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【読書】寺地はるな『ガラスの海を渡る舟』

2023-11-28

寺地はるなさんの『ガラスの海を渡る舟』を読みました。

もっと早く、もっと早くこの作品に出会いたかった……!
たいていの作品に対してそう思うものではありますが、やっぱり本というのは、知らない世界を見せてくれる万華鏡だなぁと。


主人公の羽衣子(妹)と道(兄)は、亡くなった祖父の後を継いでガラス工房を構え、作品の販売や教室をしている兄妹です。

兄の道はおそらく発達障害の性質があって、曖昧な問いかけに会話をうまく合わせられず、友達がいません。
一方で妹の羽衣子は、小さなころから要領もよく、「大物になる」と言われて育ってきました。

ひょんなことから二人で工房を継ぐことになったのち、羽衣子は道のつくる作品にどうしても自分が追い付けないことに気づき、打ちひしがれます。
小さなころからバカにしていたはずの兄に、自分は敵わない…。
文章からにじみ出る悔しさ、情けなさ、嫉妬…いたいほど感情移入ができてしまい、途中苦しくなったり。

それでも、お互いイライラしつつ要所要所では支え合う、というお話です(雑)


この作品に感じたのは、作者である寺地さんの、人間に対する暖かさです。
羽衣子の浮き沈みの激しい性格も、道の不器用さも、どこか愛を持った目線で描いている。

辿り着くメッセージは、2人の祖父が生前言った「ひとりひとり違うという状態こそが、『ふつう』なんや。『みんな同じ』のほうが不自然なんや」という平凡なもの。

でも、その当たり前を受け入れるまでの羽衣子の葛藤(才能で道に敵わないと悟った羽衣子が、道のサポートにまわろうかと考えるシーンがまた、なんというか泣ける…)や、道がおぼろげながらに「自分に向けられている”人とはちがう”の視線は、きっと悪い意味だ」となんとなく感じ取っている描写などを読んでいると、「その平凡を受け入れるのが、実は難しいんだよね」という気持ちになります。

本を読み終わると、ちょっと人に優しくしたくなる。誰かの欠点(だと思っていたもの)を個性だととらえ直して、全部ひっくるめて抱きしめてしまいたくなる。そんな本でした。

いや、本当に、いい話だった……!!


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