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《理解》って何だろう? ボーイ★スカート|藤井 ももこ

性別、年齢、学歴、国籍、セクシュアリティ等、あなたは日常の中で「少数派」になる瞬間はあるだろうか?私はある面で自分が少数派だと思っていて、答えたくない話題や質問が周囲から出ることがある。

そんなときによくやるのが、愛想笑いをして曖昧に流す。
理解してもらえるか分からないリスクを負ってまで、「普通」であれば言う必要がない説明をしたくないし、「そういう人」とレッテルを貼られるのが怖いからだ。

でも、何とかその場を切り抜けてひと安心、するわけではない。
帰宅後、なぜあんな不快な話をされなければいけなかったのか怒りを感じ、それに何も言い返せず笑っていた自分に悔しくなり、数カ月経ってもたまに思い出して悲しくなる。

だから、《理解》って何だろうと、ここ数年間ずっと考えている。

悶々とした日々の中で、一冊の漫画に出会った。
カラフルでやわらかいイラストの表紙と、ジェンダーを含んだあらすじに惹かれて手に取ったのがきっかけだ。

物語は、男子高校生の桃井くんがある日突然学校にスカートをはいて登校してきたところから始まる。周りが騒然とする中、彼の姿に唯一ワクワクしていたのが風変りなクラスメイト・白井さん。この二人を中心に、桃井くんの両親、クラスメイト、彼女などが登場し、スカートをはく少年の不自由さと葛藤がユーモラスに描かれている。

作中で印象に残っている部分が二つある。

一つは、主人公の桃井くんが言ったセリフだ。
「桃井みたいのを性同一性障害っていうんだろ?」
「異性装ってやつじゃないの?」
「同性愛とは違うの?」
クラスメイトからスカートについて好き勝手言われ、桃井くんはどうしたら良いのか悩む。

「なんで『理由』を『みんな』に納得してもらわなきゃいけないんだろうね?」

このセリフを読んだとき、私が普段感じていたことを代弁してもらえた気がした。
私がこうあることは、私にとって何の特別でもなく「普通」だ。
それにも関わらず、なぜ私が《理解》してもらう努力をする必要性を感じなければいけないのか。もしかして努力する必要はないのではないかと感じた。

では、誰にも理解してもらわなくていいかと言われると素直に肯定できない。周りの誰にも分ってもらえないのは孤独だ。少数でも確かに「いる」のに「いない」ようにされている世界で生きていくのは辛い。

もう一つ印象に残っているのは、桃井くんが自分以外にスカートをはいている男性を見かけて話を聞くシーンである。

桃井くんの彼女は、桃井くんを受け入れたいと思いながらも、「男だから」「女だから」という固定観念にとらわれていて、男なのにスカートをはいている桃井くんと一緒に歩くことができない。

一方、桃井くんも彼女に無理させてまでスカートをはくのは、自分のワガママではないかと葛藤していて、スカートをはいた男性を見かけて「どうしてスカートをはいているのか」と訊ねる。

男性の答えは、桃井くんがスカートをはく理由と全然違っていた。

このシーンを読んで、同じ「少数派」でも背景が同じとは限らないと気づいた。

私は今まで自分と異なる何かを理解するには、相手の気持ちに同感(共感)することが必要だと思っていた。確かに共感してもらうと嬉しい。自分がおかしいわけではなかったと救われた気持ちになるときも多くある。

でも、人々の生き方が多様化するこの時代に、全てのことに共感するのは難しい。似たような経験をしていても、その人が感じている本当気持ちそのものは、その人自身にしか分からない。

この作品を通して考えたことは、私が「多数派」になったときも当てはまる。自分が今まで当たり前だと思っていたものと違うものと出会ったとき、こちらの価値基準に勝手に当てはめず、理解できなくても否定や拒否をしないのが大事なのかもしれない。
《理解》とは何か、自分の中でまだ明確な答えは出ないが、今はそう思っている。


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制服(スカート)とジェンダーに関する作品だがあまり触れられなかったので、最後に私自身と制服を振り返ってみた話を少ししたい。

・嫌いだったもの
真冬のスカート。何であんな寒い思いをしてまで、はかなければいけなかったのか謎。
リクルートスーツは膝丈のスカートにストッキング&ヒールで雪道を歩かなければならず、もっと辛かった。「女性はスカートの方が面接官の印象が良い」と就活セミナーで言われ、スラックスをはくのを我慢したのを思い出した。

・好きだったもの
吹奏楽部の制服(ユニフォーム)。黒のスラックスと赤いネクタイがとても格好良くて、これを着てステージに立てるのが嬉しかった。
私は高校の制服のネクタイも好きだったのが、制服以外で女性がネクタイを締める機会はめったにないと今さらながら気づいた。

私が制服を着ていたときから何年も経っているので、今の制服事情がどうなっているのか、noteを書くにあたって調べてみた。まだ数は少ないが、ジェンダーレス制服を導入する学校は増加傾向にあり、性別を問わずブレザーとスラックスを標準制服にした学校もあると知った。
こういう知識を増やしていくことも、誰かを否定せず理解することにつながるのかもしれないと感じている。

藤井 ももこ(札幌市男女共同参画センター職員)
プロフィール
北海道生まれ。義務教育期間の約9年間を東北で育つ。家でのんびり過ごす時間が大好きなので、「休日どこか出かけないの?」「趣味はないの?」と聞かれると困る。

今回の本

ボーイ★スカート 著:鳥野しの 祥伝社  



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