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優秀なエース社員は新規事業に不向き【前半:保守本流に最適化編】

新規事業は、過去の延長線上になく不確実性が高く、成功確率が低くて難しいのだから、優秀な人材やエース社員を新規事業リーダーにするのが良いのではないか、と思うかもしれません。

優秀なエース社員というと、どういう人を思い浮かべるでしょうか。
花形事業で大きな仕事を任されて毎年目標達成している人、綿密な調査や計画を立てて合理的で効率的にプロジェクトを推進できる人、人柄が良くて上司からも部下からも人望が厚い人、関連部署との対立意見もまとめ上げてものごとを前進させる力の強い人、会社の方向性に合わせてものごとをダイナミックに動かす人、競合とのコンペにも連戦連勝で売上目標を大きく超える成果をあげる人、品質改善やコスト制御に長け生産性向上や効率化に大きな成果をあげた人。
自他共に認めるエース社員の活躍により、競合との競争に勝ち、生産性を大幅に改善させ、社内の雰囲気は前向きになり、会社の業績は向上し、保守本流事業がより成長します。そのような優秀なエース社員に、新規事業も託して成功に導いて欲しいと考える会社は多いです。

しかし実は、優秀なエース社員の多くは、新規事業にあまり向きません。
このことを知らないために、優秀なエース社員に新規事業リーダーを任せてしまい、多くの新規事業が必然的に失敗してしまっています。

大企業や成熟企業における「優秀さ」は、リーダーシップがある、目標を常に達成する、論理的思考に優れ課題解決力がある、頭脳明晰ながらも穏やかで人柄も良い、花形事業で中心人物の一人である、状況把握力が高く多方面に配慮が行き届く、チームを動機付けてまとめられる、というものではないでしょうか。
これに加えて、出世するタイプ、つまり上が「こいつを引き上げよう」と思われる条件は、調整能力が抜群、空気を読んで気遣いができ人の意見をよく聞ける、会社や上司の方針に沿いながら計画や目標以上の成果を出す、上司からも部下からも人望がある、敵がいないこと、といったもの。

このような能力や資質を備えた優秀な社員が、保守本流事業で成果を生み出し、成果を出し続けることで周囲や上司も一目置くエース社員になっていきます。
しかしこのような優秀さは、新規事業では役に立たないだけでなく、時に仇となってしまいます。優秀なエース社員は新規事業に向かないのは、なぜなのでしょうか。

●業界常識や社内の仕組みに最適化され、ゼロベースで考えられない

優秀なエース社員は、自社が属する業界構造や慣例に詳しく社内の仕組みにも精通し、保守本流事業の枠組みで成功体験を積み重ねています。優れた成果を出すから周囲から一目置かれるエース社員であり、社内常識や業界の既成概念に最適化されている状態でもあります。

さて新規事業は、自社の主力製品・サービスや、世の中の当たり前と違う、新しい事業やプロダクトを企画して立ち上げ、その事業を推進すること。
必然的に、過去の社内常識を否定し、業界ルールを超える発想も求められます。社内常識に反する発想や、業界の前提を疑って常識外れな考え方も必要です。

新規事業では社内常識に反する発想が求められます。
一方で、優秀エース社員ほど業界や自社常識に最適化されています。
そのため優秀エース社員が新規事業を推進するのが難しいのです。

既存の枠組みルール内で成果を出して評価されてきた人は、その前提を疑ったり壊すことが困難です。社内常識から離れてゼロベースで発想することはほぼ不可能。
新規事業は、あらゆる面において保守本流事業と逆のことが求められますが、それは自分自身の”成功体験の否定”という側面も含み、優秀なエース社員ほど難しくなります。
これまでにない新事業アイデアが出ても、優秀な人ほど業界に精通してしまっており、そのアイデアの実現が難しい理由や、過去に存在しなかった理由など、ダメだと思える理由をすぐにいくつも思い付いてしまいます。優秀であるがゆえに、”アラ”が見えすぎてしまうのです。

●社内調整に長けており、顧客視点より社内視点を重視してしまう

優秀なエース社員は、社内調整能力が抜群に優れています。難易度の高い問題対応において、社内の関係部署の意見を丁寧に収集し、それぞれの部門長の顔も立つような着地点を作り、必要な根回しも適切に行い、不要なトラブルを発生させぬようものごとを進めます。
企画検討において、会社や上司の方針が曖昧であっても、その真意を的確に汲み取り、上司のイメージを適切に具現化させる企画を進めます。社内の空気感を捉える能力が高く、そのような動きの積み重ねにより、社内から一目置かれるエース社員になります。

さて新規事業は、自社の保守本流”以外”に取り組むため、必然的に社内に情報やノウハウが乏しいことに取り組むことになります。社外に情報を求め、お金を払ってくれる可能性ある”未来の顧客”の声に耳を傾け、顧客情報を貪欲に収集せねばなりません。

新規事業では社外の情報が求められます。
一方で、優秀エース社員ほど社内の声を重視します。
そのため優秀エース社員が新規事業を推進するのが難しいのです。

優秀な人は、いつもの手際良さを発揮し、会社の上層部の考えを察知し、関係部署の考えを収集しようとします。社内調整力抜群なため、社内関係者が納得する整合性の高い新事業プランを練り上げます。そして、顧客不在の事業プラン、誰の課題を解決することもない事業プランが出来上がります。
仮に顧客の声を十分収集したとしても、仮に自分の考えに基づく直感が生まれたとしても、適切に社内の声を聞き社内調整するほど、社内都合の事業プランが出来上がります。優秀な社員は、社内調整が大切だと心得ているため、無意識に社内の空気に合わせにいってしまいます。

●上司に忖度し、顧客視点より上司視点を重視してしまう

優秀なエース社員は、会社や上司の考えを的確に汲み取り、きちんと忖度してものごとを進める能力に長けています。上司の考えを具現化し、上司からの全幅の信頼を得ることが、サラリーマンとして重要なことを心得ています。
企画検討の推進にあたり、自分で勝手に進めることはせず、適切に「報・連・相」を行い、上司の判断を仰ぎながら進めます。上司にとって大変頼もしい部下です。

さて新規事業は、自社の既存事業”以外”への取り組みであるため、上司が新規事業の経験者でない限り、上司も適切な進め方を知りません。右腕のあなたに、いい新事業案を考えてくれよと、藁をも掴む気持ちで祈っているかもしれません。

新規事業は上司も答えをわかっていません。
一方、優秀エース社員ほど上司の意を汲み、上司の判断を仰ごうとします。
そのため優秀エース社員が新規事業を推進するのが難しいのです。

上司の側も、部下から相談されれば、それらしく振る舞わなければなりません。「〇〇も調べる方が良い」「〇〇の観点の考慮も必要では」「〇〇さんにも相談する方が良い」などと、新規事業素人の上司は言うことになります。優秀な社員ほど上司の言葉に従い、新規事業素人の○○さんの意見を伺います。○○の観点も考慮します。そしてそれらを適切に足し合わせた、社内都合の事業プランが出来上がります。


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