【道】 第4回 日本最長の手掘りトンネル(国道291号/新潟県)
国道散策には現道をたどるだけでなく、かつての国道だった旧道をたどる楽しみもある。そこには、ほんの数年前までの日本で日常的に見られた光景が、〝静態保存〟されているかのようにとどまっている。
そんな風景に出会えるトンネルが、群馬県前橋市と新潟県柏崎市とをつなぐ国道291号にある。新潟県の越後湯沢に近い魚沼市(旧小出町)から車を走らせること約15分、近代的な「新中山トンネル」が現れる。ここでぜひ素通りせずに立ち寄ってもらいたいのは、その脇にひっそりと坑口を開く旧道の「中山隧道(ずいどう)」というトンネルだ。
中山隧道は旧小出町に隣接する長岡市(旧山古志村)にある。全長877㍍。人間が手作業で堀ったトンネルとしては日本最長だ。道幅は軽トラックがぎりぎり通れるほどだが天井は高く、とんがり帽子のように三角に切り込まれている。
新トンネルが開通する1998(平成10)年までは現役の国道トンネルだった。かつては抗口に無精ひげのように雑草が生い茂り、地中の闇に吸い込まれそうな雰囲気が漂っていた。今はきれいに化粧直しされているが、一歩内部に踏み込めば、いにしえの空気でさえ〝静態保存〟されているかのようだ。
この素掘りのトンネルには味わい深い歴史がある。着工は33(昭和8)年。山の神の命日にくわ立て式が行われた。作業は農閑期に限定、つるはしを唯一の開削道具として地元の人々の手で堀り進められた。戦争中は工事中断を余儀なくされたが、着工から16年後の49(昭和24)年に開通。掘削機械に頼ることなく、1㌔㍍近いトンネルを人力で貫通させた。その執念とも言える情熱がトンネル表層の不規則な凹凸に刻まれている。
このような工事を可能にしたのも、山古志村では標高の高い棚田に水を供給するため、山腹を走る水脈から取水する横井戸を掘る技術が代々受け継がれていたからだという。山古志地区にはほかにも雪中隧道(全長623㍍)など100㍍以上の素堀りトンネルが複数ある。いずれも生活上の必要から生み出された独自技術による財産だ。
2010・11・6 記
時事通信社出稿