求められるのは圧倒的な当事者意識と利他意識──立ち上げから3年、SmartHRプリセールスの今
マルチプロダクト化、エンタープライズ領域の市場獲得を進めるSmartHRでは、案件の複雑化、高度化に伴い、さまざまなスキルのセクションが協働するチームセリングの体制づくりを進めています。
なかでも業務要件・機能要件が複雑な案件において、セールス部門とともに商談にあたるセクションである「プリセールス」の重要性はますます高まっているところです。
2021年5月の立ち上げ以来、セールスの強力な相棒として二人三脚で走り続けてきたプリセールス。その役割と進化に迫ります。
語り手は、プリセールスの立ち上げを担い、現在はエンタープライズ事業本部の本部長を務める佐々木昂太さん、そしてプリセールスとプロダクトセールスを兼務する久永一樹さんです。
エンタープライズ領域進出を見据えたプリセールス立ち上げ
──今から約3年前、2021年5月にプリセールス部門を立ち上げたのが佐々木さんですが、まずは立ち上げの背景を聞かせてください。
佐々木:当時、SmartHRはエンタープライズ領域のお客さまへの導入をより強化しようとし始めた時期でした。
その際、商談時のより早い段階からロードマップをお客さまと一緒にすり合わせつつ受注率を上げていく攻めの部分と、導入後にもしっかり活用いただけるように機能と運用のギャップを埋める守りの部分、双方の面で組織としての力をもっと高めていかなければならないと感じていました。さらにはお客さまとの対話から得られた知見をフィードバックして、プロダクトを進化させることも必要です。こういった役割を明確に形にしていくべきだと考え、プリセールスを立ち上げました。
当時は日本のSaaSスタートアップが盛り上がり始めた時期ではありましたが、マーケットとしては中小企業向けが主でした。エンタープライズ領域への市場拡大を見据えたプリセールス部門の組織化は、SaaSスタートアップの中ではSmartHRが先行していたと言えます。
──そこから3年が経ち、2024年1月の組織改編では、エンタープライズ領域に本気で向き合うための体制を構築しました。その中でプリセールスの役割は変化していますか?
佐々木:プリセールスとしての成果をしっかり出せるように力は着実についてきました。
さらに、人事・労務プロダクトからスタートしたSmartHRは、現在はタレントマネジメント領域をはじめマルチプロダクト化しています。マルチプロダクト化をさらに進め、エンタープライズ領域で拡大していくには、個々が力をつけながら、その力を掛け合わせてより強い力を生み出して戦うチームセリングが求められるようになってきました。その点でもプリセールスの重要性は高まっていて、役割はどんどん拡張、レベルアップしています。
プリセールスの役割は、商談という試合をコントロールする監督のようなもの
──具体的にはどういうことでしょうか?
佐々木:商談においては、お客さまが実現したいこととSmartHRでできることをすり合わせ、適切な運用の提案をしていくことが必要です。プリセールスはそのすり合わせを窓口のセールス担当者と二人三脚で行います。
単一プロダクトからマルチプロダクトに進化すると、新しい領域のプロダクトのソリューションを提案するセールスが関わってくるわけです。SmartHRはこの役割を「プロダクトセールス」と呼んでいます。二人三脚だけでなく、より広い知識を持ったいろいろな人を巻き込んで商談を進めていくことがより重要になってきます。
──なるほど。プリセールスとして現場に立っている久永さん、いかがですか。
久永:マルチプロダクト化していく中で商談を進めていくには、今すでにある機能だけでなく、お客さまが本格的に活用する頃にはこういう機能が育ってきますよ、と未来像を伝えることが求められます。
そのためにプリセールスとしては今後プロダクトがどうなっていくのか情報を得なければなりません。それも断片的な情報ではなく、どんな設計思想に基づいてどうプロダクトが成長していくのか、ストーリーをもって把握する必要があるわけです。
もちろん、プリセールスであってもすべてのプロダクトの知識を網羅しているわけではありません。必要に応じて、プロダクトセールスやプロダクトサイドのメンバーに声をかけて商談に参加してもらうといった采配も、プリセールスの役割に含まれます。
──かなり統合的な役割を担っているんですね。
久永:野球で例えると、プリセールスは1回から9回まで投げ続ける先発のピッチャーみたいな感じです。それに対して、各プロダクトに特化したプロダクトセールスは、そのソリューションに特化したトピックにおいてメインを張るワンポイントリリーフのようなもの。
プリセールスが考えるべきは、どのタイミングでワンポイントリリーフを呼ぶかなんですね。むやみやたらに呼んでもワンポイントリリーフの負荷が高まるし、右バッターが得意な人を左バッターをぶつけたらめちゃくちゃに打たれたりするわけで。ここぞ、というときにしかるべき人を呼んで活躍してもらう、そういう「頼る力」がプリセールスには求められると思います。
──窓口のセールスがエースピッチャー、プリセールスはゲームの全体を掌握する監督のような役割とも言えそうですね。
久永:そうですね。受注に至るまでの商談でマネジメントすべき要素は大きく2つに分けられます。ひとつはお客さまとの関係性構築、もうひとつは、1回1回の商談そのものです。前者は、お客さまとの密な関係性を築くため、基本的にセールスが担当します。でも、それはめちゃくちゃ体力を使うんですよね。
そこで、受注に至るまでのプロセスでひとつひとつの商談をコントロールするのはプリセールスに任せてください、と。そういう役割分担です。
佐々木:米国の研究で、1人で提案するのと、2〜3人のチームで提案するのとでは受注率が2倍になるというデータがあるそうです。5人から10人程度の意識決定者が関わるようなエンタープライズ領域ではなおのことですが、より複雑な課題を扱う際には、こちらも複数の視点を合わせて、お客さまと対峙していくことが重要になってきます。
例えばですが、導入する上で現状の機能では解決できず運用で解決する範囲が大きくなるリスクがあるとします。そういうときにセールスは、いったん話を止めて議論する発想にはなりにくいものです。受注という自分自身のミッションにある意味で相反することになりますから。そこにプリセールスがいれば、また違った視点でリスクに着目し、メリット・デメリットを洗い出して運用方法を考え、場合によってはプロダクトサイドのメンバーを呼んで改善してもらい、そうやってお客さまも納得した上で導入していただくことができるんですね。
エンタープライズ領域での提案は半年、1年かかるのが当たり前の世界です。セールスが一人で背負っていたら、心が折れそうになるときもあります。プリセールスとセールスが二人三脚で、大変なときはお互い励まし合い、支え合って進んでいくことで、喜びは2倍になるし苦しみは半分になるわけです。これもまた、エンタープライズ領域のチームセリングのポイントだと思います。
──長く複雑な戦いですものね。
久永:常に励まし合って前に進んでいる感じですね。
プリセールスは、セールスと異なり売上数字のプレッシャーを直接的に背負っているわけではありません。僕たちとしては、例えば今期受注の可能性には目をつぶってでももっと大きく提案すべきではなど、セールスにとっては一部利益相反するようなことを言わなきゃいけない場面もあるんですよね。数字を背負っていないことに関して申し訳なさを感じているからこそ、対等に話すために、引け目を感じないくらいお客さまに向き合わなくては、と常に考えています。
プリセールスに求められるのは、圧倒的な当事者意識と利他意識だと思うんですよね。承認欲求とか、ほんと要らないです。万が一、社内ですごいと思われたくてアピールしようなんて考える人がいるとしたら、そんな暇があったら目の前のお客さんに向き合ってほしいし、セールスの折れそうな心を支えて応援するサポートをしてほしいなと。そうすることでセールスの人との絆も生まれるし、やってて良かったと思えるはずです。
僕、セールスと一緒に受注の契約書をもらいにお客さまのところに行ったりもするんです。一緒に記念撮影とかして(笑)。やっぱり、それが醍醐味ですよね。
「取引」ではなく、ともに「取り組む」関係性を前に進められるのがプリセールス
──佐々木さんが2021年に立ち上げたプリセールスチームに、久永さんは2022年2月から加わりました。3年経って、ご自身の成長も感じますか。
久永:そうですね。入った当初は、佐々木さんから投げかけられるたくさんの球をとにかく打ち返すのに必死でした。でも今はだいぶ対等にというか、フランクに意見交換ができるようになってきています。それはプリセールスとしてできることの幅が増えてきたということなのかなと思います。
佐々木:いや、対等というか、もう自分よりすごいですよ。本部長としての私の仕事は、組織の進む方向を決める、旗を立てる、そのために組織づくりや採用、投資などのリソースを確保するところにありますが、それぞれのセクションにおいてはもう、自分以上に優秀な人がいます。
先日、小売業のお客さまへの提案に同席させてもらいました。
久永さんがすごいなと思ったのは、小売のビジネスモデルをよくわかっていて、それにフィットするタレントマネジメントの進め方も過去の提案からいろいろパターンを把握した上で、お客さまと対等にディスカッションできるところです。
あとは、行動力。店舗にもいくつか自ら足を運んで、従業員の働き方や店舗の特徴を仕入れた上で提案を持っていくんです。そりゃもう私は勝てませんよ(笑)。
──それはすごいですね!お客さまにも告げずに行くんですか?
久永:はい、こっそり、片道2時間くらいかけていくこともあります。行ってみると、電車やバスがないエリアで、その地域の住民にとっては欠かせないお店だということがわかったりするんです。ああ、こんなに地域に愛されている店なんだ、と実感すると、お客さまのこともますます好きになる。提案のときにもめちゃくちゃ思いが乗っかるんですよね。
前期にある靴下メーカーの受注を獲得しましたが、もともと僕、そのブランドの商品が大好きで。うちにあるそのメーカーさんの靴下を全部持っていって、昔から愛用しています、とお話ししました。とても丈夫で5〜6年履いていますよというところから、生産工程にはすごくこだわりを持っていて、と話が発展しました。
導入にあたっては、お客さまの理想を叶えるばかりではなく、現実を見ていただかないといけない場面も生じます。それを乗り越えていただくには、どれだけ商談に対して前向きになっていただけるかも大事なんですね。それには、商談の中でのちょっとしたコミュニケーションも良い方向に影響するんじゃないかと僕は考えています。だからこそ、普段から商談の中で意識していますね。
佐々木:SmartHRは、単にシステム、機能を売ろうと考えているのではありません。コーポレートミッションに「well-working 労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」と掲げているように、その先に従業員さんの働き方を変えて、well-workingな社会を作るための解決策を提供することを意識しています。
そのために、個別の機能の話に終始せず、お客さまの業務のありかたもよく見ながら、未来の絵を描いて提案する。久永さんの情熱はそこにつながっていると思うんですよね。
そして、私たちはお客さまと「取引」をするんじゃなくて「取組み」をともにしようという姿勢を大切にしています。ソリューションを提供する私たちと、それを実現するお客さまとで、パートナーとして一緒に取組をしている状態。それを実現するために、プリセールスはいろんな人を巻き込んでプロジェクトとして取組みを前に進めていく役割を担っています。
裁量権の大きさ、幅の広さがSmartHRのプリセールスの特徴
──プリセールスの役割や働き方についておうかがいしてきましたが、SmartHRのプリセールスならではの働く魅力、面白さはどんなところにあると思いますか?
佐々木:プリセールスとひと言でいっても、企業や組織によっては、技術面の支援だけを頼まれてやるなど、セールスのサブ的役割になるケースもあります。SmartHRのプリセールスは、セールスサイドとプロダクトサイド、双方と対等な立場で、やるべきことを突き詰められるのが特徴ではないでしょうか。
この関係性が根づいたのは、SmartHRのオープンでフラットなカルチャーによるものが大きいと思います。部門間で情報格差があると、どうしてもリードする立場とサブの立場が生まれやすいですからね。
久永:SmartHRのプリセールスが他とどう違うか、僕は2つあると思っています。ひとつはセールス組織やプロダクト組織との距離の近さです。最後の最後まで、当事者意識をもってセールスに伴走することができるし、プロダクト組織からは今ある機能だけでなく、今後どんな機能に育っていくのか、リアルタイムに近い形で情報共有がなされます。また逆にお客さまの声をもとに、プロダクトへのフィードバックもできる。こういった「裁量権の大きさ」はSmartHRならではだと思います。
僕は前職のコンサル時代、自社プロダクトではないSaaSをコンサルの立場で提案していました。プロダクトへのフィードバックができず、プロダクトの将来像が把握できないためにお客さまにワクワクしてもらえるような提案ができないという状況にもどかしさを感じていました。SmartHRは自社プロダクトということもありますし、プリセールスとして、プロダクトの将来像も含めてお客さまと未来に向けた提案ができるのがいいですね。
もう1つは、商談のなかでもいろんなコミュニケーションがとれる「幅の広さ」です。プリセールスというと、いわゆる技術営業、エンジニアが高度な技術の話をするというイメージもあるかもしれません。SmartHRの場合はそういう話もするし、地道に営業もするし、なんでもできるのがすごく面白いポイントだと思います。
佐々木:プリセールスにもいろんなスタイルがあっていいと思います。例えば情シス向けのプロダクトを展開する際には、ひたすら技術に詳しい人のほうが向いているでしょう。タレントマネジメントなら違うスタイルがいいかもしれません。久永さんのように店舗を自分の目で見るのも自由で、「そんな、わざわざ見に行かなくていいよ」と制御することもありません。自由でフラット、型にはめないのがSmartHRらしさです。
久永:僕がそうしたいからやってる、という自由度も、SmartHRのプリセールスの面白さですね。プリセールスの立ち上げメンバーは僕を含めて3人いまして。いまだに切磋琢磨し合えるメンバーなんですが、提案のスタイルは三者三様で全然違います。提案書に生きざまが表れますね。
僕はエモーショナルなコミュニケーションをしたいタイプで、一人はきっちりと議論して決めていくタイプ、もう一人は両者をバランス良くやるタイプです。
自分に合わないコミュニケーションをしようとしても絶対ボロが出ます。先ほどお話しした、圧倒的な当事者意識と利他意識を持ってもらえたら、どう力を発揮するかはその人のやり方で構いません。その人がその人らしくいられるスタイルで仕事をしてほしい、というのがSmartHRのプリセールスです。
お客さまに「これがやりたいんだよな」と思い続けてもらうために
──最後に、プリセールスの今後について、どう見据えているか聞かせてください。
佐々木:SmartHRとしてマルチプロダクト戦略が本格化していく中、その価値を最大化できるチームセリングもどんどん加速していかなければなりません。
SmartHRは自律駆動のカルチャーも大切にしていて、一人ひとりがプロフェッショナルで自律が成り立っていることが大前提です。その上で、さらなる変化に対応し限界突破し続けるためには、個と個の協働によって掛け算でさらに強くなることが重要だと考えています。
久永:プリセールスの可能性は無限大だと思っています。僕はプリセールスに入ってくる人には、問題意識を大事にしてほしいなと思うんですね。その問題意識とは、その人が過去経験したことに根づいて育つもので。
僕で言えば、前職はコンサルの立場で、数年かけて大規模システムを導入する仕事をしていると、あるとき手段が目的化してしまうんです。なぜこのシステムを導入することにしたのか、当初の目的を誰も語れないフェーズが来て、でもサンクコストになるからなにがなんでも着地させなきゃいけなくなる。
それは仕方ないところもあるんですが、僕は、SmartHRでは手段が目的化することは絶対に避けたいと思っています。相対するお客さま全員に「うん、これがやりたいんだよな」と常に思い続けていただける提案をしたいです。そのためにはお客さまのことをとことん知りたいし、「今日8時間働いた中で、久永さんと打合せした1時間が一番楽しかったな」と思ってもらえるような時間にしたいなと商談の準備をしています。
これは僕自身が前職で経験した問題意識から出てくる行動であって、問題意識の持ち方はみんなバラバラでいいと思います。僕たちSmartHRが大切にしている考え方には「100人が100の問題を解く」というのもあるんですが、プリセールスメンバーが各々自分が解きたい問題を設定してそれを解いていくと、それが会社のためになる、それがプロダクトの成長につながる、それが使ってくれるお客さまのためになる。それがどんどん広がっていけば、社会のためになる。バタフライエフェクトですね。一人の行動を通して、どんどん世の中に何か影響を与えていきたい、そういう動きの起点にプリセールスがあればいいなと思います。
本記事で語られた「プリセールス」の役割について、さらに語り尽くすイベントを7月26日に、LayerXさんとの共催で開催します。ご興味をお持ちいただいた方はぜひお越しください!
制作協力:イトウヒロコ