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日曜日の本棚#35『点子ちゃんとアントン』エーリヒ・ケストナー(岩波少年文庫)【時代を超越する名作児童文学の魅力】

毎週日曜日は、読書感想をUPしています。

前回はこちら。

今回は、ドイツの児童文学であるエーリヒ・ケストナーの『点子ちゃんとアントン』です。国際アンデルセン大賞の受賞作です。翻訳は池田香代子さんです。

作品紹介(岩波書店HPより)

お金持ちの両親の目を盗んで、夜おそく街角でマッチ売りをするおちゃめな点子ちゃんと、おかあさん思いの貧しいアントン少年。それぞれ悩みをかかえながら、大人たちと鋭く対決します―つぎつぎと思いがけない展開で、ケストナーがすべての人たちをあたたかく描きながらユーモラスに人生を語る物語

所感(ネタバレを含みます)

◆主人公は主人公らしく

物語の舞台は、1930年代のドイツ。主人公・点子ちゃんは、いいとこのお嬢さん。毎日の通学には運転手付きの自家用車を使っています。住まいは、ベルリンの中心部の大邸宅。住み込みの家政婦さんも、点子ちゃんの教育係もいます。しかし、そんな設定なのに、実にアットホームな家庭な雰囲気を醸し出しています。これはケストナーの演出力の賜物でしょう。

主人公は、赤ちゃんのころ発育が遅かったことから、点子ちゃんというあだ名をつけられています。本名はルイーゼ。ドイツ語ではPünktchen。英語ではdot。これを点子ちゃんと名付けたのは、名訳だったなと感じます。

点子ちゃんは、主人公にふさわしい魅力的なキャラクターです。相棒のダックスフントのピーフケもそれをアシスト。

正義感が強く、行動的で、いろんなことに興味を持つ活動的な女の子。

恵まれない境遇のアントン少年を高く評価し、「自分のできること」を通じて行動し、アントン少年をサポートします。それが物語の骨格になっています。

主人公はこうあるべきという姿が描かれています。

◆貧富の差を肯定する児童文学などありえない

本作のテーマは貧富の差でもある。日本もそうですが、1930年代はまだ都市のサイズが小さく、大都市ベルリンであっても、富裕層と貧困層が徒歩圏内で混在していた時代です。

そこには、境遇の違う少年少女の接点があり、文学を育む土壌があった。

貧富の差は、今もなお、文学のテーマとして存在しているとは思うものの、モータリゼーションの進化によって膨張した都市は、このような接点を奪いつつあるのかもしれないと思いつつ読んでいます。

松本清張『砂の器』における東京、ドストエフスキー『罪と罰』のサンクトペテルブルクでも、貧富の差が生み出す都市の風景は、物語の舞台として、機能していますが、本作でも重要な役割を果たしていると思います。

そして、痛感するのは、児童文学において貧富の差を肯定することはありえないということ。それは、児童文学は、理想を描くことも役割として存在するからでしょう。

巧みな構成は、大人でも楽しめる
本作の魅力は、構成が巧みであることでもあります。これは大人でも十分に堪能できる部分があります。冒頭からの点子ちゃんの行動に注意して読んでおくと楽しめるのではと思います。
その点において、ケストナーの本気度が伝わってきます。子供向けだからといって、決して手を抜かない。
日常を舞台にすること、登場人物が限られる・・・など制約が多い状況の中、うまく結末まで話を紡いでいきます。

これまであまり児童文学は読んできませんでしたが、本作を機に、このジャンルも読んでいければと感じています。

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