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ESG基準はどうなる?略語ばかりでなく予算を増やし、より明確に。|国際カンファレンス「ESG基準パネルディスカッション」リポート Whither ESG standards? Fewer abbreviations, bigger budgets and more clarity

※こちらは、GreenBiz グラント・ハリソン氏著記事の日本語訳です。ぜひ原文もご覧ください。
※ESG=環境・社会・ガバナンス
※たくさんの略語が出てくるので、なるべくわかりやすくするため注釈を多くつけました。英語独特の比喩表現は意訳や補足しています。

2022年2月に開催された世界のサステナビリティ・ビジネスリーダーが集まる国際カンファレンス『GreenBiz22』で立ち見も出るほどの盛況だった「ESG基準」パネルディスカッションについての報告です。

CDP(投資家、企業、国家、地域、都市に環境影響を管理するための情報開示システムを運営する英国NGO)の創設者、GRI(Global Reporting Initiative:民間企業、政府機関、その他の組織におけるサステナビリティ報告書への理解促進とその作成をサポートするNGO)の元CEO、VRF(Value Reporting Foundation:価値報告財団、「統合思考原則」、「統合報告フレームワーク」、「SASB(サステナビリティ会計基準審議会)スタンダード」の3つの重要なリソースを活用して、企業及び投資家の意思決定をサポートし、企業価値についての共通理解を図る財団)の投資家関係責任者をアメリカ合衆国アリゾナ州、カリフォルニア州及びメキシコ合衆国ソノラ州にかけて広がるソノラ砂漠に集めるとどうなるでしょう?

『GreenBiz22』の「ESG基準パネルディスカッション」では、国際サステナビリティ基準委員会(ISSB)から企業が何を期待され、主要なサステナビリティ基準設定機関の進化と統合はどの段階にあるのか、進化するESG評価スキームについて企業はどのように考え、取り組むべきなのか、について活発な議論が展開されました。

投資家は、自分のポートフォリオにある企業が時間や資源を無駄にすることは望んでいない

ESGの世界は荒野のようで好き勝手にできました。しかし、昨今はより慎重で管理可能なパラダイム(見え方、固定概念)に移行しつつあります。それはつまりどのような事なのでしょう。

アルファベットの略語が躍る報告書スープの水分がなくなった後に残るもの

世界中の投資家は、サステナビリティ関連のリスクと機会について、より多くの情報を得た上で意思決定を行いたいと考えています。2021年には、ESG開示フレームワークのアルファベット略語たっぷりスープの水分が枯渇し始めました(クリーンアップされ始めました)。

気候開示と炭素管理のソリューションを提供する気候テックのSaaSスタートアップ、ペルセフォーニ社でサステナビリティを牽引する元GRI(Global Reporting Initiative NGO)のトップ、ティム・モヒン氏は、「たしかにこれは良い傾向だが、この先にはまだ『衝突』がある」と語りました。

モヒン氏は続けて「何が整理されている(クリーンアップされている)かというと唯一つ、財務的に重要なESG基準です。企業サステナビリティ報告指令(CSRD:2021年4月に欧州委員会(欧州連合の政策執行機関)が公表した、対象となる企業の範囲拡大、情報開示要件の標準化と義務化、非財務情報の第三者保証の義務化、開示情報のデジタル化を目的とした企業サステナビリティ報告に関する指令)は、企業にとって財務的なものと、人々や地球に影響を与えるために企業が行っていることの二重の重要性に基づいた基準とになるのです」と。

サステナビリティ会計基準委員会(SASB)の初期メンバーの一人であるケイティ・シュミッツ・オイリット氏は、「衝突の道ではなく、調和を図る機会」という概念が良いといいます。VRF(価値報告財団)の投資家対応ディレクターでもある彼女は、顧客からは「シンプルにしてほしい」という要望を聞くようです。

「投資家は、ポートフォリオの企業が時間や資源を無駄にすることを望んでいません」「GRI (Global Reporting Initiative NGO)は、欧州連合(EU)と共同でそれらの基準を作成しています。欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は、国際財務報告基準(IFRS)の開示基準を、企業価値の重要性の半分として見ると思います・・・そうすれば、ついに、私たちが長年求めてきたシステムになり、私はそれが可能だと思いますし究極のチャンスになると考えています」とオイリット氏。

しかし、モヒン氏は、「二重の基準が存在するというのはないでしょう。財務的に重要なESGの開示について、1つのグループが1つの基準を策定しない限り、2つの基準が存在することになります」と、依然として疑念があることを示しました。

ESG基準 - 何のため?

マカワー社(英国)はその後、話を転じて『(健全な緊張感を保つための重要な要素として)異説を込めた問い』を投げかけました。「なぜ、そもそもESGの基準や格付けが必要なのでしょうか?」

ESG投資は多くの場合、リスクを中心に構築されています。そして、リスクは一般的にS&P、Moody's、Fitchのような最も確立された格付け会社による従来の信用格付けに織り込まれています。では、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に関するリスクは何が違うのでしょう。また、ESGが捉える従来のリスク評価には何が欠けているのでしょう。

CDP(英国NGO)の創設者であるポール・ディキンソン氏は、「地球の地政学的な未来を予測する上で、Moody'sの実力はどの程度だと思いますか?私は、これは政治的な会議だと思っています。非常に小さな『P』という政治です」と啓示的で新鮮な回答をしました。「国家安全保障の政治、グローバルな安全保障の政治、それは私たちが関わっていることでありますが、Moody'sはそれを見ていません」と。このカンファレンスの場外で、『政治会議に参加しています』と言う人はいませんが、この会議の枠組みについてはディキンソン氏の言う通りかもしれません。

「10年前に私がESGアナリストだったら、自動車購入者に電気自動車に注目するように言っていたでしょう。しかし、2022年のESGアナリストは、すでに電気自動車に目を向けているので、そんなことはしません。ESGの仕事は、投資家、企業、政府の関係の次のイテレーション(反復)を示すことなのです」。

モヒン氏は、マカワー社の異説を込めた問いに対して、「耐久性、信頼性、たくましさ」のあるESGの開示とその後のスコアリングに関するSEC(米国証券取引委員会)規制の必要性を示しました。現在のパラダイムでは、「(各企業は)どの問題を報告するのが重要かを選ぶことができます」「多くの企業は自分たちの印象を悪くするような項目を選ばないのです。どうですか?」とモヒン氏。ESG評価は、一貫性、比較可能性、信頼性といった適切な形容詞に合致している場合に限られ投資家やステークホルダーが実際に必要としているものになるといいます。

ESGの役割は、投資家、企業、政府間の関係の次の世代を代表すること

「信頼性とたくましさの必要性を強調する重要なデータとして、S&P500に上場している企業のうち、サステナビリティレポートを発行しているのは約92%ですが、そのうち監査や保証があるのは40%以下であり、企業は自分の冒険を選んでいます」と、モヒン氏は述べています。

投資家は、信頼できるデータを求めており、サステナビリティとESGの開示に関する(不揃いな)現状にこれ以上我慢はしないでしょう。2022年内には、SEC(米国証券取引委員会)の要件が出現することと、企業が気候に関するより詳細な情報を提供することを求められることが期待されているので、この分野の基盤はより強固になるはずです。また、より良い、より一貫性のある情報開示を求める投資家コミュニティからの圧力が高まり、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が2022年末までに最初の基準を発行すると予想されています。

ディキンソン氏は、ESG投資とサステナブルファイナンスの成長について、「最初は無視され、次に笑われ、そして戦い、最後に勝つでしょう」と言います。ESGのベテランたちは、1年後の状況をどのように見ているのでしょう。

3人のパネリストの意見のまとめ:

1.大きな予算を持っていて、すでに動いているから自信を持って発言できる人が国際カンファレンスの座席に多い
2.会計士がより多く参加し、金融タイプの財務担当者がサステナビリティをリードしている
3.略語は減らし、より内容を分かりやすくする


人、地球、ESGの進歩のために、そうでありますように。

サステナビリティ・金融リーダーが集まる国際カンファレンス『GreenFin22』は2022年6月28-29日にニューヨークで開催。ESGやグリーンビジネスについてより深く議論される予定です。 (入場券はこちらから


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