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食と農と環境の未来を、土と肥料と微生物の専門家から学ぶ ―2023年・スモールファーマーズ春季集中講座 vol.1

80億人を超える世界人口に温暖化、一向にあがる気配のない国内の食料自給率。そんな簡単に答えの出ない問題に、人間の歴史と暮らしに深く関わる3つの学問からアプローチするこの講座。

・農業の土台であり、森林減少や地球温暖化とも密接に関わる土壌学
・人口増加を支えてきた化学肥料に関わる肥料学、植物栄養学
・環境負荷の低い自然栽培の可能性を示す植物生態学

それぞれの学問の専門家の話を聞き、自然の土壌を観察しながら「未来」を考える。そんなスモールファーマーズの「新たな学び」の現場をレポートします。

第1回:
農業の基礎である土壌について、自然にできる土を観察することで学び、考える。

真常仁志(しんじょうひとし)先生
京都大学大学院 地球環境学堂 准教授。専門は土壌学。森林から田畑、砂漠まで世界中の土壌を研究対象としている。マラウイやシリア等乾燥地での持続可能な農業の実践も行う。

真常仁志先生

目の当たりにする土の世界。土壌断面との出会い。

「農業の基礎である土壌について、自然にできる土を観察することで学び、考える」春季集中講座の第1回目。

京都大学大学院 地球環境学堂の准教授である真常先生の指導の下、京都府内の林で土を掘り、その断面を見ることから始まりました。
当日はあいにくの雨模様でしたが、受講生の殆どが初めてとなる「土を掘り、土壌断面を見る」という体験を前に高揚感を感じながら、ヘルメットと雨具を装着し、続々と林に向かいました。

到着した尾根を覆う林の中。「この辺りにしましょう」と真常先生に指定していただいたその場所。シャベルを入れてはみたものの、腐葉土の下は木の根が縦横無尽に駆け巡り、思ったように掘ることができません。根を切り、何度もシャベルを土に突き刺しながら、受講生たちが掘り進めます。

降り重なった葉や枝の層を掻き分けていきます

やがて現れたその層に「色が変わった!」と歓声のような声が上がります。落ち葉の下、微生物に分解された土を越えた先に現れた黄色い土。その明らかに様子の変わった土壌断面に、受講生たちの目が輝きました。

掘った土が元に戻せるように層ごとに土を分けておきます

その頃からシャベルにガシャンガシャン!と礫が当たり始め、根とは違う新たな難敵となってシャベルが先に進むことを阻みます。礫にシャベルが当たると、時折火花が散る場面も。
「火打ち石になる素材があるのかも知れませんね」という真常先生の説明に驚きつつ、掘りに掘った穴の中。教科書でしか見たことのなかった“層”がそこに姿を現したのです。

土の黄色は母材の岩石が酸化し土化している様そのもの
尾根の土壌断面(褐色森林土)。O(オーガニック)層、A層、B層のグラデーション
根が多いA層、B層に突如現れるA層のような色の土、その全てに理由があります
SDGsでも話題の、炭素貯留(CO₂を土のなかに閉じ込める温暖化対策)を
森林が行うメカニズムに耳を傾けます

尾根に続いて、今度は谷の土の観察です。
落ち葉が積り、微生物によって分解されたA層の土がしっかり蓄積されていた尾根に比べ、いずれも薄い谷の土。シャベルを入れるとすぐにB層の黄色い土が顔を出します。
また降雨にも関わらずサラサラとしてた尾根の土に比べ、谷の土は水分が多く、わずかに離れただけと思った距離と高低差が、想像以上に土壌物質の堆積に影響を及ぼしていることを目の当たりにしたのでした。

尾根と比べて薄い落ち葉の層、土を掘るとA層は僅かですぐにB層が顔を出します
水分量の多い谷の土、
土壌断面はO層からB層までのグラデーションが短くA層がかなり浅い様子が見られました

地球環境と農業と土壌。疑問と気付き、新たな学び。

土壌断面を見た興奮冷めやらぬ中、講座後半は座学の時間。テーマは「地球環境と農業と土壌」です。

専門的でありながら、土壌初心者にも分かりやすく講義を進めてくださる真常先生
スモールファーマーズ代表・岩崎氏(右)と、スモールファーマーズカレッジ講師・古谷氏(左)
「今日は僕たちも初心に返って学ぶ立場です」

つい先ほど、林で見た褐色森林土をはじめとする日本の代表的な土壌の種類、その生成過程の特徴、循環する炭素と窒素の動き…と、土壌の機能を抑えながら、やがて話はプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)に農業が与える影響へと差し掛かります。

それは例えば人間が森林を農地にするために切り拓いたり、トラクターが化石燃料を使ったり、肥料によって農地に固定した多量の窒素が引き起こす富栄養化や環境汚染、気候変動だったり…。
課題が挙がるにつれ、受講生たちも考え込むような様子が見られました。
「環境問題を悪化させずに増え続ける人口を養い、心身ともに豊かな社会を築いていく」には、果たしてどんな農業をしてどんな世界を目指せば良いのだろう、と。

森林の木々が蓄える炭素、その2倍の炭素を蓄える土壌の力、土壌団粒が保持する炭素と耕作の関係などなど…、真常先生が示してくださる情報やデータを見ながら、有機農業、自然栽培、慣行栽培、それぞれの考え方の中から「農に関わる者として、土壌をどう維持するか」を考える視点や論点が広がっていきます。

土壌維持の方法が与える作物への影響、SDGsでも話題の炭素貯留、地産地消の意義などなど、挙がる話題は多種多様。

受講生それぞれの暮らしや農のスタイル、文明社会の恩恵、世界の流通…などなど、たくさんの価値観を比較しながら、ひとり一人が自分と農、土壌との関わりについて考える時間となりました。

土壌を見る、知ることが、こんなにも世界のできごとに繋がっているとは思いもよらなかった。そんな声も聞こえる、発見の多い一日となった「スモールファーマーズ春季集中講座」の一日目も無事終了。

第二回目は『化学肥料の専門家から有機農業はどうあるべきかについて学び、考える』講座です。実は化学肥料の研究は自然を深く知ることから始まるというこの講座、さてさて、どんな発見や学びに出会えるのでしょうか。次回の開催を楽しみに待ちたいと思います。


レポートする人
今井幸世さん

2021年の夏から野菜づくりの勉強を始める。はじめての土、はじめての野菜、これまで想像もしなかったたくさんの経験と自然のふしぎを通じて、環境と状況の中にある自分を発見。自然の摂理に沿って生き、はたらき、出会い、食べる暮らしを目指し自給農に挑戦中。


NPO法人スモールファーマーズでは、農を通してより良い世界をつくる活動に共感いただける「仲間」を募集しています。
ご自分のペースで、ゆっくりゆる~く関わっていただけたらと思います!

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