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既にある市場に新規参入する難しさ。事例:ユニクロ野菜生産・販売新規事業の場合

新規事業のパターン「2:世の中に以前から存在するが、自社にとって新規事業(既存と大きく違うやり方で参入)」は、日本経済全体が拡大した昭和の経済成長期や対象市場が拡大中のタイミングではうまくいくケースもありましたが、市場規模が横ばいにある業界では、新規参入の成功率はやはり10%未満といえそうです。

以前から存在する市場に、満を持して新規参入して失敗した事例として、ユニクロの生鮮野菜の生産・販売事業があります。

■ユニクロによる生鮮野菜の生産・販売新規事業

2002年の秋、野菜の生産から販売まで一貫して手がける、生鮮野菜事業「SKIP」を、ユニクロ運営元のファーストリテイリング社の新設子会社が開始しました。
契約農家や酪農家が生産する、新鮮で安全で高品質な生鮮食品のみ取扱い、販売方法はEC購入・定期配送の通信販売とSKIP専用トラック移動販売の2種類で開始されました。
初年度売上目標は16億円で、2〜3年で単年度黒字化を目指すものでした。

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■当時、ユニクロが仮説立てた業界課題と勝機

商品企画ー生産ー物流ー販売まで自社一貫管理し合理化を徹底するユニクロを展開する同社から見ると、生鮮食品に多くの非効率やムダがあるように見えたそうです。
ユニクロで成功した経営手法や合理化スキルを用いて「スーパーカーのような野菜をカローラ並みの価格」で提供し、長期的にユニクロと並ぶ事業に育てたかったようです。
当時執行役員の柚木氏が起案して同社の役員会に附議。「自社がやる必然性がない」「勝ち目がない」と、役員は全員反対する中で、社長の柳井氏の「やってみろ」の鶴の一声で、新規参入が決定されました。

■結果

事業開始するも売上は伸び悩み、事業開始からわずか1年半で事業撤退、生鮮野菜事業は解散しました。同社史上で最大級の失敗プロジェクトになり、累計損失は26億円でした。

新規事業が失敗した最大の理由は、主婦や主夫の現実を見ていなかったこと。優秀な自分が失敗するはずないと思っており、柚木氏は妻から「100回くらい言ったのに」と言われるほど、顧客視点が欠落していた状態だったそうです。
また「自分から諦めた」ことも、新規事業が失敗に終わった大きな理由。実は社長の柳井氏は「もっと続けてもいい」と言っていたそうです。しかし、赤字が続いて勝算が見えなくなった事業を、続ける覚悟も胆力も柚木氏にはなかったそうです。

■野菜新規事業を立ち上げた柚木氏のその後

野菜新規事業の責任者だった柚木氏は、辞表を柳井社長に渡すと「26億円損して、勉強して、それで辞めますですか。まずはお金を返してください」と慰留されます。
柚木氏は、社内の管理職に「野菜事業の失敗理由」を書いてもらい、失敗反省会を実施。大批判を浴びつつも、反省ポイントを小冊子にまとめ、社内に配布しました。

社内で禊の数年を過ごした後、大赤字だったユニクロ系列の低価格アパレル「ジーユー」の副社長に就任し、獅子奮迅の働きでGUの黒字化に貢献。その後GU社長に就任し、数々の改革を推進し高利益体質の事業化への転換に成功しました。

■農業に新規参入したその他の大手企業の例

【オムロン社】
・1999年5月に室内トマト生産事業を開始。
・20億円以上を投じて、北海道千歳市にトマト栽培施設を設置。オランダの太陽光型機材を輸入。
・2年8ヶ月で事業撤退。
・オムロンの制御技術を活用して農業の工業化を狙ったが、黒字化の目処立たず(自社の技術力を活用しようとした)。
・黒字化どころか、トマトをまともに育てられなかったそう。
・「夏暑く、冬寒い」千歳市と、オランダの設備が合っていないという、計画時点での不備。

【吉野家社】
・2009年に農業に参入。
・外食チェーンの食材にするためにコメや野菜を生産(顧客基盤=自社外食店舗を活用しようとした)。
・2017年、事業撤退。
・農地分散により経営効率が低く、栽培技術を高められず、黒字化の目処が立たず。

【東芝】
・2014年、人工光型植物工場で野菜生産・販売ビジネス開始。
・旧フロッピーディスク工場の遊休施設として活用。
・年間3億円の売上目標。
・2014年度中に、海外に大規模植物工場を建築予定。
・2016年、植物工場を閉鎖、事業撤退。

・2019年、人工光型植物工場での野菜生産・販売事業を行う合弁会社を設立。
・2020年10月に操業開始、11月に初出荷。

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【ニチレイ】
・野菜を低温貯蔵して加工する6次化事業を、2009年より事業開始。
・ニチレイの視点では、背景に消費者の国産志向の高まり。
・投資額は約10億円(うち4億円は補助金) 
・一度も利益を出すことができず、2016年に事業撤退。
・事業開始から1年後には、既に事業継続性が不安視されていた。
・計画上は合理的だったが、現実は中間業者だけをやっては成立しない事業だったのかもしれない。
・販売面でも、冷凍食品と生鮮野菜は全然商売が違ったそう。
https://business.nikkei.com/atcl/report/15/252376/030200035/

【エア・ウォーター社】
・産業ガス大手のエア・ウォーター社は、2009年北海道千歳市のトマト農園を買収し、農業に参入。
・もともとオムロン社が建てた施設で、買収時は廃墟同然に荒れ果てていた。
・収穫期変更、品種と販路の多様化、販売と栽培の連携と試行錯誤、ガス会社の強み活用(植物生育に必要な二酸化炭素供給する炭酸ガス設置とコントロール技術)など様々な施策を継続的に実施。
・野菜だけでは十分成長できないこともあり、自社技術活用して冷凍食品製造に参入。酸素や窒素の低温運搬技術の活用、農産物の洗浄・選別機械会社の買収、青果物の加工・卸販売会社の買収、冷凍野菜メーカーの買収、野菜飲料メーカーを買収、成果物販売小売店を買収。トマト農場買収をきっかけに、川上・川下の双方向に拡大させ、ビジネスを成立させた。
・2016年3月期に黒字化。
https://business.nikkei.com/atcl/report/15/252376/102000068/

【その他、多数の上場企業】
野村総合研究所の異業種参入によるアグリビジネスレポートによると、かなりの数の上場企業が農業ビジネスに参入しているようです。

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