今、この場で何が起こってる?感じたことを伝えあう対話で未来が変わる|対話の場づくり屋SNUG代表・長谷川友子さんインタビュー
みなさんは、日頃からジェンダーにまつわることを話したり聞いたり、考えたりしていますか?特定のコミュニティ、たとえば職場や友人同士で話ができているという方もいらっしゃるかもしれません。
でも一歩外に出ると、なかなか話す場がないな、話しにくいなと感じることはありませんか?「私が気にしすぎてるのかな?」「こんなこと考えてるのって私だけかな?」とひとりでモヤモヤしてしまうこともあるのではないでしょうか。
ジェンダーについて安心して話せる場所をもっと増やしたい。そんな想いから浮かんできたキーワードが「対話」でした。
話すだけでなく、聞くこと、考えること、ときには沈黙することも大切にするのが対話。そう教えてくださったのは対話の場づくり屋SNUG(スナッグ)の代表・長谷川友子さんです。「対話のあり方が未来を変える」という考えのもと、行政や企業、地域の人たちとともに、対話やワークショップを設計、実施しています。
今回は長谷川さんに「ジェンダーと対話」をテーマにお話しをうかがいました。
プロフィール
長谷川友子さん(対話の場づくり屋SNUG・代表)
学生時代に同年代が抱える多様な悩みに触れたことで、対話の場の必要性を感じる。同時期に、話し合いの場において参加者の意見や考えを促す「ファシリテーター」の存在を知り、対話の場づくりに興味を持つ。2020年、現対話の場づくり屋 SNUG(当時の団体名:任意団体snug)を設立。北海道庁、札幌市などの行政や企業、教育機関、市民団体、ユース世代等とともに、対話の時間と場の設計、当日のファシリテーション、公正な対話のための研修等を実施している。
対話とは「人それぞれ」から一歩踏み出す行為
ーー今日は長谷川さんに、対話とジェンダーの関係性についてうかがいたいと思っています。
長谷川:よろしくお願いします。
ーーというのも、このテーマを選んだのは、センターで行っているワークショップや事業から、対話にはジェンダーの悩みやモヤモヤをないものにせず、考え続ける力があると感じたからなんです。まず、長谷川さんが考える「対話」について教えていただけますか。
長谷川:私は「対話は技術」だと考えています。話すだけでなく、アドバイスせずに聞く、沈黙を共有して一緒に考える‥などの技術を練習しながら身につけることで、どんな人でも対話は可能です。いわゆる「コミュ障」などと表現されるような個人の能力ではなく、ともに練習することで対話はできるようになると考えています。
もう一つ、対話で必要なのは対話の「場づくり」の技術。対話がうまくいく要因って、環境によるものが大きいんです。なので安心して話すことができる雰囲気をつくる必要があります。そのためにファシリテーターとして活動しています。
対話の場所っていわば「小さな社会」。その中で話すこと自体がリスクを伴う行為です。だから今の社会構造を理解した上で、その場の構造を意図的に変える必要があります。
たとえば、参加者全員が公平に発言できるようルールを設けたり、無意識の偏見に気づくワークを通して共通認識を作ったりすることで、安心して話せる場をつくります。
参加者が大怪我をしないために、最初にしっかりとした土台を作るイメージです。言いたいことを言えるような「場づくり」が、対話では一番重要だと考えています。
ーーまずは環境を整えることが大切なのですね。ジェンダーのように「話しにくいこと」を対話する時に、個人として心がけたら良いことってありますか?
長谷川:個人の心がけというよりは、集まったみんなで何ができるかに着目すると良いと思います。対話の内容は集まったメンバーによっても変わってきますし、その日、その時の体調や社会情勢、天気によっても変わってくるので。
まず、話しにくいことを話していること自体が凄いこと。その成果をみんなで認めた上で「なんで話しにくいんだろう?」と考えます。
「ジェンダーのことってなんで話にくいんだろう?」と考えたときに、私が思い浮かべたのは「対立」です。意見や考えの違いから生まれる対立を恐れて、話しにくくなるのではないかと。
話し合いの「暗黙のマナー」ってありますよね。感情的に話すのはよくないとか、穏やかに話しましょうとか、沈黙は良くないとか。
私は対話の場でその前提を手放せるようにしています。そして「私はそうは思わない」という意見も含めて、全部その場に出してもらいます。
対立があるのであれば、その対立を可視化する。その上で「どうしてそう思うんだろう」と一緒に考える。今、この場で、この小さな社会でなにが起こっているのかを、みんなで探求する。これが対話のプロセスです。だから「人それぞれ」から一歩進むことができるんですよね。
ジェンダー格差のように、社会構造の中で起きている問題を「仕方ないよね」で終わらせない力が、対話にはあると思っています。
地域には自分たちの課題を解決する力がある
ーー長谷川さんはジェンダーについて学ぶために対話は有効だと思いますか?
長谷川:私は対話の場の大切さや可能性を伝える立場ではありますが、対話の場を開くだけでは、ジェンダーを学ぶには不十分だと思っています。対話の場でジェンダーを学ぶには、専門で学んできた方や、実践されてきた方の知識が必要不可欠です。
ただ一方で、ジェンダーギャップを地域課題のひとつとして取り上げ、対話を続けていく必要はあると思っています。地域に住む私たちには自分たちのまちの課題を考え、解決する力があります。ただ残念ながら、まちの課題について対話できる場が圧倒的に少ないのが現状です。
まずは対話ができるまちの土壌を、ここ札幌から作りたい。そのためには対話のプロであるファシリテーターを増やす必要があるし、ファシリテーターにはジェンダーの知識が不可欠だと思っています。
何かを知るってちょっと痛い
ーージェンダーをはじめ、社会課題に高い意識をもつ長谷川さんだからこそ、多様な参加者が安心して話せる場をつくり出せるのだと思いました。長谷川さんが対話の場をつくるときに、大切にしていることってなんでしょうか?
長谷川:感情を大事にしてもらうことです。特に対話の目的が学びや気づきを得ることであれば、参加者に感じたことをそのまま話してもらうことを大事にしています。「それってモヤモヤするな」「罪悪感があるのはなんでだろう」「なんか居心地が悪いな」など、一人ひとりが率直に感じたことを共有できたらいいなと思っています。
なぜなら、モヤモヤするな、居心地が悪いなという時間が流れた後に起こる対話が、一番大切だからです。私はファシリテーターとして「今何が起きてますか?」「ここにある雰囲気ってどんなものですか?」と問いかけます。すると「なんか話しづらいです」とぽつぽつ話し始める人が出てくるんですよね。さらに「なんで話づらいんでしょうね」と問いかけると「相手のことがわからないからかもです」と返ってくる、みたいなことが起こっていきます。
何かを知るとか、突きつけられるとか、理解するときって、ちょっと痛いこともあると思うんです。みんなで痛みを伴いながら、痛みの先にある学びを探求すること。これが対話の醍醐味だと思っています。
対話には自分を、まちを、社会を変えていく力がある
ーー最後に、長谷川さんが描く、対話が生み出す未来を教えてください。
長谷川:まずは、対話の場や文化が当たり前にある未来です。持続的な対話の場が設けられ、必要なときに対話ができるまちづくりを、ここ札幌で実現できたらいいなと思っています。
もうひとつは、ファシリテーターが一定数まちにいて、必要に応じて対話に参画できる未来です。対話のプロフェッショナルであるファシリテーターが育っていく未来になったらいいなと思います。
対話が当たり前になる社会とは「思っていることを言える社会」です。
思っていることが言えなかった人が言えるようになると、社会に反映される声も増えていきますよね。
対話だけでは、すぐに社会を変えることは難しいかもしれません。でも、小さな社会である対話の場で、「自分の声を聞いてもらえた」という体験から対話の機会や場を増やしていくことで、いずれ社会構造が変わるのではないかと思っています。
それに加えて、自分たちの組織や暮らしが良くなったり、自分自身がウェルビーイングに近づいたりっていう影響もあるんじゃないかな。
ーー対話の可能性の広さを感じました。
長谷川:広いと思っています。広いからこそ、対話には技術が必要だから、みんなで練習しよう、対話のプロフェッショナルであるファシリテーターを増やそう、と呼びかけて実践している最中です。私もさらに学びを深めて、描いた未来を実現したいですね。
構成・文:本間幸乃(ライター、精神保健福祉士)
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