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優秀なエース社員は新規事業に不向き【後半:真面目すぎ編】

優秀なエース社員の多くは、新規事業にあまり向きません。このことを知らないために、優秀なエース社員に新規事業リーダーを任せてしまい、多くの新規事業が必然的に失敗してしまっています。
優秀なエース社員は新規事業に向かないのは、なぜなのでしょうか。

●答えは予めあると思っており、過去にない答えを紡ぎ出すことに不慣れ

特に大企業において、優秀な社員は高学歴・難関大学卒業者である場合が多いです。東京大学は日本の最高学府ともいわれ、知的能力が日本でトップクラスの最優秀層。実際に日本の大企業の社長は、東京大学卒業者が多いです。

日本の学校教育では、数えきれないほどの「テスト」を経験します。
テストでは、予め「問い」が設定されており、それを説くものです。その問いには、予め「模範回答」があり、その模範回答と同じように答えられると正解です。「問い」に対して選択肢が提示されており、そこから「正しいもの」を選択するタイプのテストもあります。
予め「問い」は設定されている。予め「模範回答」が存在し、その通りに回答できると正解となる。予め「選択肢」が存在し、そこから正しいものを選択できると正解となる。
日本では、小学校〜高校まで12年にわたり、そのようなテストで学業評価をされ続け、そのようなテストを最もうまくこなせた人が最難関大学に入学できます。
そのような経験の結果、難関大学卒業者の中には、問いに対する「模範回答」は予めどこかに存在し、問題解決とは「模範回答」に近い内容を当てにいく行為、もしくは予め存在する「回答を探す」行為だと思っている人が少なくありません。もしくは、予め与えられる「選択肢から選ぶ」行為だと思っている人もいます。

さて新規事業は、自社や業界の当たり前と違う、新しい事業やプロダクトを企画して立ち上げ、その事業を推進することです。今のやり方や内容に異議を唱え、過去の社内・業界常識を否定することになりますので、そこ模範回答を探しても見つかりません。答えを探そうとしても、見つかりません。自らの頭で考えて、過去にないものを紡ぎ出す必要があります。
高学歴者は、「模範回答」に近い内容を当てに行く、「回答を探そう」とします。
一方で、新規事業は過去に回答はなく、自分の頭で考えて新たなものを紡ぎ出す行為です。そのため優秀エース社員が新規事業を推進するのが難しいのです。

●ルールは守るものと思っており、新しいルールを作ることに不慣れ

優秀な社員は、「和をもって貴しと為す」を基本とし、社内ルールを当然のように適切に守ります。ルールに沿った活動が、大組織の適切な運営、会社業務の適切な遂行に大切だと心得ています。
会社業務やルールの中に、おかしいなと思ったり、不合理に感じることはあっても、ルールに沿った業務遂行のために、自ら柔軟に環境に適応し、ものごとをつつがなく進めます。環境適応力が優れています。

さて新規事業は、社内や業界常識、世の中の当たり前と違う、新しい事業を企画推進することです。必然的に今までのルールに沿ってはならない面も出てきます。事業内容によっては、社会の動きに追いついていない既存ルールの経年劣化点を捉えて、新しくルールを作り変えて事業化を進めるものもあります。不合理が放置されたままの現状環境に適応するのではなく、不合理や不条理を解決するための新規事業を企画することもあるでしょう。

新規事業は、積極的にルールを作り変える営みでもあり、環境の不条理や不合理を解決しようとする営みです。
一方で、優秀エース社員はルールは守るものと考えます。不条理な環境でも、それを解決するのではなく、自らを変えて不条理な環境に適応します。
そのため優秀エース社員が新規事業を推進するのが難しいのです。

新規事業は、既存とは異なる事業を作ることであり、新しいゲームのルールを作り上げることでもあります。ルールとは、過去の時代のルールを守って不条理を温床するものではなく、未来に向けてより良くするものです。現状ルールを積極的に突破することも、時と場合によっては必要です。
環境適応力が優れていることは、組織や事業の現状を維持管理するためには大切です。不条理や不合理が目に留まっても、「そういうものだ」と大人の理解を示したり、見て見ぬ振りができるのは、組織内ルールの和を乱さぬためには大切な能力です。しかし新規事業においては、不条理や不合理、不満や違和感に気づくことができ、それをなんとかしようと思う気持ちが大切です。

●優秀なエース社員が向く新規事業

優秀なエース社員はいわゆる新規事業には向きませんが、ある特定の新規事業は、優秀なエース社員が活躍します。それは、特別な知覚が不要で、人と同じことをし、上司や経営の判断に従って進める新規事業です。

保守本流事業の主たる顧客に向け、本流事業から周囲に滲み出るような事業の開発は、優秀エース社員の出番です。事業投資もリスクも過去の延長線上で読めるような、不確実性の低い新規事業は、試行錯誤はあまり求められません。既存顧客の課題をよく捉えており、社内の主流派からの信頼があるエース社員がリーダーとなり推進することで成功確度が高まります。

保守本流事業から滲み出し系でなくとも、既に確固たるビジネスモデルが存在する事業に新たに取り組む場合も、エース社員が力を発揮します。例えば、製造メーカーが直販EC事業を開始する、クリエイティブ制作受託会社がクリエイティブ職特化の人材紹介事業を開始する、などの新規事業です。自社にとっては初めての事業でも、世の中には数十年前からその事業は存在し、ビジネスモデルとして完成しており業務ルールやノウハウも確立されており、不確実性は低いです。
社内の既存ルールや業務と合わない部分はあるため、社内調整や新たな業務プロセス構築は必要とされますが、社内調整業務は優秀エース社員が最も得意とするところでしょう。

不確実性の高い新規事業の中でも、取締役会の反対を押し切ってでも社長がやると決め、社長が最前線に立って社運を賭けて取り組む新規事業は、社内の異端児では手に負えず、優秀エース社員が全社から総動員されます。
「社運を賭ける」と社長が口先だけで言うのではなく、社長が獅子奮迅の活躍で10年20年に一度の新規事業を進める場合、常に社長の判断を仰ぎながら進め、社内から表立って反対の声が上がることはありません。社長の付託を受けて、組織を大きく動かして進める仕事は、優秀エース社員が得意とするところです。

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