントロール。これは筋肉に一定の負荷をかけたまま、なおかつ必要なパーツを動かしていくというテクニックだ。

これらの動きは筋肉を緊張させたり、弛緩させたりを巧みに使い分ける動きなのだが、この負荷をかけた状態を演目中維持しなくてはならない。一作品10分だったとしても、全身には結構な負荷がかかるものだ。
また、スタチューのような彫像芸も一定のフォルムでキープをし続ける。やってみると分かると思うが、同じフォルムで姿勢をキープするというのは尋常じゃない苦しさだ。5分と保っていられないだろう。

このように維持する、スピードをコントロールするという動作を実行する為に必要な筋力がある。その負荷に耐えコントロールしきる為の筋トレが必要なのだ。

どのようなトレーニングが有効か

筋肥大を目的としないのであれば、どのようなトレーニングが有効なのか。極端なことを言えばなんでもやっておいて無駄になることはないのだが、上記で上げたように
・筋肉をコントロール出来るようにする
といった目的を主とするならば、キープのトレーニングは有効である。

キープとは負荷のかかる状態で体勢を維持するトレーニングだ。
例えば

■仰向けで寝そべったまま、肩甲骨まで上半身を起こす
足を45度あげて、そのまま1分間キープ×2セット

■腕立てのフォルムから肘を曲げ、体を地面に水平にしてキープ
体が平行を維持したまま、30秒×3セット

など、通常の筋トレは曲げ伸ばしを交互に行うことで負荷をかけるのが基本だが、パントマイムにおける維持したりスピード感を保持する筋力は、負荷のかかる体勢でキープする筋トレは一つ有効だ。

意識的に扱える筋肉を身につける

普段は意識的に使っていない筋肉も多いが、何か振り付けが与えられた時、最低限必要な筋力が無いと対応できない動きが出てきてしまう。

またクオリティ高くパフォーマンスをするには、鍛えた体でいないと、震えたり、汗だくになったりと表面にその余裕の無さが現れてしまうものだ。
筋トレは見た目を良くする体作りの側面と共に
出来る動きを増やし、筋肉をコントロール出来るようにする】
という目的のトレーニングの両方を意識してやってみよう。

パントマイムとは《全てを真似る》の語源の通り、様々な物体、現象、生物を演じる。人の体でそれ等の質感や動きを真似たり表現するのだから、あらゆるものを表現する為の体がどうしても必要となる。

鍛えられているか、研ぎ澄まされているかは、お客さんからみても一目瞭然で分かるものだ。稽古の中で必要な筋力は養われるということもある。しかし、レベルの高い表現を目指すために体が扱えるようになっていないといけないということは変わらない。

今日も人知れずパントマイミストは地道な筋トレをこなしていることだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?