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誰しも未完成、人と人の輪郭

ビジネスパーソンであれば、
特にエリートを目指すなら、
小説など読むべからず、
と若い頃、言われたことがある。

フィクションの物語は
映画やTVドラマで事足りるはずで
仕事に直結するノウハウ本や
名経営者の書いた経験談を読むべきだと。

また、ある名経営者は、
誰かが書いた空想の世界を
読んでる時間は勿体ない、
と何かの記事で仰っていた。

いろんな意見があっていい。
僕は平日は経営関連等、
堅い本を読んでいるので、
大型連休くらいは小説を堪能したい。

小説には作者の叡智や
人生観などの価値観、人生経験が
盛り込まれていること、
活字からの想像力を鍛え、
感性や心を豊かに出来ること、
非日常の世界に導かれることで、
戻ってきた日常に潤いが増し、
心が洗われること、
小説のそんな利点しか、
僕には思い浮かばない。

いずれにしても、小説には
広範な分野と好みがあるし、
人によってはハズレと
感じることもあるので
作品や作者は選ぶ必要がある。

僕にとって、大人のメルヘンを描く
吉田篤弘氏の作品にはハズレがない。
同氏の作品の主人公は大抵30代であり、
僕なんぞ年老いた感があるが、
同氏は僕と同世代なので、
共感出来ることが多々ある。

また、なんと言っても
新緑を靡かせるそよ風や、
棚引く雲の向こうの青空を
想起させてくれるテイストは絶品。

そんな思いで年末に買って未読だった
「流星シネマ」(角川春樹事務所)を
今日読了した。

舞台は小さな町、下町の印象で
主人公はこの町で生まれ育った、
タウン誌の編集者、太郎。

この町には伝説がある。
かつて、鯨がこの町の川に流れ着き息絶え、
町民によりそこに埋葬されたという。

物語は太郎を中心に
彼の元上司のアメリカ人、アルフレッド、
2人の幼馴染みの親友とマドンナ、
天然パーマのピアノ好きの若者、
ステーキ屋の主人、
詩集編集者の老女、
廃業した工場主、
オーケストラの団員といった顔ぶれ。
全員、それぞれに何かを背負っている。

詩集編集者のカナさんが、
同じ編集に携わる太郎に言った言葉が、
心に響く。

「わたしが思う編集者の仕事というのは、
混沌としたものとか、
散り散りになってしまったものとか、
あとはなんだろう、
みんなが忘れてしまったものかな、
そういったものを、
ひとつにまとめていくこと、
ひとつにまとめて、
ふさわしい輪郭を見つけていくこと
だと思っている」


これは、職場のリーダーにも必須の要素、
いや、ビジネスに関係なく、
人が生きていくうえで大変重要なこと。

人と人。心と心。
人はひとりでは
生きていけない。
誰しも何かしら背負っている。
だからみんなが、
ちょっとしたことでも良いから
結び付きとか絆を育む、
編集者たれと。

本作の最終ページに
もうひとつの名言がある。 

「未完成なものだけが、完成に到達できる。」

僕らは誰もが未完成。
だからやり直せる、再生できる。
そんな勇気を授けてくれるこの一冊から
爽風と素晴らしい時間を拝受した。

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