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一緒に悩んで、怒って、悲しんで。答えのない問いを抱えながら生きる~20代の記者と支援者からみた若年女性の姿~


若年女性が孤立した状況から悲しい結末を迎えてしまった、そんな事件が今数多く起きています。背景をたどると「支援機関の存在は知っていた」というケースは少なくありません。

HBC北海道放送の貴田岡結衣さんは、現在23歳。2022年6月に起きた、JR千歳駅のコインロッカーに乳児が遺棄された事件に記者として関わったことを機に、若くして妊娠した女性への取材を続けてきました。

ドキュメンタリー番組「閉じ込められた女性たち」
https://youtu.be/ViCU4i4yUjM?si=iOfIWQsVW9G_1lcV

そんな貴田岡さんの取材を機に知りあった、同じく20代の札幌市男女共同参画センター職員、高橋紗英。若年女性支援を担当しています。今回はこの2人で、同世代からみた「支援への繋がりづらさ」について、話し合いました。

プロフィール

貴田岡 結衣さん(HBC北海道放送株式会社)

2000年生まれ。
大学ではアメリカ文学を専攻。「現実に起きていることを見つめる職業に就きたい」と、2022年HBC北海道放送株式会社に入社。報道部に配属となる。
現在は記者として、孤立する若い妊婦や風俗で働く女性にスポットを当てた取材を行なっている。

高橋 紗英 (公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会)


1999年、秋田県生まれ。
大学進学を機に移住した札幌で、初めてホームレスをみた驚きから、背景にある社会問題に関心を抱くようになる。
「どんな人にとっても暮らしやすいまち」のあり方を考え、実現したいという想いから、2022年、公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会に入職。札幌市男女共同参画センターに配属となる。
入職1年目から「札幌市困難を抱えた若年女性支援事業LiNK」に従事し、現在に至る。

※札幌市男女共同参画センターを運営している公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会では、令和3年8月より「札幌市困難を抱える若年女性支援事業LiNK」の委託運営をしています。


支援先は「知らない」んじゃなくて「頼れない」

ーーお二人がお会いするのは3、4回目ですよね。
今日は支援や取材から見えたことを、同年代の視点から率直に話してほしいと思います。

貴田岡・高橋:よろしくお願いします。

ーー今回は「支援への繋がりづらさ」というテーマなのですが、まずは現場で「繋がる」女の子たちに共通していることって何かありますか?

高橋:「自分の悩みは支援機関に相談するようなことではない」と思っている方たちが多いと感じます。

貴田岡:「自分の悩みはそんなに深刻なものじゃない」と思っていたりとか。

高橋:そうですね。特に家庭環境のことって「当たり前」になっているので、客観的な視点で違和感に気づくって難しいだろうと思います。相談でも「私が我慢していればいいと思っていた」「こうして相談に来ることも甘えなんじゃないか」と言われることが多くあります。

相談窓口の存在を知らないから繋がらない、知っているから繋がる、のではなく、知っていても繋がるかどうかを迷う。迷う理由は、これまでの日常が壊れたり、変わったりすることへの恐怖だと思います。

恐怖よりも「現状を変えたい」という気持ちが上回ったときに、支援に繋がるんじゃないかと思います。

貴田岡:私が関わってきた方々は、妊娠という身体の変化から支援に繋がることが多かったように思います。

ただ、支援に繋がることができなかった千歳の事件の被告を思うと……。先ほど高橋さんが話されていた「日常が変わる恐怖」というよりは、周囲の人たちや社会から「責められる恐怖」から、支援に繋がれなかったのかもしれないと思いました。

支援機関の方たちは「“周囲を頼ることで責められる“という考えは思い違いだよ」って、皆さんおっしゃいます。私が関わってきた支援者の方々は、困っている若い女性を責めたり否定したりしません。でも相談する側は、妊娠という、性についての事柄が絡んでいることの後ろめたさから、批判の声を感じ取ってしまうのではないでしょうか。

高橋:批判への恐怖は「LiNK」に繋がった方たちからも感じます。「せっかくここまで育ててもらったのに、相談することで親を悪者扱いするようで辛い」と、家族に罪悪感を抱く方もいますね。

ーー「周囲の人や社会から責められるかも」という恐怖は、SNSの影響もありそうですよね。

高橋:あると思います。今はスマホひとつで簡単に、自分と似たような境遇の人の言葉や、様子に触れられる。それは同時に、批判の声に触れることにもつながります。
ごく一部の批判の声を社会全体の声と捉えて、「声をあげたら責められるかも」と思ってしまうのかもしれません。

貴田岡:たしかにそうかもしれません。特に孤立しているときって、SNSやインターネットの情報が、唯一の解決方法だと感じてしまうのかも。それだけ状況がひっ迫しているってことですよね。

千歳の事件の裁判では、被告が事件前後に「妊娠相談」「陣痛 何時間」などのキーワードで検索していたことがわかったんです。
今って情報収集のツールは発達しているから、本人に調べる能力があれば、批判も含めていろんな声に触れることができる。さらに人によっては、一時の対処もできてしまうんですよね。


高橋:これまで自分でなんとかしてきた人ほど、支援から遠ざかってしまう印象があります。今までひとりで頑張って対処してきたけれど、どうにもできなくなってしまった。そこで初めて支援機関につながる方が多いです。支援機関はいわば「最後の砦」になっていると思います。

相談では「今すぐこの問題を解消してほしい」という声が少なくありません。相談者の状況がかなり切迫していて困っているので、早く解決したいと思うのは当然です。

でも状況を伺っていくと、すぐには解決できない、複雑な問題が絡まり合っているケースがほとんどです。一時の対処ではなく、問題の本質を見極め、解決するには時間がかかります。相談者が抱く支援のイメージと、実際の支援のスピード感にはズレがあるんです。すごくもどかしさを感じます。

貴田岡:千歳の事件でも「誰かに頼る」という考えがあったから、相談窓口を検索していたんだと思います。けれど、どうしても取り返しがつかない状況になってしまって、相談しようと思った時には遅かった。被告が悩み苦しんでいた様子が、裁判や取材からうかがえました。

裁判でみた姿は手錠をかけた「被告」だったけれど、事件の詳細を知れば知るほど、私の隣にいるかもしれない同い年の女の子なんだなって、すごく思いました。


相談は絡まりあった糸を解きほぐす行為

ーーたとえば自身が困った時、支援機関への相談ってハードルが高いと感じますか?

貴田岡:今の自分は取材などをとおして支援機関を知っているから、多分どこかのタイミングで相談すると思います。

たとえば今私が妊娠したとしたら……。支援機関に相談はするけれど、自分の行動に対しての後ろめたさは、確実に生まれるだろうなと思います。相談する状況に至るまでに「あの時こうしておけばよかった」という、いくつもの後悔があるからです。

だから「私もここは悪かったんですけど」って、かなり謙遜して打ち明けるでしょうね。
自分が責められないよう謙遜することで防御線を張り、相談のハードルを下げる、ということはあると思います。

高橋:支援側からみると「あなたが悪いことなんて何もないよ」ということもたくさんあります。
謙遜して自分を守ろうとする相談者からは、自分だけじゃなく、自分が大事に思う人も責められたくない、という想いを感じることがあります。


ーー若い女性が抱える悩みは、学校や家庭環境、自身の体や心、社会との繋がり……色んな要素が絡まり合っているんだなと思いました。10代、20代で悩みを言葉にするって難しいですよね。

高橋:「何がしんどいのか自分でもよくわからない」という方は多いんじゃないかと感じます。1から状況を説明しなきゃいけないので、相談のハードルが高く感じるのかもしれません。

貴田岡:「何がしんどいのかわからない」ということは、「問題の本質に本人が気づけていない」ということですよね。よくあることなんでしょうか?

高橋:そうですね。SNSでのやり取りだと「聞かれたことだけに答える」ことが多いので、お互いに問題の一部や表面しかわからないことが多いんです。

相談内容によっては、SNSから面談での支援に移る方もいらっしゃいます。実際に会って話してみると、言葉にしづらい、文面には出てこなかった問題が見えてくることは少なくありません。SNSでも面談でも、話を丁寧に深掘りしていくと、問題の本質が見えてくると感じます。


複雑なことを複雑なまま受け止めたい

ーー相談や取材相手が同年代だからこそ、葛藤を感じることもあるのでは?

貴田岡:「この人って私と同じプリキュア観て育ったんだよな」って思っちゃうこととか、ありますね。相手の喜怒哀楽をそのまま受け止めてしまうことに難しさを感じます。「この質問で傷つけないかな?」と悩むこともありました。

それでも、現代の若年女性の声を伝えることには意味がある。そう信じているので、私の軸として取り組んでいます。

ーー同年代でよかったな、と思うことは?

貴田岡:割とフランクに話せるところですかね。いい感じの「小物感」があるのかな(笑)「この人からは責められない」と思ってくれているのかも。怖がらず話してくれている気がするのは、同年代だからかな、と思います。

高橋:同じ思いです。ただ「支援」となると同年代って難しくて。「頼りない」と思われているんじゃないかと、不安になることもあります。
でもこっちが不安になると、相手も不安になっちゃうので。できるだけ堂々としています。

相談者とお会いすると「もっと年上の人がくると思ってた」と驚かれることもあるんです。同年代の支援者として相談のハードルを下げて、「もっと気軽に話せる場所だよ」と伝えていきたいですね。

ーー最後にこれからのお二人について、それぞれの想いを教えていただけますか。

貴田岡:記者である以上、困難を抱える人たちの悩みを社会に繋げるきっかけをつくることが、私の役割だと思っています。

千歳の事件の番組を作っても、問題が解決したり、答えが見つかったわけではありませんでした。でも放送の半年後、番組内で紹介した支援機関から「番組をみて相談してくれた子がいるよ」と連絡があって。「繋がることもあるんだな」と報道の意味を感じた瞬間でした。

若い女性を取り巻く現実をないものとせず、これからも向き合っていけたらと思っています。

高橋:「思っているより身近な存在が対応している窓口だよ」と伝えたいですね。一緒に怒るし、一緒に悲しむし、一緒に頑張るところが「LiNK」。悩みに寄り添って、よりよい未来を考えるために、これからも「ちょっとだけ知識のあるお姉さん」であり続けたいと思います。

少しでも「相談してみようかな」と思う方がいたら、まずは話を聞かせてくれると嬉しいです。

【ひとりで不安な気持ちを抱えているあなたへ】
LiNK sapproは10代~20代の女性のための相談窓口です。
居場所がない。生活に困っている。妊娠したかもしれない。恋人や家族から暴力を受けている等、誰に相談したら良いのか分からないことを、女性の支援を行っている女性スタッフがお聞きします。さまざまな専門機関と連携しながら困りごとの解決のお手伝いをしていきますので、ひとりで抱えずにまず話してみてくださいね。

・LINE公式アカウント:LINK sapporo(@764nqgbc) 
・X(旧Twitter)公式アカウント:LiNK sapporo(@Link202108)

聞き手 橋本彩加(公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会/札幌市男女共同参画センター・主任)

構成・文:本間幸乃(ライター、精神保健福祉士)

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