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必要な情報の提示が努力義務となり「サブスク」解約はどう変わる?

2022年6月1日、BtoC取引に適用されるルールの1つである特定商取引法(特商法)の2021年改正の主要部分が施行されました。サブスクリプション型の契約(サブスク)について、申し込み画面等について規律が加わっています。同様に取引ルールの基本とされる消費者契約法についても、2022年5月25日に最新の改正が行われています。消費者契約法の2022年改正では、サブスクにおいては、事業者側に解約に必要な情報を提供すること、解約料の算定根拠を説明することが努力義務として課せられました(2023年6月1日施行)。「努力義務」なので違反しても罰則はありませんが、事業者側もあらためて注意をはらわなくてはなりません。

法改正が立て続けに行われているのは、インターネットにおけるBtoC取引、特にサブスクリプション型の契約における消費者保護への関心が高まっている表れともいえます。。ユーザーにとっては大きなメリットとなりますが、向き合う事業者としては注意すべき事柄も増えていくことになります。サブスクサービスに関わる事業者側として、どのような点に気をつければいいのでしょうか。サブスクサービスに関連した部分を中心に、2021年特商法改正、2022年消費者契約法改正のポイントをピックアップしてをお伝えします。

2021年特商法改正された理由とは?背景

特商法も消費者契約法も、どちらも消費者を守ることを目的に定められた法律です。中でも特商法は消費者トラブルが多く発生する特定の取引形態・サービスを対象とし、不適切な勧誘などの悪質・迷惑行為を規制する行政規制、民事ルール及び罰則を定めています。

対象となるのは訪問販売、通信販売、電話勧誘をはじめ、マルチ商法などの連鎖販売取引、特定継続的役務提供(エステティック、美容医療、語学教室など)、業務提供誘引販売取引(在宅ワークやサイドビジネス商法など)、訪問購入などのサービスです。

特商法は、これまでも定期的に改正されています。今回、新たに改正が行われた理由の1つとしてECサイトを利用したショッピングでのトラブルが増えていることが上げられています。

コロナ禍による「巣ごもり需要」は、EC利用そのものの利用が増えました。そのため、サブスクサービスを含むさまざまなネットビジネスも拡大を続けています。。ユーザーの裾野が広がり、トラブル増加につながったという側面は否めないでしょう。

2021年特商法改正によりEC事業者は新たにサイトの最終確認画面での対応が必要となる

2021年特商法改正により、EC・D2C事業者には、通信販売における契約の申込み段階において、一定の事項の表示が義務付けられました。あわせて、消費者を誤認させるような表示も禁止されています。法律で定められた事項を明記することで、、よりユーザーに「分かりやすい内容」の表示を行わなければなりません。具体的にはウェブサイトやアプリでサブスクサービス申込時に、以下6点の契約事項が確認できる仕様変更が必要になります。

消費者庁の資料『全てのEC事業者様へのお知らせ 貴社カートシステムでの改正法への対応について』によると、カートシステムにおける『最終画面』時、『注文確定』の直前段階までにこれらの事項を最終確認できるように表示しなければならないとされています。

  1. 分量
    商品の数量、役務の提供回数等の他、定期購入契約の場合は各回の分量も表示

  2. 販売価格・対価
    複数商品を購入する顧客に対しては支払総額も表示し、定期購入契約の場合は2回目以降の代金も表示

  3. 支払いの時期・方法
    定期購入契約の場合は各回の請求時期も表示

  4. 引渡・提供時期
    定期購入契約の場合は次回分の発送時期等についても表示(顧客との解約手続の関係上)

  5. 申込みの撤回、解除に関すること
    返品や解約の連絡方法・連絡先、返品や解約の条件等について、顧客が見つけやすい位置に表示

  6. 申込期間(期限のある場合)
    季節商品のほか、販売期間を決めて期間限定販売を行う場合は、その申込み期限を明示

図1  参考:消費者庁「全てのEC事業者様へのお知らせ 参考資料4」)2頁

すべての内容を網羅するように表示することを基本とし、消費者がきちんと認識できるように記載することが必要になります。必要項目をただ並べるだけでは逆にわかりづらい内容となる場合もあります。

そこで、「表示対象となる表示事項・参照箇所を明記し、広告の該当箇所等を参照させる形式」が書面、サイト共に認められています。具体的には、最終画面にリンクを設置したり、クリックで別ウインドウが開いたりすることで必要事項を即座に確認できるような状態を指すとされています。

図 2 消費者庁取引対策課「令和3年特定商取引法・預託法等改正に係る令和4年6月1日施行に向けた事業者説明会」資料(令和4年3月)18頁

ケースバイケースで細かい事例や表記内容が記載されているので、消費者庁の資料をあらためて確認することをおすすめします。

サブスクサービスを行う事業者のケースでは、改正法に対応するための最終確認画面では特に次の内容を具体的に記載しなければなりません。

【提供するサービスの期間・回数等に関する事項】
● サービスの提供期間はどのくらい?提供時期はいつ?(無期限や自動更新である場合には、その旨も)
● 期間内に利用可能な回数が決まっているかどうか、その場合には詳しく記載する
● ユーザーがどのサービスプランを申し込んでいるかも明らかにする

【提供するサービスの料金に関する事項】
● 途中から金額が変わるケースでは、無料→有料に切り替わる時期、支払う金額を記載
● 支払う金額と時期、支払い方法を明示

【提供するサービスの料金に関して】
● キャンセル・解約の方法の詳細を表記。連絡手段や連絡先や条件もわかりやすく。特に、申込時と比べて制限がある、複雑な方法であればその旨を最終確認画面への明示しなければならない
● 解約等の申出期限がある場合には、期限も記載
● 違約金が発生するなどの不利益の可能性の記載、内容も明らかにする

また、改正特商法では、次のルールも新設されています。

電磁的記録でもクーリングオフの通知が可能に
消費者からのクーリングオフがはがきなどの書面だけでなく、電磁的記録(電子メール、USBメモリ等の記録媒体や事業者のサイト内に設置されたクーリングオフ専用フォーム等)での通知も可能になった

不実の告知の禁止
通信販売において、客観的事実と異なる説明を行うことは認められない
例)今解約するとかえって効果が薄れるなど
電話やメールでも不実の告知は禁止

● 取消権が創設された
違反する表示により、消費者の誤認が認められれば契約を取り消すことができる権利。特商法に対する違反行為があれば、業務改善の指示や業務停止命令・業務禁止命令の行政処分や一部罰則の対象となることが規定されている。またユーザー側がクーリングオフや取消もできる他、内閣総理大臣の認定を受けた法人適格消費者団体による差止請求の対象となる。

図3  消費者庁取引対策課「令和3年特定商取引法・預託法等改正に係る令和4年6月1日施行に向けた事業者説明会」資料(令和4年3月)41頁

「解約方法がわかりにくい」との声に応える形で2022年に改正された消費者契約法

特商法が取引の形態や契約内容を精査し、トラブルの多い特定の商取引について規律する法律であるのに対し、消費者契約法は、特商法と同じく「消費者保護」を目的としながらも、より広く、消費契約全般に適用されます。

消費者契約法に関しても、2022年5月に改正法が可決しています。消費者の解約権の行使について新たに踏み込んだ内容になっているのが特徴です。特商法と同様、トラブルが増加しているサブスク契約、中でも解約に関する問題の解消に向けた改正になりました。加えて「消費者契約を取り巻く環境の変化を踏まえつつ、消費者が安全・安心に取引できるセーフティネットを整備」を掲げ、高齢者や若年層など個別の事情に応じた消費者保護を意識している傾向が見られます。

2022年消費者契約法改正では、契約の取消権について3項目を追加しており、以下の行為が認められた場合、取消権の対象になると定めました。

● 勧誘することを告げずに退去困難な場所へ同行し勧誘
● 威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害
● 契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にする

消費者庁:『消費者契約法の一部を改正する法律(平成30年法律第54号)』(改正法概要資料)より

また契約解約については、消費者や適格消費者団体に対し、解約料の算定根拠について説明することを努力義務としています。これは解約方法がわかりにくいとされる、サブスクなどに対応した内容であると言えるでしょう。「努力義務」です。対応しなくても違反とされるわけではなく、直ちに法違反とされるものではなく、罰則などもありません(そもそも消費者契約法には消費者契約に関する規律に違反したことによる罰則の定めはありません)。

しかし、消費者問題として大きく取り上げられれば、悪質な業者として認知される可能性も否めません。またSNSなどで拡散され、コーポレートイメージが損なわれるデメリットも加味しなければなりません。最近取り上げられることも多い「炎上案件」となってしまいます。

法律改正にあたって最後のタッチポイント「解約」を見つめ直す

2021年特商法改正のうち、上記で開設した部分は6月1日からすでに施行されており、2022年消費者契約法改正は2023年6月1日に施行されます。
サブスクでは特に、解約のわかりにくさやサービスへの誤解がトラブルにつながる場合も少なくないように思われます。あらためて「解約」というタッチポイントを再考すべき時期が来ているのです。

顧客との関係性を良好に維持するためのリテンションマーケティングの導入も含め、今一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。

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