見出し画像

日曜日の本棚#5『バスカヴィル家の犬』コナン・ドイル(新潮文庫)【ドイルのミステリーへの偉大な功績を知る】

毎週日曜日は、読書感想をUPしています。

前回はこちら

今回は、コナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』です。若いころからずっと読みたいと思っていたのですが、この歳になってようやく読了した作品です。

・はじめに

シャーロック・ホームズシリーズの長編四作の一つです。純粋長編の唯一の作品と言えます(他は一部二部構成)。
本作はミステリーとサスペンスの共存した色彩が強く、「シャーロック・ホームズ」の使い方を学ぶよいテキストとなっています。改めてシャーロック・ホームズというキャラクターの長所とその使い方をコナン・ドイルが熟知していたことを伺い知れる作品となっています。

・サスペンスを取り入れることで、広がりを持たせる構成

バスカヴィル家の先代当主チャールズ・バスカヴィルの死から話は始まります。この死についてホームズがミステリーとして謎解きをしていきます。しかし、これだけでは話が長くできないので、跡継ぎとしてカナダからやってくるヘンリー・バスカヴィルに降りかかる危機についてはサスペンスとしてダイナミックに描いています。ここでドイルは、ホームズを同行させません。私なりの推測はこのあと書きます。

また、本作では、フーダニット要素は早々と諦められており、犯人はすぐわかります。それが許されるのは、サスペンス要素を取り入れているからでもあります。

・シャーロック・ホームズの使い方

シャーロック・ホームズは、万能主人公であることは、論を待たないでしょう。彼の飛びぬけたキャラクターの魅力こそがシリーズ最大の魅力です。これはドイルの発明といっても過言ではなく、このあとクリスティーのポアロやミスマープル、現代では東野圭吾の湯川学へと引き継がれていきます。

では、このような万能主人公はどのように使うべきなのでしょうか?

ドイルの答えの一つがホームズの登場を極力抑えるということでした。
ホームズは、全体の三分の一程度しか出てきません。そこでドイルは、サスペンスパートである、ヘンリー・バスカヴィルにはワトソンを帯同させたのでしょう。

ワトソンも事実のみを描写し、謎解きをしません。事実を読者に提供し、提示された情報量が飽和状態になったとき、ホームズは登場し、伏線として提示された情報を一気に捌いていきます。

ホームズに与えられた持ち時間は、長編であってもごく僅かなのです。

万能主人公は、電光石火のような解決力こそが最大の魅力であるわけで、ホームズ作品の大半が短編だったのは、必然だったことに気づきます。

・万能主人公は、事件に深く関与できないからその能力を発揮する

これは、現代のミステリーでも引き継がれていると思います。テレビドラマシリーズ『相棒』では、杉下右京を事件について断片的にしか情報を知る立場にない設定にしているのは、万能主人公を「知りすぎた」状態にしない工夫であることが分かります。さらに「僕としたことが!」という名ゼリフを言わせ、間違いもあるキャラ設定にしている点も持ち時間を増やす工夫の一つなのでしょう。

また、『ガリレオ』の湯川学も事件解決には関心が無いという設定にしているのも、万能主人公の使い方として正しいといえるのでしょう。

結論として、万能主人公は抑制して使うことで威力を発揮する。唯一全力を出していいのは、「知的な側面で唯一対等な存在」が登場したときで、それはモリアーティー教授との対決です。

このようみていくとドイルは、ミステリーへの多大な功績があったことが理解できます。どのようにミステリーは書かれるべきかという提示は、のちのヴァンダインやエラリー・クイーン、江戸川乱歩、横溝正史へ影響を与えることになる。そして、そのような舞台があったからこそ、松本清張を生み出せたといえるのではと思いました。

また、科学捜査という点でも警察捜査に強い影響を与えたといわれています。

改めて、シャーロック・ホームズというキャラクターを生み出したドイルの偉大さを理解するところでもありました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?