見出し画像

【第7話】桜とカメラ。そして木村伊兵衛

2021年の桜はコロナ禍の中で開花した。コロナ禍の桜は2020年に続き、二度目ということになる。

「人生は死ぬまでの暇つぶし」という言葉を耳にしたことがある。

最初は???だったが、よくよく考えてみると、会社経営を他人に任せ、フリーで生きているいま、「なるほど。全く見当違いではないな」と思うようになった。

楽しいから行動し、不安だから行動した。仕事も楽しいから継続できたし、不安だから頑張った。

ただ、暇つぶしかどうか、真剣に考えるのも時間の無駄である。かりに、暇つぶしなら、いっそのこと楽んだほうがいい。

同時に、家族など背負うものがあった方が頑張れるように、少しは他人の役に立ちたいとも思う。自分のためだけなら、いずれ飽きてくる。

その暇つぶしの道具として、カメラはなかなか魅力的だ。そのカメラ機材が大きな分岐点を迎えている。

画像2

先日、東京・中目黒の目黒川を取材した。花見客の撮影はスマホ、スマホ、スマホ・・・。時折、ソニーα7Cなどミラーレスもちらほら見かけたが、ニコン、キヤノン、ペンタックスの一眼レフを見かけると、うれしくなるほど少数派だった。

その記録はブログに掲載したので、関心のある方はご覧になってほしい。

最近のスマホは写りも一眼レフ顔負け。携帯性抜群だし、通話機能がついているから、普段、誰もが常備している。しかし、未来永劫、いまと同じ状態でもないはずだ。

撮影中、多くの人が桜の下でスマホ撮影する写真が、50年後、100年後、大切なことを伝える写真になるのかもしれない。ふと、そんなことを考えたりもした。

下記は、昭和の報道写真家・木村伊兵衛氏が1932年(昭和7年)に撮影した写真だ。木村伊兵衛氏のエッセイ&写真集「僕とライカ」(朝日文庫)から接写・引用した。

画像1

子供たちが紙芝居を食い入るように真剣に見ているが、おそらく、昭和初期、こうした光景は珍しくなかったはずである。

しかし、約90年後の現在、この写真は単に珍しいということだけでなく、多くのことを私たちに伝えている。

子供たちの服装やヘアスタイル、娯楽の少なかった時代、紙芝居がいかに大切な娯楽だったのか、紙芝居を取り囲む子供たちの数と、その真剣な表情が物語っている。

木村伊兵衛氏といえば、多くの日本人にライカの有用性を広めた写真家として知られる。

生前、「そんな小さなカメラで本当に撮れるの」と馬鹿にされるカメラだからこそ、相手に警戒されず、自然な写真が撮れることを説いた。しかも、木村氏は速射技術にも優れ、ポートレートで「いつ撮られたか分からなかった」という大女優もいたという。

スナップ撮影に話を戻すと、木村氏の写真を通して、スマホであろうが、一般的なカメラであろうが、変哲もない花見写真が、もしかすると、100年後に多くの史実を物語る可能性を秘めていることを教えてくれる。

プロ、アマ、年齢を問わず、優秀な新人を選出する「木村伊兵衛写真賞」は写真界の芥川賞と呼ばれる。残念ながら、コロナ禍の影響で2020年分と2021年分の作品を合わせて選考されることになったが、写真文化を継承する意味でも木村伊兵衛賞は継続して欲しいと願う。

もうひとり、撮影姿勢が勉強になる写真家に、森山大道氏がいる。82歳のいまなお、コンデジ片手に新宿でスナップを撮り続けている。

次回は、その森山大道氏を通して、スナップの魅力や日々撮影することの大切さを考えてみたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?