【SMDフォーラム】第2回「まちづくりのためのソーシャルデザイン」
ソーシャルデザインのマインドと実践知を学ぶ短期集中型の実践プログラム「Social Mirai Design(SMD)」。2019年度から2022年度まで実施した人材育成講座の締めくくりとして、2023年2月9日・24日にオンラインでフォーラムを開催しました。第2回目は、「これからのソーシャルデザイン」をテーマに、多くの事例を生み出しているプレイヤーの方をゲストにお招きし、取り組みやその背景にある想いなどをおうかがいしました。地域で何かやってみたいけど、何からはじめたらいいのか分からない。全国の地域づくりの事例が知りたい。そんな方はぜひ、このレポートを参考にしていただければ幸いです。
ゲスト:奥河洋介さん(HITOTOWA INC.執行役員)
ゲスト:石原敏孝さん(株式会社いきいきライフ阪急阪神 代表取締役)
聞き手:丸毛幸太郎(ファシリテーター)
奥河洋介(おくがわようすけ)HITOTOWA INC.執行役員
ご近所でまちを楽しみ助け合う「ネイバーフッドデザイン」を推進。 西宮市の浜甲子園団地では、住宅街のエリアマネジメント組織「まちのね浜甲子園」で、共助の仕組みづくりを担う。その他、分譲マンションのコミュニティや防災活動を推進。地域とどっぷり向き合いながら、「風の民」として地域に追い風をつくる。
石原敏孝(いしはらとしたか)株式会社いきいきライフ阪急阪神 代表取締役
阪神電気鉄道にて、自動車事業、西梅田開発事業、不動産事業、沿線活性化、新規事業を担当した後、現在は、阪急阪神ホールディングス新規事業担当、株式会社いきいきライフ阪急阪神代表取締役社長。(同社は、コミュニティデザイン事業、デイサービス事業、シニアコンテンツ事業、地域包括ケア支援ICTサービス事業を経営。)2015年から、沿線コミュニティベース「スタジモにしのみや」、てらまちプロジェクト(尼崎信用金庫・阪神電気鉄道)、芦屋リジューム(芦屋市役所)、堺サンドイッチキャンパス(堺市役所)、いつもyobouいけだ(池田市役所)、十三クロス(阪急阪神不動産)、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)指定管理などを含む、コミュニティデザイン事業の立ち上げを行っています。
近所の人のつながりから、豊かな暮らしをつくっていく。
まずはゲストの奥河さんの取り組みを紹介。
HITOTOWA INC.の執行役員を務める奥河さんからは、「まちを楽しみ、助け合う 暮らしのコミュニティのつくり方」をテーマにお話いただきました。HITOTOWAは、「ネイバーフッドデザイン」をキーワードに、団地や戸建街区で人々のつながり・コミュニティをつくりながら、都市や暮らしの課題を解決するエリアマネジメントや地域プロジェクトを展開している会社です。
「ネイバーフッド(neighborhood)」とは、英語で「近所」という意味。なぜネイバーフッドに着目しているのか、奥河さんがその背景にある想いを語ってくれました。
奥河さん:僕はもともと青年海外協力隊としてセネガルで活動していたり、宮城県の南三陸町で復興支援に関わったりと、さまざまな地域に滞在しながらそこに住む人たちの支援活動を行なってきました。自分の知らない土地で、時には言葉も分からないような土地でやっていけたのは、その地域にいる近所の人たちのやさしさがあったからだと感じています。そうして日本全体を見渡した時に、近所のつながりが希薄になっているのではないかと感じ、「近所のつながり」に着目した事業を始めました。今はつながりを生むきっかけをつくり、最終的には地域の人たちで自走できる仕組みづくりに取り組んでいます。
なぜ近所のつながりが必要なのか。奥河さんいわく、3つのポイントがあるそうです。
1.子育てをしている時
長時間移動が難しかったり、子育てのストレスが溜まってしまったりと、日常の相談相手が必要
2.高齢になった時
体力的な衰えから、これまで通り日常生活が送れなくなったり、移動が難しくなったりと、暮らしをサポートできる人が必要
3.災害が発生した時
生活インフラが滞ってしまった際に、暮らしを維持したり精神的な不安を解消したりと、支え合いが必要
でもこうした近所のつながりは、いざ何か問題が起きてから助け合える関係をつくろうと思っても、すぐにはつくれないものです。それに、「つながりをつくりましょう」「交流しましょう」と呼びかけても、あまり集まってもらえなかったりその場かぎりになってしまったりと、本当につくりたいつながりには結びつきにくいんだとか。
奥河さん:つながりをつくるには、はじめは趣味や学びを通して、楽しさや充実感を感じてもらうことが大事です。そうした「楽しい!」「おもしろい!」をきっかけにつながりが生まれ、一緒に困りごとを解決していく仲間になったり、場づくりをしたりとコミュニティが育まれていく。僕たちはそのきっかけづくりをしているんです。
HITOTOWAの取り組みとして、兵庫県西宮市にある浜甲子園団地のお話をしてくださいました。
浜甲子園団地は、今から50年ほど前に開発された地域。当時は新婚夫婦やファミリー層が住まい、とても賑わったそうです。しかし、あれから50年が経った今、高齢者化率は48%、独居率は50%となり、約1500世帯あった団地の順次建て替えが進められました。売却された土地に分譲マンションと戸建ができ、新たなファミリー層が転入。そこでHITOTOWAでは、地域コミュニティの仕組みづくりを手がけていきました。ここではその取り組みの一部をご紹介します。
○倉庫を活用したコミュニティカフェ運営
自家製パンやフレッシュな野菜を味わえるカフェ「OSAMPO BASE」。一般社団法人まちのね浜甲子園が運営し、近所の人が集う憩いの場になっています。
○子育て層の悩みを解決する場づくり
保育所や幼稚園選びに悩む住民の声から生まれた活動。「はまこー情報局」と題し、先輩ママから保育所や幼稚園の情報を聞くことができて、子育て層のコミュニティづくりにもつながっています。
○コミュニティスペース運営
マンション1階にコミュニティスペースをつくり、近所の人がふらっと立ち寄れる場に。1日あたり40人ほどが訪れ、ご近所のつながりや会話が生まれているんだとか。
○地域のおまつりをアップデート
50年以上続く地域のおまつりを、若い世代にも参加してもらいやすいように運営の仕組みを改善。若い世代が関わることで、おまつりの担い手不足の問題の解決にもつながります。
○遠出しなくても近所で遊べるコンテンツ
コロナ禍で遠出するのが難しい時期は、三密を避けるためにウォークラリーのイベントを開催したり、キッチンカーを呼んだりと、近所で楽しめるきっかけを提供。コロナ禍でも、楽しく豊かに過ごせる企画を行いました。
奥河さん:地域って、多様な人の集まりじゃないですか。全ての人が楽しめる、全ての人が満足できる場をつくるのは難しいと思うんです。だから、さまざまな価値観を持っている人が、それぞれに楽しめるコンテンツや場がいくつもあって、少人数で繋がれるコミュニティがあるのが理想的。僕たちはそのきっかけをつくり、ゆくゆくは住民主体でやりたいことが渦巻いてかたちになっていけばいいなと考えています。
ネイバーフッドデザインについてもっと知りたい方は、こちらの書籍もあわせてどうぞ!
『ネイバーフッドデザイン-まちを楽しみ、助け合う「暮らしのコミュニティ」のつくり方-』著者:荒昌史 編者:HITOTOWA INC. 出版社:英治出版
シニア層の生きがいを表現できる場を。
次に、株式会社いきいきライフ阪急阪神の代表取締役を務める石原さんから、これまでの取り組みについてお話いただきました。
「いきいきライフ阪急阪神」は、鉄道事業を主としてきた阪急阪神グループの新たな取り組みとして、コミュニティデザインやシニアのライフデザイン、デイサービスなどを手がけている会社。阪急・阪神の沿線を対象に、地縁組織との関係を築きつつ、個人の興味や関心、得意なことをきっかけにゆるやかにつながる新しいコミュニティや活動による地域課題の解決を目指しています。
特徴的なのは、シニア層の中でも特に、健康や地域に無関心な人を対象とした取り組み。「楽しい」からはじまる介護予防のプログラムを行なっています。
プログラムには、健康計測などを行う「気づきの場」・コーヒーやカメラなど趣味のスキルアップをはかる「学びの場」・学んだことを地域で披露したり表現できたりする「活躍の場」の3つがあります。
石原さん:ただ学んでもらうだけだと、カルチャースクールでもいいんですよね。私たちが意識しているのは、活躍してもらう場をつくること。例えばコーヒーを淹れるスキルを身につけた人が地域のおまつりに出店したり、カメラ撮影が得意な人たちのコミュニティをつくって、市役所から撮影の委託を受けたり。活動そのものが、地域のにぎわいづくりにつながって、地域活動の担い手不足の解消といった課題解決にも結びついています。
こうしたイベントに参加する人の6割は初参加で、そのうち7割は男性なんだとか。さらに、イベントに参加した8割の人が、その後の行動が変わったと答えているようです。ただ学ぶだけでなく、活躍の場を設けることやコミュニティをつくることで、その人の生きがいづくりにつながっていることが分かります。
さらにコロナ禍をふまえて、人々の意識や行動の変化がデータから読み取れると石原さんは話します。
石原さん:コロナ禍は、自分の命や健康についてだったり、家族の在り方、仕事、経済、社会の在り方など、自分にとって何が大事で何が必要ないのか、何が問題なのかを考える機会になったと思います。調査データを見てみると、家族や人とのつながり、健康意識が高まったという回答や、人と対面で会うことの大事さを感じている人の割合が増えたということが読み取れます。
石原さん:また、孤独は健康へ悪影響を与えるというデータや、友人や仲間をより多く持っている人ほど、生きがいを感じているという調査結果もあります。
石原さん:こうした背景からも、人とのつながりをつくることが、孤独孤立の問題を解消したり、健康づくりや生きがいづくりにつながったりと、つながりの大切さを再認識した時代だったのではないかと思います。さらに今、社会課題に対して具体的な取り組みや活動をする人が、10代〜40代の人を中心に増えているようです。社会活動に参加したほうが、参加していない人よりも生きがいを十分に感じているというデータもあります。シニア層を対象とした企画運営だけでなく、幅広い層に目を向けながら、人々の生きがい、やりがいづくりをサポートしていきたいです。
自分一人で、始められることからやってみる。
ここからは、聞き手の丸毛(まるも)さんも一緒に、クロストークの時間。ソーシャルデザインに関わる人のヒントになるような話が飛び交いました。
まるもさん:地域で何かを始めてみたり、活動したりする時って、はじめに一歩を踏み出す人がいると思うんです。最初に動き出す人の特徴って、どんな人だと思いますか?
奥河さん:「地域」っていう言葉を用いながらも、結局は個人だよなあって思います。最初は自分のようにコーディネートする側の人やサポートする立場の人が一歩を踏み出す人になれたらいいと思うんですが、次に一歩踏み出そうとしている人が動きやすい環境を整えてあげることも大事。先ほどもお話したように、地域っていろんな人がいますよね。小さい規模でいいから、いろんなコミュニティごとに何かやってみたいという人が存在していて、さまざまな取り組みがあちらこちらで巻き起こっている状況になればいいと思います。
石原さん:地域で何か始めてみたいと思っている人って、結構いると思うんです。でも、何から始めたらいいのか分からないという質問をもらうことが多くて。まずは、一人で始めてみるのがいいんじゃないかと思います。自分で、一人でできることからやってみる。広げてみるのは、その先でもいいのではないでしょうか。
まるもさん:これからのソーシャルデザインを考えた時に、「結局、自分はどうする?」っていう問いに向き合うことになると思います。皆さんは、自分自身の活動としてどういう方向に行こうとしていますか?
石原さん:ソーシャルデザインやコミュニティデザインに関わる若い世代を増やすお手伝いができたらいいなと思っています。2025年には、ミレニアル世代(1980年代〜1990年代に生まれた人)より若い人が、生産人口の半分以上を占めるというデータがあるそうなんです。その人たちはデジタルネイティブであり、社会課題に意識を持っているソーシャルネイティブ世代ですから、社会問題の捉え方や向き合い方も変わってくるはず。その人たちの活動を後押しできるような取り組みをしていきたいですね。
奥河さん:これまでにセネガルや南三陸に行ったり、年単位でコミュニティに入りながら地域が自走する支援をしてきて、今で5か所目になります。これからもいろんな地域に入り込みながら活動していきたいとは思っているものの、家族も子どももいるので、これまでとは違ったスタイルで地域と関わっていくことになりそうです。仕事と、地域での暮らし方をうまく融合させていくのが、僕自身のこれからのテーマになると思います。
その活動、ほんとに継続しなきゃダメ?
まるもさん:担い手不足って、どの地域でも課題として挙げられますよね。どんな企画も、「どうやって継続するか?」がポイントにあると思います。お二人はどんなふうにお考えですか?
奥河さん:担い手が足りないと言われるのは、継続することが前提にあるからですよね。でも僕自身は、それを本当にやりたいかどうかを1年ごとに判断すればいいのではないかと思っています。継続するために、誰でもいいから担い手を探すというのも違和感があるなって。その人たちでできることをやって行った結果、継続されるはいいと思うんですけどね。本当にやりたいかどうか、継続すべきかどうかを話し合うことそのものを継続するのがいいんじゃないかと思います。
石原さん:これは僕の発言ではないのですが「後継者はなくても良い」と言っていた人もいましたよ。そもそも、創立した人の発意や問題意識で始めた取り組みがほとんどですよね。後継者がいなくても、その人にとっての一区切りだから、後継者がいなくてもいいんじゃないでしょうか。引き継げる人がいれば、それはそれでいいし、次に新しいことができる仕組みをつくるのも大事ですよね。
奥河さん:新しいことを始めるためにも、人の出入りのしやすさは大事だと思います。同じ人がずっと関わり続けていては、新しさは生まれません。
まるもさん:活動すればするほど、その活動の余白がなくなっていくんだなと思いました。ある程度、人の出入りを促しながら、活動そのものの余白を広げてくのは大事ですね。例えば、活動メンバーは一緒だけど、他団体とコラボして余白を広げてみたりと、やり方はいろいろありそうです。あなたが頑張れば頑張るほど、余白が減っているかもしれないというのは、考えさせられる気づきでした。
これからのソーシャルデザインって?
まるもさん:ソーシャルデザインやコミュニティデザインって、20年単位で社会の有り様が変化しているらしいんです。この図を参考に、これからのソーシャルデザインは、どんなふうになっていくと思いますか?
石原さん:今日の話をふまえると、「自分ごと期」ですかね。みんながソーシャルデザインを自分ごととして捉えられるようになってほしいですし、規模は小さくてもいいから、まずは一人で始められることにトライしてみてほしいです。
奥河さん:僕は「共存期」ですかね。人によって価値観も、考え方も、やりたいことも違う。活動を始めてもいいし、加わってみてもいいし、距離を取ってもいい。その多様性やあり方の違い受け入れる、認めるのが、これからのソーシャルデザインだと思います。
レポート文・西道紗恵
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