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映像作品のパントマイム要素 #28

前回ご紹介させて頂いた映像作品『ヒューマンE』について
今回は、作中のパントマイム要素について解説してみよう

映像作品であっても、随所にその要素は取り入れてある
項目で分けるならば下記の通り

・多様な人物表現
・状態変化
・テクニック(壁、固定点)
・物語、テーマ性

ダンス作品と呼ばれればそうなのかもしれないが、ご覧いただいて分かる通り、踊っている時間はほんの僅かだ。だからといってパフォーマンス作品でもないだろう。凄い技や身体能力で魅せている訳ではないからだ。

映像作品であってもこれは”パントマイム作品”として構成してある
上記にあげた項目がパントマイム作品として成立させる為に用いた要素である。順番に解説してみよう

多様な人物表現

他の演劇作品では見られないアプローチとして、一人の人物が老若男女を演じ分けるという側面がある。

今回は衣装も身につけて変化させているが、これが上下真っ黒のズボンとシャツだけだったとしても、キャラクターとして演じ分けることが出来る。
言葉を用いずにキャラクターを演じるということは、すなわちそれぞれの性別や年代における、記号的な仕草や動き、スピード感や姿勢、表情や反応があるということだ。

誰が見ても普遍的な老若男女それぞれの仕草があるからこそ、そこを表現することでその人物の性別や年代が浮き出ることになり、性格なども加味すれば人物をハッキリと演じ分けることが可能となる。

状態変化

1分20秒からの全員が手を出し後から別々の動作につながるシーン
このように一つの動作が別の場面に変化するテクニックを状態変化と呼ぶ

このシーンはあえて全て無対象(物を使わず)で演じている
スタートは同じ動作だったはずなのに、その後はまるで別の場面に切り替わっている。

それぞれの画面は手を出した以降も変わっていない
にも関わらず、息子は手洗い場に、おじいちゃんは将棋に勤しんでおり、母はキッチンにいることが理解出来るし、父は商談の最中なのか、オフィスらしきところにいることを感じられるだろう。

人物が移動したり、大道具として背景などの場面転換をしなくても、存在している場面の表現をすればその瞬間に見ている人の脳内背景も切り替わる。

ちょっとした動作でも、その動作を行う場所というのはイメージがある。
これもパントマイムならではの面白い表現だろう

テクニック(壁、固定点)

パントマイム作品を創作する上でとても重要なポイントとして
分かりやすく不思議な動きや、パントマイムならではと呼ばれるテクニックを取り入れるというアプローチがある。

何度も物語性や感情が重要だ!とここでは語っていることだが
1,人が目をひかれるキッカケは不思議さや驚きであること
2,求められているパフォーマンスを取り入れること

この2つを満たすために、テクニックというのは非常に有効だからだ。

一発屋と呼ばれる人がその売れたネタをだんだんやらなくなったり
この歌手と言えばこの曲!という代表曲を歌いたがらないというような話を聞いたことがないだろうか。

呪縛のように、その人=そのネタ・その曲
という図式になってしまう為に、その呪縛から解き放たれたくなるものなのだが、これはパントマイムで言うところの《壁やカバン》などのテクニックになると思う。

プレイヤーとしては「もうそれはいいだろ‥」と思ってくるものなのだが、やっぱり初めて見る人や、どこかで見たことのある人も、パントマイム=壁を楽しみにしているし、「今日パントマイムを見てきたよー」という気分になるものなのだ。

キャッチーであることは物凄く重要だし、そこが入り口だとしてもその先に連れて行ってあげれば良い。求められていることに応える演出もとても重要なのだ。

飽きているのは本人だけなのだから。勝手に辞めてしまってはいけない。

物語、テーマ性

やはりここがダンス作品との大きな違いとなる

動きだけではなく、凄さだけではなく、根底に流れているテーマや、説明的ではないのに具体的に感じられる物語があること。これがあるからこそ誰もが楽しめるものとなりうるのだろう

表面的に楽しめる要素はもちろん重要だ

例えばサザエさん一家のように見える風貌や、歩く姿。
なんとなくだけどそう見えるな〜という思考の入り口があって、そこから初めて想像を膨らませる先へ進んでくれる。

最初から「難しいね」と諦められてしまってはどうしようもない。
テクニックを用いることと重なる話だが、パッと見で面白いと感じてもらえてからだ

しかし、新聞を読んでいたり、TVをみたりしていても、これは説明ではない。

テーマを何にあてがって表現しているのか
それが具体的であるにも関わらず、言葉を用いないから余白がある

これこそパントマイム作品の醍醐味と言えるだろう

パントマイム作品 『ヒューマンE』

演劇でもなく、ダンスでもない
パントマイムならではの要素を説明させて頂きました

逆に言えば、この辺りのアプローチを入れると、他のジャンルもどことなくパントマイム作品っぽくなるということでもある

後半のダンス振付けも意図のある動きにしているし、スライドして部屋を移動することにも意味はある

しかし、それらを全てこうだよと説明することはない
余白のあるもの、想像してこうじゃないか、ああじゃないかと考察出来ることもパントマイム作品における重要な楽しみ方の一つ

あなたにはどのようにこの作品は見えただろうか。


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