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アラフィフからのアイドリッシュセブン【23】八乙女楽に担わせたもの/その2「変化」

今回とびきり長いです。

加え、我ながら大仰なタイトルを付けてしまって少しだけ反省している。
ただ、これくらいでないとアラフィフが八乙女楽を書くのに物足りないと思った次第。

賛否両論が生まれるほどの作品はそうそうお目にかかれない。
そして、賛も否も受け止める器がないと生み出すことは出来ない。

変化

前回の「その1」で、ブレる八乙女楽を見るのが辛い、という声があったことを取り上げた。

感情に悪いもいいもない。
ブレる、変化するのを良しとするかしないかというのはそれぞれの人に理由はある。

人間は変わっていくものだ。それは恐らく誰も否定しないだろう。
だからこそ、変わらない、消えない存在を人は求める。
実際、その全てがダンスマカブルというドラマの筋書きには盛り込まれているし、
それが幸せかどうか?は見ている者に委ねられる。

アイドリッシュセブンの世界では「変化しない」象徴が八乙女楽という存在なのだろう。
敢えてそんなイメージを壊しにかかるという意思。
それが八乙女楽が担ったものだと思っている。

視聴して感じたのは、変化を望んだ人間が生き残ると明確に示されているということだった。
再放送(ゲーム内でのイベント復刻)で見てほしいのでネタバレは極力避けたいが、書かないと先に進めないので少しだけ。

亡くなった人物の特徴を書くと、

「その1」で書いたが、リーベルを崇拝し、彼の変化に付いていけずに心を滅ぼした青年。

同じ地区に住み続け、他から入ってくる人間を拒み、混血による子孫繁栄は望まない。死者を崇拝しながら生きることを望んだ種族の人間。

与えられた仮初の幸せを維持しさえすれば安泰と漠然と考えていた、教会護衛を任された兵士。


残念ながら彼らはリーベルと共に行動した天子「アルム」の持つ、人間に畏怖されるべき「力」が及んで死に至ってしまった。


アイドルたちが死ぬ役をやると思っていなかった視聴者は多かったかもしれない。筆者が気に入っている逢坂壮五と四葉環のデュオ「MEZZO"」の2人ともがドラマ中盤で姿を消した。推しが居なくなるのがこんなに辛いと思わなかった。

もしかして、ほんとうは彼らは生きているという描写があるのでは?という淡い期待があった。
しかし違った。
安易に生き返るなどは死への冒涜なのだ。
死ぬ者はそのまま死んでいく必要がある。
そうでないと遺された人間は死というものを直視出来ない。

横道にそれたが、
ダンスマカブルは、変化を求めない人間は死ぬ、という分かりやすい展開になっていった。

現状維持が悪いわけではない。
しかし、力の均衡が破れ自らが前線に立つ必要がある時に変化を受け入れられないのならば、死というバッドエンドに容易くたどり着く可能性はある。

もし、これまでやって来たやり方では何も変わらないと思えば、何か違うやり方を考えるものだ。上手くいかないのだから。
これまで地上の勢力が教会のやり方に翻意を覚えて来たはずだが、戦いは終わらなかった。
真正面からぶつかっても上手くいかなかった。圧倒的な力の差。
違う方法は、と考えた末が天子誘拐という所業。
希望を勝ち取るために、
リーベルは変化を選んだのだ。

変わったのは誰なのか

人の変化は受け入れがたい。
傍にいる人間からすると、自分の理想、経験則に則らない行動を取り始めた者は、ただただ怖い、いやなだけの存在だ。

ストーリーの中では、天子アルムを誘拐したリーベルが、まるで「パパ」のような表情を見せた、とある。
世間知らずで天真爛漫、人を思わず笑顔にすることが出来るアルムに、心を解されたのだろう。

「案外普通」な顔。

リーベルをヒーロー視していた青年フーガは、
そんな顔に憤慨する。
崇拝していた自分だけのヒーローが変わってしまったように見えた。
幻滅。
それまで想像もしなかっただろう自分の気持ちを抱えてしまうことになる。


ヒーローというのは多分、人間にとっては拠り所だ。大なり小なり、自分を導く者を欲していると思う。不足原則を充たす存在だから。

そんなヒーローがいなくなったと感じたら、人はどうするのだろう。
私がヒーローになるしかない、と思うだろうか。

自分がそれまでのヒーローを超越出来たら。
あるいは、いっそ私がそいつを見捨てる側になったなら。
そしてお互いの関係ごと、葬りさることが出来たなら。
心の拠り所は戻るだろうか。


結果、そんな気持ちは彼をも蝕んでいったのだが。

心変わりしたのは誰なのか

例えば、愛していると言ってくれた人の気持ちが変わって離れていったとする。
ずっと一緒に居ると言ってくれたのに。
そう信じていたのに。
「あの人は変わってしまった。」
好きだという気持ちが、見放される怖さを恐れる気持ちが溢れる。


見る目が変わったのは本当は自分なのだ。
成長したのかもしれない。何かに影響されたのかもしれない。しかし、以前とは確実に見る目が変わっているだろう。

そして自らの変化を、自分は恐れる。こんなはずではなかった、と。人に幻滅している時、その人に期待していた自分にも幻滅しているはずだ。

そんな心を沈める為には、一度距離を置く、あるいは精神的に優劣を付けて上に立つのが効果的だろう(いわゆるマウンティング)。

フーガは崇めていたリーベルを同じ目線に引きずり落とし、見下した。
苦しみは、それをもたらした相手を貶めることで解消しようとするものだ。

確かに気分が良くなるものではない。しかし、同じ目線に立って初めて分かるものがある。
どの方向を向いているかは、その目を見ないと分からない。

結果、リーベルが目指すものからはブレていないことが分かったのだ。大切なものを守りたいという理想と信念はなにも変わっていなかった。フーガだって、大切な人を、大切な時間を守りたかったはずだ。

お互いを認めることで、互いに同じものを見ていること、そして自分の求めていたヒーローがそこに変わらず居た事に気付けたのだ。


私は彼が、反抗期を迎え親離れをしていく子のように見えた。


リーダー、盟友、父親、息子…
そういう名前をつけて呼ぶのは自分ではなく他人だ。
どう呼ばれたとしても自分自身は自分自身。
逆に言えば何にでも形を変えられるし、そして守るものは変わらない。
愛するものを愛する方法を見つけるために姿を変えるだけなのだ。

天子アルムを誘拐して組織を有利に働かせようとするのも、誘拐による出会いを大切に思うようになったのも、例え反対されても、
自分を変えつつ目的に邁進して来ただけなのだ。

ただ、フーガがその思いに辿りついた時にはもう遅かった。既に人を巻き込み、自分をも壊した。
代償は大きかったし、それの挽回も出来なかった。

人の都合を世界は待たない。

人の恐怖

アイドリッシュセブンの人物は、
もし大切な人が心変わりしてしまったら、そして見捨てられたら、という気持ちを抱きながら生きている。
七瀬陸は黙って去っていった兄、天に見捨てられたと感じていたし、それにより反発して来た陸に天は慄いた。
二階堂大和は自分の生い立ちからくるコンプレックスと寂しさを感じていた。反発心から居場所を壊そうとしていた。そしてそんな衝動のせいで大切な人がまた去ってしまうと恐れた。
四葉環は家族がバラバラになった。泣き声は届かなかった。何をしても元に戻らないと感じた。
逢坂壮五の家族は組織の駒でなくなった自分を受け入れてくれなかったし、唯一の理解者であった叔父は早くに命を落とした。
六弥ナギは友人が出来ず、唯一心許した人間には置き手紙だけで去られてしまった。
はっきりとは書かれていないが和泉三月と一織の兄弟も大切なメンバーや築いて来たものが崩れさることへの恐怖を抱いている。


そして、私たちは、人がすべてその恐怖の中にいるのだと感じていく。

恐怖から脱するには、抱いている恐怖があることを認め、本当に大切なものを知り、目的を掲げ、そこに向かって動けるように変わっていくしかない。

アンチテーゼ

ダンスマカブルの感想を読んでいる中にアイナナへのアンチテーゼという記述があって興味を抱いた。

八乙女楽という存在を貫く「変わらなさ」を崩したというのは現在のアイナナの世界へのアンチテーゼと言えるかもしれない。

自分の感情に気付き変わっていくアイドリッシュセブンの各メンバーの中で、八乙女楽1人だけが変わらないとは思えない。いくら、この時点において完成されたような顔を見せていても、だ。
リーベルのように他人に積極的に近付き、そして影響を受け、感情を与えていくかもしれない。
これまでのクールで熱いというスタンスではいられないかもしれない。心に深く残るような失敗を経験するかもしれないし、もしかすると周りの人間を困らせることになるかもしれない。

それでも、彼の変化を咎められることはないだろう。

ここは、アイナナの可能性を1つ提示したと解釈したい。

変わらない、そして変わり続ける。

TRIGGERは完璧さを求め、それを実現させていくグループだ。いつ見ても変わらぬ姿こそ3人の求める理想であり、見たい風景は同じだと言っていい。
だが、お互いを見る目は少しずつ変わっている。
これから、どのような作用が生まれるのだろうか。

今、様々な価値観が覆る状況を目の当たりにし、生きるか死ぬかを真剣に考えるようになった人も多いだろう。
新しい生活様式を打ち出したということは、これまでの常識に則るには限界があって、何かを変えないといけなくなったということだ。

そして無意識にでも私たちは何かを変えようとしている。

新しい八乙女楽像がここで見えたと思うのだが、どうだろうか。


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