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フォレスターという生き方|ゆるゆる座談会レポート

この日の座談会ゲストは、久住一友さん。
奈良県明日香村を拠点に、フォレスターとして活躍しています。

その活動は従来の「林業」の枠組みに留まらず、森づくりの過程で伐採した木の直売、林業技術の指導、古民家を改修してシェア工房や学習会などを開催する集い場「森ある暮らしラボ」の運営、などなど幅広く多彩。

森と地域の人をつなぎ、何世代にもわたって森をつくる。そんな久住さんのこれまでとこれから、そして今。そんなお話を伺いました。

久住 一友(くすみ かずとも)さん

1980年、大阪の佃島に生まれる。
幼少期、昆虫さがしに没頭。
高校時代、家族で出かけた木の殿堂(兵庫県)で山の学校のチラシを見つける。
1999年、兵庫県立 山の学校に入学。
2000年、養父町森林組合に就職。
その後NPO法人や森林組合での勤務を経て、2016年、奈良県明日香村で久住林業を開業。


木を伐り、売るということ。

「林業は、木材として使うために木を植えて育ててきた産業です。植えた木が育って収穫できるまでに大体50年くらい。その間は無収入です。
50年経ったくらいから間伐収入というのが得られるので、生長した木を伐っていって、また植えるっていうサイクルです。」

開始早々、山しごとの時間の長さに聴衆は思わず驚きの表情。
久住さんは山林の所有者から依頼を受け、木の高さや太さ、本数を調査して整備プランを立てているのだそう。

「木はそれぞれ部位によって使い道があって、建築用材や家具材になるA材、コンパネやベニヤになるB材・C材があります。枝先や根はチップとして紙の原料やバイオマスとして使われたり、薪になっていきます。A材は木材市場で競りにかけられていきます」
と紹介された図に、みんな興味津々。更には市場での丸太1本の価格の求め方まで教えてださり、次々と林業のリアルが目の前に現れます。

「ここまでは一般的な林業の流通で、伐った木を市場に卸すというやり方です。それとは別に今、“自分でも価格を付けて売ってみよう”ということをやってみています」

「こんな風に、伐った木を製材所に持ち込んで製材してもらうんですが、木材っていうものは、板にしたらすぐに使えるかって言うとそんなことはなく、ここから乾燥させないといけません。天然乾燥だと屋外でまず1年、屋内に引き入れて1年、少なくとも2年は置かないと使えないんです」と、またまた年単位の時間が久住さんから飛び出します。

積み上げ雨ざらしにして乾燥させていっている木材。そのジッと佇むようなその姿に一朝一夕では完結しない、林業の世界を垣間見るのでした。


森につながる暮らしを、地域に。

「今、林業に携わりたい、農家林家としてやっていきたいっていう人が増えてきています」

久住さんはそういう人たちに向けて、木の伐り方やチェーンソーの使い方などの研修会を開いています。他にも、奈良県のフォレスターアカデミーで架線集材(ロープウェイのように空中にワイヤーを張って伐採した木を吊るし運び出していく技術)の指導もされています。

「あとイベント参加もしていて、先日はスモールファーマーズデイにも出店させてもらいました。まさか丸太が売れるなんて!とビックリしました笑」

2024年2月に開催されたスモールファーマーズデイには、薪割り体験ブースをご用意くださった久住さん。他にも、明日香村で毎週開催されているビオマルシェでの薪割り体験や、公園の木を伐る体験、その木を使って遊ぶ体験なども数々企画。
これらの森を身近に感じる様々な体験企画は、久住さんの“森のある暮らしを地域に”という思いから生まれています。

「森に直接は来づらいっていう人もいるので、森につながる拠点をつくりたかった」そう話す久住さんは、ある“場所”を作り始めるのでした。


森ある暮らしラボ。

そこはアーティストや地域の人たちの工房として活用され、ときには子ども向けの工作教室や、地域の人たちに向けた街づくりの勉強会などが開かれています。その名は“森ある暮らしラボ”。

「きっかけは、オーストリアとスイスに行ったときのことでした。滞在時にお世話になった家には薪ボイラーがあって、家中の暖房を賄っていたり、森の中に牛を放していたり、暮らすということが“森とつながっている”と感じられて、とても新鮮でした。子どもたちが森のそこかしこにいて、住民が森の中にフラリとやって来る。何だろう、この日本との違いは、と。日本でもこんな地域をつくりたいな、と思いました」

森に人が集まる拠点をつくるべく、久住さんは古民家を借りて改修。
「最初は大工さんとだけでやってたんですが、だんだん手伝いたいっていう声が出てきて、ワークショップ形式で一緒にやるようになりました。参加者の中のおじいちゃんが左官職人で、壁塗り教えたるでって言って、孫と一緒に来てくれたりして」

そうしてできあがったその場所が、森ある暮らしラボ。
「街づくり勉強会は地域住民に敬遠されがちですが、勉強会後に食事を提供するなどして、楽しく話し合えるように心がけています」と久住さん。

「他には“森に出かけよう”っていうイベントもしています。例えば、大きな桐の木を伐るとき、その近所に住んでいる人たちに声をかけて、一日一緒に過ごそうっていうイベントをしました」

長年その地に根を張った木。伐ってしまえばその風景は失われます。
「なので、その風景を描きましょうって言って、みんなで木のスケッチをしたんです」

思い思いに木のある風景を留めおき、やがて伐採のとき。
倒れた木を見届け、ちょっと緊張の糸がほぐれると、木はたちまち子どもたちの遊び場に。また、木を身につけて持ち帰ろう、と思い思いのものを作って持ち帰ったそうです。

森につながる暮らしを地域に。
久住さんの思いはひとつひとつ着実に、かたちづくられています。


地域と共に、そして未来に向けての思い

「仕事としては地域の人からの依頼も結構あります。例えば6mくらいの木に登って枝を刈り取るだとか、家の裏で大きくなって傾いている木を伐り倒してほしいだとか」

地域の人たちと共に、森とつながりながら暮らす久住さん。そんな久住さんには、これからの林業に向けた思いがあります。
「今の木材を生産するための林業に加えて、住民の暮らしに交わるところをもっと増やしていきたい。そう思い始めたのは、スイスのフォレスターの影響が大きいです」

スイスの男の子たちの憧れの職業であるというフォレスター。実務経験と専門教育を経たうえで国家資格取得し、その職に就く森のプロフェッショナルたちです。

「僕が出会ったのはロルフさんという人なんですが、すごく美しい森を育てながら、林業の話ばかりするのかと思いきや、すごく地域に溶け込んでいて。休日の食事会の話をしていたり、地域の人の悩み事を聞きに行ってたりだとかっていうのを地道にされていました。
一日の半分以上を、地域の人たちとのコミュニケーションに使っているっていう話を聞いたのが衝撃で、この人のようなフォレスターになろう、と思いました」

久住さん(左)とロルフさん(右)

「地域づくりと森づくりっていうのはすごく親和性があるというか、でも、つなげていかないとできないことだなということを感じながら、取組んでいます。どこまでが仕事で、どこまでが仕事じゃないのかっていうのも、もう分からなくはなってますけど、地域のためにやっていけたらな、と思っています」

そう話を締めくくった久住さん。
座談会のその後の時間では、山への様々な質問や、座談会の参加者自身が取り組んでいることへの意見交換などなど、終了時間ギリギリまで参加者とのやりとりが続きました。

明日香村に、一本の木のようにすっくと立つ久住さんのお話に引き込まれた1時間半。それはまるで、森の一本道で出会ったフォレスターと語り合っている時間のように感じたのでした。

久住林業・Instagram


レポートする人
今井幸世さん

2021年の夏から野菜づくりの勉強を始める。はじめての土、はじめての野菜、これまで想像もしなかったたくさんの経験と自然のふしぎを通じて、環境と状況の中にある自分を発見。自然の摂理に沿って生き、はたらき、出会い、食べる暮らしを目指し自給農に挑戦中。


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