【第14話】カメラ系YouTuberを視聴しなくなった理由と新たな期待感
カメラやレンズを買い替えたいとき、YouTube動画を参考にしている人は多いと思う。私もかつてはそうだった。
素人が新たなカメラを手にして良くも悪くも率直な感想を述べる。なかには酷評もある。動画の構成や編集は粗く、画質も劣るかもしれないが、スポンサー稼業のテレビと違って、自由奔放に意見や感想を発信するYouTubeのアナーキーな可能性と魅力に感心したものだった。
高級レストランの丁寧に作り込まれたフレンチよりも、手早く料理された街の中華や定食が食べたい時があるものだ。美味い店に出会うと、値段も安いので通い続けるようになる。ユーチューブ動画には、それに似た魅力を感じていた。
(Leica M10-P + APO-SUMMICRON-M 50mm F2 ASPH.で撮影)
しかし、YouTubeが稼ぎのツールとして注目され始め、カメラ系動画だけでもガジェット系や脱サラ組など様々な人たちが参入。広告案件が欲しいのか、最近はスペックシートを音読するような面白みのない動画や、勝手連的な広告屋かと思えるような動画が花盛りだ。
であるならば、カメラやレンズのことはメーカーの公式動画を視聴した方が話は早い。だから、最近はメーカー公式動画や写真撮影に気付きを与えてくれるプロのカメラマンや写真家の視聴が増えた。
ただ、コロナ禍で、そのプロたちの仕事・収入は激減している。カメラ雑誌も崩壊状態である。そのためだろうか、名の知れた写真家も次々YouTubeチャンネルを開設。ただ、風景写真家・米美知子さんがテント設営や食事の動画を上げているのには驚いた。
(PENTAX KP + Super-Takumar 55mm F1.8で撮影)
米さんといえば、キヤノンの一社提供番組に登場していた写真家である。常にキヤノン機で撮影していたので広告塔的な写真家なのだろうと思っていた。しかし、今年3月、とうとうYouTube動画に参入した。
写真だけでは生活が厳しくなったのか、メーカーも面倒見きれなくなったのか、それとも新手のキヤノンの宣伝戦略なのか・・・いろいろ連想させる健気な動画だ。今後、技術と知恵が学べる動画に進化・発展するのを楽しみにしている。
一方、スタイリッシュな一眼レフ「K-3 MarkⅢ」で注目度が上がっているペンタックス。勢いに乗って、最近、Limitedレンズの”三姉妹”と言われる31㎜F1.8、43㎜F1.9、77㎜F1.8の3本をリニューアルして発売した。
フィルムカメラ時代末期に誕生したLimitedレンズは、アルミ削り出しの工芸品的な外観と、あえて収差を残したレンズの味が特徴で、私も”三姉妹”を撮影に多用している。
(PENTAX K-1 Mark II + smc FA 77mm F1.8 AL Limited で撮影)
今回のリニューアルはレンズ構成は同じだが、透過率の高い「HD(High Definition)コーティング」を採用し、ゴーストやフレアの発生を抑えて、一層クリアな描写になったという。
しかし、私は、オールドレンズ的な描写が好みで収差も大好物だ。匂いを取り除いた納豆やくさやを新発売されても嬉しくないような気分なのである。それゆえ、今回のリニューアルは「不要な改定」と感じていた。
PENTAXの公式チャンネルを見ていたら、写真家の佐々木啓太さんと塙(はなわ)真一さんの対談「PENTAX FA Limitedレンズを本音で語る」がアップされていた。
視聴すると、塙さんは新レンズに感心していない様子で、一生懸命、新レンズの特徴や改善点を説明する佐々木さんに対し、「これまでのレンズで特に不満はないんだけど」と発言している。
「同じことを考えている人はいるものだな」と思うと同時に、塙さんの表情と言動がなんとも面白い。まさに、タイトル通り「PENTAX FA Limitedレンズを本音で語る」であった。
(佐々木 啓太 × 塙 真一 「PENTAX FA Limitedレンズを本音で語る」写真家対談[Part.1])
長年、映像の世界で生きてきて実感したのは、どれだけ取り繕っても演者の性格や本音は隠せないということだ。
本人は分からないだろうと思っても、情報量の多い映像・動画は目つきや間合い、言葉の端々から、その人の本音が透けて見える。動画に姿を晒すことは想像以上に怖いものなのだ。
それゆえ、メーカーの公式チャンネルが塙真一のテンションやモヤモヤ感をカット編集せず、動画に仕上げたのは好感が持てた。
今後、いろいろな事情で写真家がYouTubeにチャンネルを開設したり、メーカーの動画に登場する流れは強まるだろう。しかし、メーカー・生産者の宣伝役にとどまらず、プロのプライドを持って、どこかにユーザー・消費者の視点を忍ばせてほしいと願っている。
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