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【前編】解くべき課題を見極めて、価値を創造する─SmartHR PMMインタビュー

SmartHRでは2019年からPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)というポジションを取り入れ、2024年2月現在、12名のPMMが活躍しています。PMMという職種は日本ではあまり認知度が高くなく、他職種との役割の違いがわかりにくいという声も少なくありません。そこで今回は、SmartHRでPMMを務める重松裕三さん、辻鷹介さん、島田悠司さんにお集まりいただき、SmartHRでPMMがどんな役割を担っているのかを話してもらいました。
PMMという働き方に興味がある方、ぜひお読みください!(この記事は前編です)


1. SmartHRのPMMになった経緯


─3人は入社時期もPMMのポジションに就いた時期もそれぞれですね。まずは前職でどんなことをしていたか、それからSmartHRに入社してPMMになった経緯を聞かせてください。

重松:私は2019年9月にSmartHRに入社しました。ちょうどPMMの組織が社内にできたタイミングです。社内の経営企画やカスタマーサクセス(CS)のチームから3人異動してPMMチームが作られて、私は外部から採用された最初のPMMということになります。

重松 裕三(プロダクトマーケティング部 部長 兼 タレントマネジメントユニット ユニット長)

入社前はBtoCのプロダクトを持っている企業でプロダクトマネージャー(PM)をやっていました。事業の立ち上げ期に、エンジニアやカスタマーサポートなど、いろんなメンバーがひとまとめになった20人程度のチームをマネージャーとして見ていて。プロダクトのマネジメントもするし、営業活動やカスタマーサポートなどビジネス面も見る立場だったんですが、私自身は自分でアクションをとって数字を伸ばしていくビジネス面の動きが面白いと思っていたんです。それで転職の際には「ビジネス面にも関われそうなPM」のポジションを探しました。当時はPMMというポジションがまだ一般的でなかったこともあり、SmartHRには実はPMとして採用されて、入社直前にPMMに誘ってもらいジョインしたという経緯です。

入社してわりとすぐの段階で、「SmartHRの労務管理機能を通じて蓄積された従業員データを活用して、何か新しい事業にチャレンジしたい」というオーダーをもらいました。かなりざっくりした感じで球をもらって(笑)。いろいろ考えた結果、タレントマネジメント事業を立ち上げることになり、今はプロダクトマーケティング部の部長とタレントマネジメントユニットのユニット長を兼務しています。

辻:私は2019年の11月、重松さんのちょっと後にSmartHRに入社しています。最初はPMMではなくCS部署への入社でした。前職はデジタル通貨を扱うベンチャー企業で、カスタマーサポートチームを統括する職に就いていました。その企業では、カスタマーサポートはコストセンターとして捉えられてしまう面があって。いかに効率的にこなすかというミッションに息苦しさを感じたこともあり、もっと攻めのカスタマーサポートができる会社はないかと転職先を探していたんです。

 辻 鷹介(プロダクトマーケティング部 人事労務ユニット ユニット長)

そこで見つけたのがSmartHRでした。「カスタマーサクセス」という言葉もこのとき初めて知りました。顧客自身が気づいていないような課題をこちらから提示することで、新しい活用や追加契約に繋げていく。顧客からの問い合わせに対応するだけにとどまらず能動的に仕掛けていく経験をSmartHRに入社して初めてすることができました。そこに大きなやりがいを感じましたね。

PMMに異動したのは2022年の4月です。その頃には私は、ある機能のスペシャリスト的な役割を任され、各機能の使い方や課題について取りまとめてCSに周知する役割を担っていました。そんな中、PMMから「とある新しい機能について、解決できそうな課題や提案できるパターンを洗い出して整理してほしい」というリクエストがあって。それがすごく楽しくて、自分の中でも手応えを感じました。あとで聞くとアウトプットへの評判もよかったみたいで、それがPMMのポジションへと声をかけてもらったきっかけになりました。

また、CSとしてお客さまに向き合っている中で、目の前に課題があっても、機能不足などで解決まで持っていけない歯がゆさを感じることもありました。もちろん開発にフィードバックしてできる限りの提案もするのですが、やはり限界もあって。PMMであれば、プロダクトの企画の段階から課題を考え、根本的な解決を実現できる可能性が高まるんじゃないかと考えました。これはPMMを志向したもう一つの理由です。

島田:私が入社したのは2023年6月で、今入社してちょうど半年経ったところです。これまでのキャリアとしては、大学院卒業後、教育・福祉領域で事業を展開する会社に新卒で入社し、プログラミング教育の事業立ち上げに取り組んできました。エリアマネージャーや事業企画マネージャーとして働いて、入社時はベンチャー企業でしたが約7年在籍して転職する際には2,000人規模になり、その間に上場も経験しました。

 島田 悠司(プロダクトマーケティング部 IDポータルユニット ユニット長)

その後の転職先はマイクロソフトです。日本のICT教育が大きく変化したタイミングで、全国の小中学校に1人1台タブレットが配付される大きなプロジェクトが進行する中、教育チームのインダストリーマネージャーのポジションに就きました。そこで事業戦略の策定や本社と日本チームとの接続、マーケティングやセールスチームを横断したプロジェクトの推進、それに文部科学省や自治体との協業活動などもやっていました。
事業開発として様々な経験をさせてもらってきた中で、次のキャリアとして何かスキルの柱をしっかり立てたいなと考え始め、その中でプロダクトマーケティングという職能は、自分の特性やスキルも活かせそうだなと。それでPMMのポジションを探し始めたんです。

─PMMは海外発の概念で、国内企業よりも外資系企業のほうが見つけやすいのかなとも思います。外資という選択肢もあった島田さんがSmartHRを選んだのは何が決め手だったんですか?

島田:私だけではないと思うんですが、「プロダクトマーケティング」で情報収集をすると、おのずとSmartHRのPMMメンバーが書いたnoteにたどり着くんですよね。PMMのことが体系的に書かれていてとても参考になりました。ほかにもいくつか候補となる企業はありましたが、プロダクトマーケティングを学んで自分のスキルを高めていきたいと考えると、プロダクト開発とマーケティング両面に関われるSmartHRが最も良い選択肢だと感じて選びました。

2. SmartHRにおけるPMMの役割


─PMMの役割については、プロダクトマネージャー(PM)やマーケティングとの違いがわかりにくい、という声もよく聞きます。皆さんはどのように捉えているのでしょうか?

重松:以前書いたnoteでは、PMから派生したという表現をしていますが、これは多分、僕が勝手にそう考えるとわかりやすいと思っているだけで(笑)。文献やグローバルの状況を見ると、マーケティングチームから派生してプロダクトマーケティングの役割が生まれた、あるいはマーケティングチームの中にプロダクトマーケティングが内包されるという考え方のどちらかになりそうです。

私の中の整理としては、価値創造に責任を持つのがPMMで、その作った価値を伝達するのがマーケティングチームの役割だと捉えています。私たちがよく口にしているのは、PMMの役割は「何が売れるのかを考えて、どう売るかに責任を持つ」ことだと。セールスやCSが汲み上げてきた顧客の課題から、本当に求められていることは何かを見極め、その課題をPMや開発チームと一緒になって解いていくことがPMMの役割だと思います。解いた結果のアウトプット、つまりプロダクトを、マス広告、デジタル広告、展示会など、最適なマーケティング手法を使って顧客に伝えていくのがマーケティングチームの役割になるかなと。

島田:プロダクトマーケティングと通常のマーケティングの役割の違いって、社内マーケティングと社外マーケティングという捉え方もできるなと思います。

SmartHRでも、プロダクトの魅力や情報を社外に届けるチャネルを持っているのはマーケティングチームです。顧客リストを持っているのも彼らですし、SNSや広告などメディアをコントロールして発信していく役割も担ってくれます。これに対してPMM中心に行っている「社内マーケティング」は、プロダクトの情報をセールスやCSなど、社内でお客さんとの情報伝達を担う部署にきちんと届ける役割も持っています。

これは特にBtoBのプロダクトで重要になってきます。BtoCのプロダクトに比べて、セールスやCSなど顧客への接点となる層が厚いためです。プロダクト側で用意した情報は、セールスやCSを一旦経てから顧客へ届けられる二段階の伝達が行われます。一体どんなプロダクトなのか、どんな機能が顧客のどんな課題を解決するのか。プロダクトとして発信したい100の情報を、セールスやCSに対して解像度を減らさずにちゃんと100の情報で受け取ってもらうことがものすごく重要になるわけです。プロダクトサイドとビジネスサイドの間に立って、プロダクトのアップデートや魅力など、しっかり情報を握って渡していく、PMMにはそういった社内マーケティングの役割も求められているといえます。

重松: PMMがマーケティングやビジネスサイドに対して何を渡していくのかという点で補足をすると、プロダクトの強みや競合との違いといったマーケットにおけるポジショニングや、お客さまに伝えてほしいメッセージングを定めるのはPMMがやらねばならないことだと考えています。サービスそのものがどういう課題に対してどうアプローチしていくものなのかは、開発チームやPMと一緒に考えて、その先に「このサービスはこういうものです」という市場に向けた定義づけをするのがPMM。

辻: PMからすると、顧客の課題に対する解像度はビジネスサイドと比較してどうしても落ちてしまうので、その橋渡しをするのもPMMの役割になりますよね。

重松:そうですね。プロダクトサイドとビジネスサイド、PMと組織間のハブの役割をどれだけうまく果たせるかがPMMの腕にかかっているというか。

3. 実際、PMMとしてどう動いているのか


─重松さんはタレントマネジメントユニット、辻さんは人事労務ユニット、島田さんはIDポータルユニットのチーフをそれぞれ務めています。プロダクトの成熟度や機能によってPMMとしての動きも異なるのかなと思います。どんなことをしているのか、具体的に聞かせてもらえますか?

島田:IDポータルユニットは2024年1月に誕生した、この中では一番新しいチームです。SmartHRは人事労務クラウドとして始まり、タレントマネジメントにも参入し、プロダクトが解決する課題の幅や深さもどんどん拡大してきています。私たちのチームでは、これまでよりもさらに対象範囲が広がるようなプロダクトを担当しています。今までは人事労務の担当者に向けて届けていたものが、たとえば情報システム部門、あるいは管理部門全体で活用するプロダクトや、従業員全員が使うスマートフォンアプリなど、コーポレート全体に広がっていくようなイメージです。

入社してすぐ、私はスマートフォン向けアプリのリリースを担当しました。これまでSmartHRのサービスはパソコンかスマートフォンのウェブで使っていただいていたのですが、2023年9月、スマートフォンアプリを新しくリリースしたんです。私はそのGoToMarket戦略、製品が市場に受け入れられるまでの戦略を体系化し、社内で共通理解を得ながら実践していくところを担いました。

スマホアプリを使っていただく対象はもともとSmartHRユーザーの方なので、「新しくスマホアプリが出たのでどんどん使ってください」という活用促進について、マーケティングチームやCS、セールスチームと連動して、案内のフローを整備したり、どういう業種にとってより活用してもらえるかを仮説立てて発信をしていったり。

結果的に、リリース後3か月で約20万人のユーザーが使ってくださって初動はかなりよかったです。さらにデータをしっかり見てみると、小売や飲食、運送、製造、サービスなどの業種での反響がよいことがわかりました。アルバイトや非常勤で働く方が多い職種では、パソコンではなくスマホアプリを活用したほうが便利なことが多いので、評判がいいんですね。このようにリリースした後の現場の声を収集して、営業資料をアップデートして再展開していく、というPDCAをぐるぐる回しています。

─売り方の面でも、セールスチームだけでなくPMMがしっかり入っていくんですね。

島田:そうですね。SmartHRは事業規模も社員数も急激に伸びてきて、社員が100名だった頃と1,000名を超えた今を比べると、情報を社内外に出したときの影響範囲がとんでもなく広がっています。社内でいえばセールスチーム一つとっても、大企業対象や中小企業対象などチームが分かれますし、CSチームもかなり細分化しています。かつての100名規模の組織なら情報もダイレクトに横に広がっていきますが、チームをまたぐほど情報は伝わりにくくなります。その中で、たとえば現場で出てきた良い事例を吸い上げてほかのチームに広げて再現性を持たせていく動きも、PMMが果たすべき役割としてより重要になっていると感じます。

社外への反響というところでは、SmartHRの利用企業数が約6万社という現状で、プロダクトをリリースしたときの声の跳ね返り方もまた、非常に大きいんです。今回のスマートフォンアプリも、4,000企業・20万人が一瞬で使い始めていて。反響を分析して、キラーコンテンツになりそうなポイントを抽出してセールスチームに共有していく、そうやってベストプラクティスを模索して広げていく取り組みもしています。十分に準備していても、いざリリースしてみないとわからないこともありますし、セールスの人たちも信じて待っていてくれているので、走りながら売り方を試行錯誤しているところです。

重松:セールスチームの中でも、それぞれの意見を吸い上げてナレッジシェアしたり、営業資料の改修をしたりするセールスプランニングの機能はあるんです。ただ新しいプロダクトの場合は既存のプロダクトに比べて、セールスプランニングのプロダクトに対する解像度を上げづらいんですよね。そこは、プロダクトのスペシャリストであるPMMが初動を担ったほうがうまく駆動すると考えています。その上で、セールスやCSの手法や、マーケティングチャネルの活用などについては、専門であるほかのチームに任せていくという連携をしています。

─なるほど、ありがとうございます。次に人事労務ユニットの辻さん、お願いします。

辻:私が担当している人事労務領域は、今までもこれからもSmartHRのコアとなる領域です。創業時からずっと機能の改善は続けていますが、プロダクトとしては今もなお改善の余地があります。PMMとしてはプロダクトサイドと一緒に、中長期的な開発ロードマップの作成を進めています。
人事労務プロダクトは、社会保険、給与明細、マイナンバーなど機能も多岐にわたりますし、顧客が抱えている課題も本当にたくさんある。それらに一度に対応することはできないので、優先順位をつけて開発に取り組んでいく必要があります。

─その優先順位はどういう視点でつけているんですか?

辻:一番は全社ミッションにアラインしているかどうかですね。あとはプロダクト全体を俯瞰して見たときの事業への影響を重視しています。各機能だけで見ると、それぞれの課題は全部大事そうに見えるんです。CSの立場から見れば、これが改善されればお客さんが助かるなというのも見えますし。
もちろん、何もないところからだと決められないので、仮説は立てつつ、社内のセールスやCSの声を聞いたり、実際にお客さまの声を聞きに行ったりして、仮説を確かめながら戦略を決めていくプロセスをとっています。

重松:特に人事労務は創業からあるプロダクトで、ある程度成熟してきて、中小企業から大企業まで使われているからこそ要望も多岐にわたりますし、大企業からのニーズも非常に高いレベルを求められるものが多いですね。それらを全部見たうえで、この先に何をしていくかを決めるというのは、すごく難しい意思決定をしているなと思います。

じゃあ、最後に私から、タレントマネジメントユニットの話をします。辻さんが担当している人事労務領域は、基本的にはSmartHRが先行していて今は追われる立場です。それに対して、タレントマネジメントはもう完全に追う立場で。市場では最後発に当たるんじゃないかというくらいです。

そんな状況下で参入して、競合をただ追いかけて機能を足していくのでは勝てません。そこで、我々が出せる特色は何かを考え、「人事労務で蓄積された従業員データを活かしてタレントマネジメントするのがベストだ」というメッセージングをしていくことにしたのがスタートです。うちにあって競合にないものを武器としてうまく使いながら、後発としてどう戦っていくかを考えています。

PMMの動きとしては、タレントマネジメント領域で次にどういう手を打つべきか、競合や顧客の状況、そして会社としてどういう顧客を対象にしたいかという方針も含めて総合的に考えて機能開発を進めています。検証のために顧客へのヒアリングもものすごくやっていますし、営業と一緒に商談同席もしまくっています。PMM自身が自分たちの言葉でこのプロダクトを語る、そして受注につなげていく、そういう動き方ですね。

─すごい。どうしてそこまでしようと思ったんですか?

重松:結果的にそれが一番売れるからです。PMMは担ったプロダクトに対して、誰よりも責任を持つという意識でいます。必要があれば直接売りにも行くし、活用支援もします。プロダクトに対する解像度はやっぱりPMMが一番高いので、営業も必要だと思ったら一緒に出てほしいという相談をしてくれます。人事労務の領域なら、かなり成熟してきているので商談同席は不要なことが多いですが、新規プロダクト企画のためのインタビューやヒアリングはPMMが主導して行うこともあります。プロダクトのフェーズによっても動き方は変わってきますね。

後編の目次とリンク

後編では「PMMの仕事の肝、SmartHRのPMMがこれから注力すること」についてお話ししています。
後編は、こちらからご覧ください。


インタビュー・文:伊藤 宏子
撮影:@4hu(SmartHR)