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イケメン彼女との出会い~先輩は女の子だった~

先輩との出会いは唐突であった。

扉の向こうから現れた先輩は、寒がりなのか季節のわりにやけに着込んでいて、ほとんど顔も見えなかった。
しかし、あふれ出る雰囲気が私の視線を掴んで離さなかった。

この人…好き。

ただそれだけが頭の中を占領した。
この人のことをもっと知りたい。
でも、そういう人に限って、あまり言葉を発しないのである。

自己紹介をしようということになって、新入生が順番にプロフィールを言っていく。

関西弁が目立つ私が自分の出身を言う前に、「大阪でしょ?」と鋭い突っ込みが入った。
先輩の、声。
さっきからちょこちょこ聞こえてはいたけど、私に向けられるとは思ってもみなかった。

「なんでわかったんですか?」

自分でもあの時、なんでこんなにも積極的に聞けたのかわからない。
多分スーパーサイヤ人だった。

だってまんまじゃん。と、かわいい返事をされて、脳みそが解ける音が聞こえた。

じゃん、じゃん、じゃん…

テレビでしか聞いたことのない関東の言葉に悶えてしまった。
こだまでしょうか。いいえ、誰でも。

その日から私は、それはもうストーカーのように、先輩といつ会えるのか、会ったらどんな話をしようか、ずっと考えていた。
頭の中は一日中その作戦会議だった。


半月ほどして、新入生歓迎会が行われた。
そこで先輩と再会を果たす。

名前もずっと間違えて覚えており、女性だということもそこで知った。
多少の驚きはあったものの、男性だと知っても同じように驚いていたと思う。
それと同じくらい、女性と知って幻滅しない自分自身にも驚いていた。
それどころか、声や所作まで、全部もれなくかっこいい先輩を見て、この人のかっこいいの上限はいずこ…?と完全に迷子になっていた。

自分自身、本当にどうしようもないくらい悪いやつだと思う。
でも、自分の気持ちを試したくって、別のかっこいい男性の先輩と、私の好きなかっこいい先輩がちょうど話しているところに、ずかずかと割って入った。
新入生だから許されるだろうという、甘い考えである。

男性の先輩も、かっこいいし面白かった。
新入生の相手もしてくれる、いい先輩である。
でも、そんな男性の先輩が飛ばすキラーパスに、恥ずかしそうに答える先輩に目が離せなかった。

私、この人が好きなんだな。
なんと言うか、女だとか男だとかそういうのじゃなくて、この人が好きなんだな。
先輩のこと、もっと知りたい。
どんな表情をするのか見てみたい。
できるだけ長く、この時間が続いてほしい。

面白かった先輩…ごめんなさい。いろんな意味で。そして、ありがとうございます。

その後も楽しい空間の中で過ごすも気持ちは変わらず、先輩への興味は膨らむばかりだった。

しかし、先輩のセクシャリティはどうなのだろう。
男の人が好きなのかな。
それとも女の人なのかな。

…もし後者だとしたら、いいな。
でも、それでも私を好きになってくれるとは限らない。

部活の引退試合は秋である。

告白は、してもいいだろうか。

先輩が引退してしまう秋まで、頑張ってみよう。
秋に告白しよう。
それでだめだったら、すっぱり諦めよう。
終わらせよう。

今まで恋人などできたことがない私が考えた作戦は、こうだった。

『夢で終わるならせめて、いい子だったって思われたい』

気持ち悪がられない程度に、先輩に良いと思うことをしてみよう。

次に合法的に先輩に会えるのは遠征の時。
チャンスがあれば…くらいに考えていた私であったが、この遠征でとんでもない幸運を発揮することになる…。

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