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”解錠”


06時|07時|08時
天気;快晴
気温;24°
最高28°最低17°

深海の海に潜り手に取る懐かしい、それ。
泛かぶ碧い海の光る水面の下。
鎖に巻かれて錠がかかったそれを、海の底から運び、きらきらと太陽に照らされる碧の水面まで持ち出してわたしが泛かび、泛かぶ”回想”の断片。
それをここで、ほどいて海に放ちたい。

”その甘さ
(結構、あまい。)
そのあたたかさ その温度
(”真ん中”って、感じの。それは、本物だって感じの。)
その痛み
(めちゃくちゃ、痛い。)
その純度
(穢れ無き。)”

一途に一途に未だに色褪せない変わらない場所に君臨するあたたかい記憶がある。そのあたたかさは確かで、正しいあたたかさだったように思う。
他の何にも覆われる事もなく何にも代え難い。その確かなあたたかい記憶は、その場所を頑固に譲らなかった。

その記憶は今だにあたたかい。そしてこの光をくぐるために、それまでの辛い日常があったのかもしれない。
”あたたかい”そう思えたのが、たぶん初めてだったように思う。そのときになって、やっと血が通ったのでは?と思えるほどに。

この、”甘くて、痛い。死ぬほどここちよくて、あたたかい。”は、温度にしたら、体温くらい。じんわりと確かな、正しいあったかさだったように思う。
つま先から手の先まで全身の細胞が騒いで、ジリジリとした血の流れを感じる。心臓突き刺さるように痛んで頭は熱く、生きている感じが不思議とその時だけ感じられた。

大切にしている記憶はたくさんはない。だからこれ以上の存在に君臨する記憶はなく、それほどに他のどれにもかなわない。
焼き付いた”その思い出の品を一緒に、棺桶に入れてしまいたい。” 何年たってもふと、そんな譫言を思ってしまう。なぜか今だに、燃えるような思いに苛まれ、夢に耽る。

軽々しく口にはできない”神聖”な思い出は、思い出に口ずけしたまま、血となり骨となって私に染み込んだままその場所に君臨する。
その他の何にも敵うことのないあたたかさはわたしの真ん中にいて、頑なに場所を譲らず、その記憶の場所に君臨する。

それに敵う記憶は未だないし、この先も一生ないような気がしてならない。『そんな事はない。』と、言い聞かせてみたがどう足掻いてもそれは湧き水にように清らかな輝きで洗い流してしまう。
もう同じあたたかさには出会えなく、どれくらいの善行、修行を重ねれば
その光に触れられるのだろうとその光に尋ねても、神々しい光はそこにあるだけ。

20年もその場所を譲らずに、変わらないのだからやっぱり二度と塗りかえられる事はないと思えてならない。
小さな声を聞き逃すと、大きな歪みになる。
もう一生誰も好きになれず、一生誰かを愛すことはできない。
いっそのこと、一生涯をこの思い出に誓ってしまいたいくらいだけれど、
一本の糸を掴み偽物の癒したのは束の間。君はずっとそこにいて、
同じことをわたしに伝える。全てを失い全てが壊れた、
その時ですら。

”その甘さ
(花蜜。)
そのあたたかさ その温度
(ここちよい。)
その痛み
(憂い。)
その純度
(穢れ。)”

21時|”22時”|23時
天気;嵐
気温;24°
最高28°最低17°

あとになって、物事の本質が見えるのは拙いわたしの殻が剥けたと捉えれば前向きではあるが、振り返ればその場しのぎな選択ばかりで、きれいに見えても不安定な足場にぐちゃぐちゃなわたしが積み重なっていた。
染みついた幸せの記憶は何にも侵されるこのがない頑丈なまじないを纏って、焼け跡にも残るしぶとさ。
今さらにやっと痛みは少しだけ、澄んだ心の水面から透けて見えるようになり無垢な少女は少しだけ救済されたのかもしれない。

08時|”09時”|10時
天気;曇りのち晴れ
気温;24°
最高28°最低17°

”その甘さ
(微温い。)
そのあたたかさ その温度
(気安い。)
その痛み
(粉々。)
その純度
(穢れ。)”

何にも変えがたく他の何にも覆われず何をしても忘れられずに、忘れる事を諦めるしかない境地に行きつく事となってしまう。
それなのに時が経つほどに、会いに行く事も叶わなくなり、その気持ちは、その記憶は今だわたしの居場所がなくなるほどに、大きく場所を陣取り井戸水のように枯れることのない泉のように湧く。

”その甘さ
(花蜜。)
そのあたたかさ その温度
(”真ん中”って、感じの。それは、本物だって感じの。)
その痛み
(花やかな。)
その純度
(穢れても、尚更。)

耳に残るその声を辿る、
君が居て。

染み込んだ正しさの、まっすぐな空気が、
わたしの正しさの元。


”花蜜の香り”であたたか。
”花やぐ痛み”で生きたここち。

”その甘さ
(結構、あまい。)
そのあたたかさ その温度
(”真ん中”って、感じの。それは、本物だって感じの。)
その痛み
(めちゃくちゃ、痛い。)
その純度
(穢れ無き。)”

痛くて、甘い。死ぬほどここちよくて、あたたかい。
”回想”

06時|07時|08時
天気;晴れ
気温;24°
最高28°最低17°


『痛くて、甘い。死ぬほどここちよくて、あたたかい。 ”解錠”』
読んで頂き、ありがとうございます。



執筆;火瓊漣(かぬれ)

#未来のためにできること

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