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この3部作が面白い!

 The Trilogy.


 最近、二つの3部作を読み上げたのですが、どちらも面白かったので、この3部作という形式について考えながら紹介しようと思います。


【私の考える3部作について】

 (3部作とは)三つの独立した部分から成立する一つの作品。また、一貫した主題や筋によって相互に関連をもつ三つの作品。


 3部作と聞くとワクワクしてくる自分がいます。

 それは、きっと、たっぷりと長い期間、その作品世界に浸っていれるからなんだと思います。

 もちろんシリーズ化されれば、もっと長く浸れるので、それはそれで嬉しいのですが、3部作にはシリーズ物とは違った潔さというか、まとまりというか、完成されている美しさがあるような気がします。


 たとえば商業映画では、「バック・トゥ・ザ・フーチャー」みたいに、1作目がヒットして2作目、3作目が製作され、結果として3部作になる場合もあります。(「インディ・ジョーンズ」や「ターミネーター」みたいに4、5とシリーズ化されることもしばしばですが......)

 なので、純粋な3部作としては、当初から予定されてた3部構成の作品の場合として、1つ1つ単独でも楽しめながら、3部で完結するものとしたいと思います。


 映画の例でいうと「スター・ウォーズ3部作」(旧・新・続)が有名ですが、スター・ウォーズの場合(特に最近の続3部作とか)は、長い物語の前・中・後編みたいな傾向が強いので、さらに純粋な3部作としては、クリストファーノーラン監督の「ダークナイト・トリロジー」みたいな感じを想像してもらえればと思います。

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 この「ダークナイト・トリロジー」は、それぞれ独立していながら、誕生、挫折、完結の関係性があって、かなり完成された3部作だと思っています。



【私のお薦め3部作】

 さて、今回、自分が読んで面白かった3部作の一つが、佐々木譲さんの「第二次大戦3部作」です。

 太平洋戦争を舞台にしていますが、戦争ものというよりも、スパイ・冒険ものって感じです。史実を織り交ぜながら、裏のエピソードを通じて当時の世界の様子を描いたものです。

 それぞれ主となるエピソードの性格は異なりますが、共通する登場人物がいたりして、同一線上の世界観が楽しい3部作です。

 開戦に向かいつつある時期、開戦前夜、そして終戦工作と、太平洋戦争を追いかけて行くような3部作で、派手な空中戦や艦隊戦はありませんが、情報戦や政治劇があって、ハラハラ・ドキドキの作品です。

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 「ベルリン飛行指令」が刊行されたのが88年なので、ソ連のペレストロイカからベルリンの壁崩壊あたりのあの時代なんですよね。そう思うと、あの世界が動いてた時代の空気とシンクロしてるんだと改めて思いました。


 そして、二つ目の3部作が、ジョー・ウォルトンの「ファージング3部作」です。

 こちらは、欧州戦線に関係する物語なのですが、史実と違って、ナチス・ドイツと講和し、枢軸国側となったイギリスが舞台となります。

 当初のイギリス国民は平和を享受し、喜びに沸いているのですが、静かにファシズムが蔓延してきて.....みたいな感じです。

 1部は政治家の中で起きた殺人事件、2部は首相の暗殺計画、そして3部ではディストピアでの攻防と、メインとなるエピソードや雰囲気は異なりますが、どの作品も面白いです。ですが、3部作を通して読むと、事件なんかとは別に、イギリスという国の変容が伝わってくるので、順番に読むことが必須の3部作だと思います。

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 物語の中では、アメリカが弱体化していたり、ソ連が原爆により消滅していたりと、違う歴史を歩んでる姿が描かれていますが、ドラマ化されている『高い城の男*1:P・K・ディック』や、『SS-GB*2:レン・デイトン』をイメージするとわかりやすいです。

 でも、ドラマ化するなら「ファージング3部作」もかなり面白いと思んですけどね。


 今回、読んだ二つの3部作は、読めたことを感謝するぐらい面白かったです。また、太平洋戦争側と欧州戦線側それぞれの3部作を同時期に読めたのも楽しい読書となりました。



<ちょっと違った3部作>

 ここで紹介した3部作は、同じ作品世界の物語なのですが、作品世界は違っても、同じ主題を扱った3部作もあります。

 映画で言うと、大林宣彦監督の「尾道3部作」のイメージです。

 作家性が感じられて、これはこれで面白いのですが、3作通して完結するわけではないので、今回は別枠扱いとしています。

 有名なのは有川浩さんの「自衛隊3部作」

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「自衛隊3部作」では、超常現象や災害に直面した世界が描かれ、主役の一人は自衛隊員というとこが共通した3部作になっています。それぞれ「陸上自衛隊」「航空自衛隊」「海上自衛隊」と類型化されていて、表紙の色味もグラデーションになっていて、並べるときれいですよね。


 もうひとつ紹介すると、ポール・オースターの「ニューヨーク3部作」なんかもこのタイプだと思います。

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 ただし、一見、無関係なように見えて、実は、同じ名前の登場人物がいたり、赤い手帳など、キーになるアイテムがあったりと、一筋縄ではいかない3部作でもあります。(そのうち考察してみたいですね。)



<その他の3部作(参考)>

 その他の3部作を紹介します。(*は未読ですが読みたい本です。) 

ドン・ウィンズロウ「アート・ケラー3部作」
『犬の力』『ザ・カルテル』『ザ・ボーダー』
ピエール・ルメートル「ヴェルーヴェン警部3部作」
『悲しみのイレーヌ*』『その女アレックス』『傷だらけのカミーユ*』
J・G・バラード「テクノロジー3部作」
『クラッシュ』『コンクリート・アイランド*』『ハイ-ライズ*』
ウィリアム・ギブスン「スプロール3部作」
『ニューロマンサー』『カウント・ゼロ』『モナリザ・オーヴァドライヴ』
ウィリアム・ギブスン「橋3部作」
『ヴァーチャル・ライト』『あいどる』『フューチャーマチック*』
キム・スタンリー・ロビンソン「オレンジカウンティ3部作」
『荒れた岸辺*』『ゴールド・コースト』『Pacific Edge*』
キム・スタンリー・ロビンソン「火星3部作」
『レッド・マーズ*』『グリーン・マーズ*』『ブルー・マーズ*』
ブレイク・クラウチ「パインズ3部作」
『パインズ -美しい地獄-』『ウェイワード -背反者たち-』『ラスト・タウン -神の怒り-』
グレッグ・イーガン「〈直交〉3部作」
『クロックワーク・ロケット*』『エターナル・フレイム*』『アロウズ・オブ・タイム*』
劉 慈欣「三体3部作」
『三体』『三体II:黒暗森林*』『三体III:死神永生*』
筒井 康隆「七瀬3部作」
『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』
中上 健次「紀州サーガ」
『岬*』『枯木灘*』『地の果て 至上の時*』
船戸 与一「南米3部作」
『山猫の夏*』『神話の果て*』『伝説なき地*』



(脚注*)

『高い城の男』


『SS-GB』



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