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夏休みの朝食

こんがり焼いたソーセージに
醤油を数滴かけ、
熱々の白飯に乗せ、口に放り込む。
冷えた薄切りハムに、
中濃ソースをたっぷりかけ、
熱々の白飯に、それをひっくり返し乗せ、
よく馴染ませてから、口に放り込む。
そして味噌汁をすすり、落ち着かせる。

いい歳して、まだそんなことを
やりたくなるし、実際、やっている。

夏の旅行に行かなくなって久しい。
夏休みは取得するも、自宅か近所で
仕事や生活の整理をして過ごす。
先々のことも少し考え書き出す。

少しといえば、少しでも夏気分をと、
休みの間、何日かは早朝に
家から少し離れたファミレスへ
ひとりクルマを走らせる。

空いた店内で、窓側の席を陣取り、
和食セットを電子パネルで注文。
すると、ロボットがいそいそと、
料理を運んでくる。
そして僕は店員さんを呼んで
「すみません、醤油とソース、
胡椒ください」とお願いするのだ。

僕は嫌な客だ。
目玉焼きには胡椒、
ソーセージには醤油、
ベーコンには中濃ソースが
僕には必要なのだ。

さすがベテラン店員さん、
「はい、いつものやつですね」
とこの癖のある客にスマイル。
この表情に僕は毎度救われる。

この季節になると、40年位前の、
夏休みの旅行先での朝食を思い出す。
少しひなびた感じの旅館、
1階の大食堂、世帯ごと、
客ごとに指定された和式のテーブル。

鯵の開きか鯖の塩焼き、
焼き海苔、薄切りのハム、
生卵かハムエッグ、漬物、
小さな茶碗のごはん、味噌汁。

父と母の前で、兄弟で競うように、
ごはんを何杯もおかわりして食べた。
そう、ハムエッグに胡椒と醤油、
ハムには中濃ソース。
それらを、ごはんでくるんで食べた。

今でも毎夏、あの旅館の朝を思い出す。
醤油と中濃ソースの味とかおり。
今は亡き父母の面影と共に。

やがてお盆。
蝉の声が鳴り響くファミレスで
ひとり。

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