見出し画像

慌てない!焦らない!話に乗らない!【エッセイ】

私は今期、町内会長を拝命した。
近頃は町内のいろんな話を耳にする事が増えた。

そんなある日の出来事である。


たまたま商店街を歩いていたところ、
井戸端会議中の町内会員2人に声を掛けられた。


『ちょっと聞いて、高田さんって人いるでしょう、
お金取られたんだって』と1人が言う。

『どういうこと?』と聞き返す。

『甥っ子が今すぐお金が必要だと電話して来たらしいのよ』と。

『え?………』

驚き過ぎてコトバが見つからない。

ニュースで度々耳にするこのパターンの手口…
 
こんな身近で引っかかる人がいるなんて。

受け子は中学生と高校生の2人組み、

家にあげてお昼ご飯をご馳走し、100万円を渡したという。

なんとも信じがたい話である。

大人びてる子は私服を着てると年齢が分からない、それにしても最近は犯罪は低年齢化している。

しかし、簡単に人を信用するのは問題じゃないのかな?


井戸端会議から抜けてスーパーに入った。

また別のグループから声を掛けられた。

『ご存知?町内の鈴木さん、お金取られたって…』

さっき高田さんがお金取られたって聞いたけどな。



『イ◯ンで買い物して、支払いが出来てないって電話がかかって来たらしいのよ』

鈴木さんは別のパターンの手口に遭ったんだ。


こっちは50万を5回に渡り振り込んだという話。

銀行員が気付いて通報したとか。

それにしても、なぜイ◯ンに確認しなかったのかな?

詐欺の犯人が100%悪い、けれど被害者もこれだけニュースで耳にする事件を、テレビの向こうの他人事と考えるのはいかがなものか…

なんだか今日は詐欺被害の話ばかり聞くわ、

そう思いながら昼食をとった。

直後に、副会長から電話がかかって来た。

『吉田さんから町内の掃除の出欠用紙が届かないんです。ピンポンしたけどお留守みたいで。会長どうします?』

2週間後に町内の一斉清掃がある。
既に住民に出欠を取るため案内状を配っていた。

私は夕方吉田さん宅へ行った。
ピンポン鳴らしたら、すぐにドアが開いた。

『良かった、おられたのね。
実は一斉清掃の出欠用紙を頂きに来たんだけど。
当日…どうされます?』
そう言うや否や、

『お金取られて…』と吉田さんが言う。

 『250万取られたって話しでしょ、今朝聞いたけど。』


『それは別の人、内は2500万よ』

『えっ!!』

『2500〜??』

ぶったまげた!!

『そうよ2500万よ、みんなと桁が違うでしょー』

えーっ、そんな軽々しく…

想像を絶する金額に、
私は目が点になって固まった。


『昨日警察が来て、今日は被害届を出して来て、
忙しいったら…』

吉田さんは淡々と言う。

全く事情が飲み込めない…

吉田さんは、今月に入って500万を5回振り込んだと言う。

これまた信じがたい話である。


正確的には吉田さんのご主人が被害に遭ったと言う話。


何故そんな大金を振り込む事になったのか…

事情はこうだった。

さかのぼる事1年前、

吉田さんのご主人の携帯電話に知らない男から電話がかかって来た。
電話の内容は何かのセールスだったらしいが、
その時は、ご主人は丁寧に断って電話を切った。

この日を境いに男は時々、ご主人に電話を掛けて来るようになった。

『お元気にされてますか?』
さも知り合いのように…

世間話をして
『じゃあまた、お元気で』
と男は電話を切った。

こんなことが半年続き、

年の暮れに、また男から電話が掛かって来た。

『吉田さん、カードでお買い物されたでしょ、支払いが出来てないので一万円振り込んで貰えませんか。』
と言った。

ご主人は、この半年間で男と随分親しくなっていた。

疑う事なく振り込んだ。

その後、度々男が電話して来た。

『吉田さん、寒くなりましたがお元気ですか。』
世間話をして、

『それでは風邪引かれないようお過ごし下さい。』
と言って男は電話を切った。

一万円を振り込んだ日から半年が経った。

そんなある日、

『吉田さん、お買い物されて支払いが出来てませんからATMから振り込んで下さい。前に振り込んで貰った口座にお願いします。金額は500万です』

もうこの時点で、吉田さんのご主人は男を完全に信用し切っていた。

銀行のATMから500万円送金してしまった。

1週間もしない内に男からまた電話がかかって来た。

『振り込みがちゃんと出来てません。再度ATMから手続きして下さい』と言った。

ご主人は躊躇なく銀行のATMから送金した。

このやり取りが1ヶ月の間で4回、この時点で2000万円振り込んでいた。
銀行員が可笑しいと気付いて、ご主人を警察署へ連れて行って詐欺にあってる事が発覚した。

しかし、ご主人はこの直後にまた500万円を振り込んでしまった。
全部で2500万円だ。


吉田さんの奥さんは、ご主人を疑い出した。
詐欺だと警察で言われたにもかかわらず、何で振り込んだのか…

ご主人を連れて病院を訪れた。
そこで、認知症と診断された。

ご主人は振り込んだ事を忘れ、言われるがまま
まだ振り込んでなかったと勘違いして何度も振り込んだという話だった。

男は長いスパンでご主人と親交を深めている。
顔も知らない相手を信用させるまで、じわじわと距離を詰めていた。 

どこかの時点で吉田さん宅の資産を知ったのか、
ご主人に認知症の気があると勘付いたのか。

この事件が発覚するまで、奥さんはご主人の認知症に気付いてないほどなのに。

いずれにしろ500万円を簡単に振り込んで来たから、
男はこれはイケる!と思ったに違いない。

警察からは、被害にあったお金は戻って来ないという説明があったという。

年々高齢者が増える社会、あの手この手で高齢者をターゲットにした詐欺事件も益々増えるだろう。
吉田さんのようなケースも珍しくないかもしれない。
しっかりしている内に、資産を守る手立ては必要と思われる。
また、容易に振り込めないようにする方法も検討して貰いたい。


『老後の資金やったのに、困るわぁ』と言って、
吉田さんは、はははと笑った。
悲壮感はみじんもない。


ご主人を責めてもお金は返って来ない。
諦めて気持ちを切り替えたのかもしれない。
しかし、昨日の今日である。
事件発覚ホヤホヤである。

聞いてる私は手が震えた。

2500万円も取られて笑ってる。
まだまだ持ってますと言ってるような…

『壁に耳あり障子に目あり』
どこで誰が聞いてるか見てるか知れない。

私は辺りをキョロキョロしてしまった。

狙われないように気をつけて!
祈る思いだ。

明日は我が身、慌てず焦らず話しに乗らない!
強く強く思った。

(仮名を使用しています)


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?