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レザ・ネグレスタニ『テクノドローム』♯1僻地からの記述機械(訳・Anrhony Miyagi/幸村燕)

*レザ・ネグレスタニReza Negarestaniはイラン人の理論家、作家です。2000年以降、オンライン理論プロジェクトに広く参加している。Cybernetic Culture Research Unit(CCRU)と彼のオンライン理論プロジェクト「Cold Me」を統合して開発された研究グループ「Hyperstition」の共同設立者であり、定期的に寄稿している。彼の記事は、CTheory、Hyperstition、Cold Me、Channel 83などで読むことができる

https://www.3ammagazine.com/litarchives/2005/oct/technodrome.shtml

の『TECHNODROME』内の「Writing machines from remote territories」翻訳である。




日本のサイバーパンク作家、ケンジ・シラトリ氏の「ブラッド・エレクトリック」( Creation Books, 2002年)の出版を経て、非英語話者の作家達の間に英語という言語の多様化を促す動きが出たのではないだろうか。元よりこれらの作者は英語を支配するラテン・アングロ・フランス・ドイツの言語の系譜から離れているし、英語の中央的価値は近年のインターネット社会の出現によって脅かされている。フランスの哲学者、ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリは「カフカ---マイナー文学のために」の中でマイナー文学はマイナー言語に属するのではなく、むしろその言語圏からの作者がメジャーで支配的な言語で書くと指摘した。これによってメジャー言語の法則が新しい言語学の変則を生み出すと言う。つまり、作者はメジャーとマイナー言語の間で絶え間なく行き交うのだ。この中でドゥルーズ=ガタリは例としてカフカ(ドイツ語で書くチェコ人)とベケット(フランス語と英語で書くアイルランド人)を挙げた。しかし、これらの例はヨーロッパの言語圏の中で、しかも概ね同じ構造、文字、発音内に収められる。それらと比べ、今ではまったく違う文化や言語圏から英語で書く作者が出てきた。彼らは英語の世界的普遍性---もはやすべてを取り囲む帝国に近いが---を弱体化させ、さらに乱暴に多様な表現と変則の溜まり場に変えた。シラトリ氏については、日本でしか見られないしきたりを英語に漏らし、それに日本のスラングを侵入させて、適切には理解できない言葉遣いや文法、さらには音のパンデモニウムを生み出した。シラトリ氏のニューロ/サイバーパンク作品の日本語から英語へ変貌させる様はまるで暴力性にまみれた日本のビデオゲーム(に含まれるコード、バグ、繰り返される構造)を英語文学に翻訳するプロセスのようだ。


":://私は電気血細胞を拷問/::ボンデージ-スクリプト/人間を体を-遺伝子のメディア=TV - 男-ロイド神経系が残虐に殺され>加速した肉の塊DOWNLOAD>>HUMANビーストのジルコン酸の血流内へ殺すように駆り出された暗殺者の奇跡を燃やす<<まるで神の手を持った外科医>>//"

英語の読者には、アントナン・アルトーやテル・ケルの詩人、ケベックの詩人フェルナン・オイエレット(Le Soleil sous la mort)が世界の果てからやってきた狂犬病を包み込む詩を内包した作品と対をなすテクノノワール的な極限のテクノポエティックパフォーマンスに見えるかもしれない。以下の文章は、ケンジ・シラトリの日本語筆記機械と技術によって引き起こされた変則(=異常)についての、つまり英語の中だけでなく、ナレーションや作家のヘゲモニー、そして過剰さの現れを自動的に抑圧してしまう単なる経済的なコミュニケーションに捧げられた織物状の空間(「テクストゥムtextum」)としてのテキストについてのの性急な探求である。

(続く)

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