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〖本紹介〗シークレット・ペイン

こんにちは
3回目の投稿です。

noteで本紹介を書き始めてから、改めて本の魅力って何だろうということを考えています。
最近改めて思ったことは、本って自分がただ生きてるだけでは絶対に経験しない体験や感情を与えてくれるなーということです。自分が出会えなかった人や、つけなかった職業、味わえなかった感情に出会わせてくれるのが本なんじゃないかなと。

というわけで、今回紹介するのは、私がまだ知らなかった世界を見せてくれたこの本。

〖シークレット・ペイン
   ―夜去医療刑務所・南病舎―〗   前川 ほまれ

【あらすじ】

本の裏表紙より


【おすすめポイント】

①色々なことを考えさせられる社会派作品

正直なことを言うと、個人的な感想ですが、この本を1冊読み切るには、かなりの力を使います。疲れます。
私は結構本を読むスピードが早い方だとは思っていますが、そんな私でも久しぶりに時間をかけて読んだなーという感じです。
特に前半は、本のページ1枚1枚が鉛でてきてるのかな?ってくらい、ページをめくるのが大変でした笑。
その重さの理由は、内容はもちろん、主人公である精神科医の工藤のセリフや態度にあると思います。

このお話は、医療刑務所が舞台です。つまり、主人公の精神科医である工藤は、犯罪者の治療をしなければいけないのです。「犯罪者を治療する」ということに、工藤は納得できないでいます。人を殺した殺人犯をなぜ治療しなければいけないのか、治療する意味は何なのか。実際にこういった表現があります。

「この際だから言いますが、誰かの人権を踏みにじった者に医療を提供したくはありません。」

「被害者のことを考えると、受刑者たちのあのような態度が許せないんです」

「卑屈に笑う姿を見ていると、鼻腔に伸びる酸素の管を引き抜きたい衝動に駆られた。」

前半はこういった表現が出てくることが多く、犯罪者である患者に対して、わかりやすい真正面からの嫌悪感をぶつけてくるのがしんどいなと。それが重さの理由なんだと思います。

しかし、しんどいとは感じながらも、私自身、工藤と同じ立場に置かれたら同じことを思うんだろうなと感じました。

自分は医者ではないけれど、同じような感覚を現実で味わったのが、京都アニメーションの放火事件でした。あの事件の時も、重症である放火した犯人に医療を受けさせることに様々な意見があり、医療を受けさせる必要なんてないって思った人もたくさんいると思います。私自身も、犯罪者が医療を受けることに素直に納得はできなかった記憶があります。
でも、本当に犯罪者に医療を受けさせなくていいのか、そのまま死なせてしまっていいのか。こういった社会的な問題について深く考えさせてくれる1冊です。

②主人公の心の変化

①で話したように、前半の主人公である工藤は犯罪者に対してわかりやすく嫌悪感を押し付けてきますが、徐々に工藤の気持ちに変化が現れます。

工藤の気持ちに変化をもたらした存在の一人が、工藤の友人であった滝沢という男。工藤が医者を目指したきっかけになった滝沢とは、この医療刑務所で再会し、患者と医者という関係になります。日に日に弱っていく滝沢の治療に関わるなかで、工藤の「犯罪者を治療する」ということに対しての考え方に変化が現れます。
特に印象的だったのがこのシーン。

「滝沢が罪と一緒に真摯に生きている姿が、贖罪の言葉に変わっていくと思うんだ」

「医療はあの高い塀を越えて、鉄扉を通り抜けなければいけない。僕のような医者がいるのも、自分自身と深く向き合う時間や、被害者の苦しみを考える機会が病で塗り潰されないようにするためなんだよ。そんな日々の積み重ねが、再犯防止にも繋がっていくと思うんだ」

この言葉、①と同じ人物が言った言葉だと信じられますか?笑
特に、「自分自身と深く向き合う時間や、被害者の苦しみを考える機会が病で塗り潰されないようにするためなんだ」というこの文。
個人的には、犯罪者に医療を受けさせる必要があるのかの答えなんじゃないかなと。

私は、後半にいくにつれて、工藤が人間の感情を出してきているなという感じを受けました。
言葉に力があるというか、自分の存在意義をしっかり確認している感じがして。前半の工藤の冷めている感じがあるからこそ、この後半部分の表現が生きてくるんだと思います。
滝沢との関係だけではなく、他にも様々な背景から、工藤の心境に変化が出てくるので、そこの関係性を楽しんで貰えるのではないかなと思います!


私はこの本を読んで初めて、医療刑務所の存在を知りました。きっと、ほとんどの方が一生のうちに経験することのないことを体験させてくれるお話です。内容的には難しいし、重めのお話なので、読むのを躊躇する方もいるかもしれませんが、読む価値しかないです!
ただし、王道ハッピーエンド!って感じのお話ではないので、心に余裕がある時に読むのをおすすめします🍀
最後まで読んでよかった〜と思えるラストになっているので、前半の重さをどうか乗り越えて、最後の1文字まで読んでいただきたいです!

読み終わったあと、心に眩しい光が刺す爽やかなお話ではないのかもしれませんが、小さくて温かいロウソクの炎がポッとつくような感覚を味わうことの出来る1冊です。

以上!3回目は「シークレット・ペイン」の紹介でした!

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