サウナの聖地で起きた(ひとの手による)奇蹟

先日、ある「隙間」にスマホを落としてしまいました。簡単には取れそうもない隙間だったのでかなり焦ったのですが、そこで奇蹟が起きたのです。奇蹟というと大袈裟ですが、場所が聖地でしたのでやはり奇蹟と言いたい。

その場所はサウナーには聖地とも呼ばれる静岡のサウナ「しきじ」でした。なぜそんなところでスマホがはまってしまったのか。そして何が起こったか。

サウナ好きの聖地 静岡「しきじ」

しきじには今回はじめて伺いました。入店するのに30分待ちもざらというのを聞いていましたので、朝早く行くために静岡のホテルに前泊(夜は静岡おでんを堪能)。おかげで混雑する前のしきじを満喫できました。それはそれは素晴らしかったです。肌にすーっとなじむ天然水の水風呂。よく管理されたサウナ。飲みたくなるほどいい香りの薬草湯。清潔に保たれた館内。キビキビと働くスタッフさん。どこをとっても隙がない。でもゆる〜い昭和の感じもあって居心地がいい。絶妙なバランスです。ふだんはととのうということにあまりこだわらないのですが、バキバキにととのいました。サウナのあとはサ飯(生姜焼き定食。天然水効果かご飯が猛烈に美味い)を食べ、休憩室でうとうとしていました。

事件はその時起こりました。用を足そうとトイレに向かう僕。小便器の上の部分に財布、その上にスマホを置いたのですが、次の瞬間、スマホが消えた。いや正確には小便器の奥の1センチほどの隙間にスマホがストンと落ちてしまったのです(写真参照)。参ったな。。。でも正直この時点では問題を甘く見ていました。横から棒でつつけば出てくるだろうと。

壁と便器のあいだのわずかな隙間

近くにいた食事処の方に事情を伝えると「いま別のスタッフ呼びましたのでちょっとお待ちくださいね」。しばらくして細長い棒を持った若い男性がやってきました。便器の横から棒を差し込み、押してみる。引いてみる。押してみる。引いてみる。「あれ?」手応えがありません。僕も交代してやってみますが同じ。なんでだろう?僕らが不思議がってると年配スタッフが加勢にきました。3人がかりでやりますがまったく出る気配がしない。棒がスマホに当たってる感触すらしません。その後も先端が曲がった棒や、違うタイプの棒を持ってきていただき3人で交代でトライするもすべて空振り。お忙しいだろうに結構なお手間取らせてしまい申し訳なくなってきます。

いやな予感がしました。冷静になって小便器(陶器)をよく観察、コンコンとこぶしで叩き、また観察。やがて最悪の結論に至りました。「この便器、裏側が空洞になってる・・・」つまり、両サイドはすこしの隙間しかありませんが最下部の中央部分は広くなっていて、おそらくストンと縦に落ちた僕のスマホはその広場でパタンと横に倒れたのです。文字で書いて伝わりますでしょうか、それに気づいた時の戦慄を。ボトルシップや知恵の輪的な作業をしない限り隙間からは取り出せないのです。その仮説をスタッフさんに伝えるとふたりとも「あああ」となんとも言えない表情になりました。口には出しませんでしたが「それは取れないわ」と思ったかもしれません。

一方で、この時僕の中でふしぎな感覚が芽生えました。「俺のスマホ、聖地の一部になるのか」サウナの聖地しきじ。それを構成する一部としてこの先10年20年、自分のスマホが居続ける。供物?貢物?生贄?なんでしょうか、若干誇らしい気持ちがそこにはあったのです。人が宗教に狂う気持ちがすこしわかりました。

とはいえいまどきスマホ高いです。そして手続き色々面倒です。LINEとかモバイルSUICAとかどうしたらいいの?急に現実に戻った僕はスタッフさんにあるご相談をしました。「無理を承知で言いますが、この便器を工事して一度取り外し、スマホを取り出してまた元に戻す。ということはできないでしょうか?もちろんかかる費用はお出しします」とは言えしきじは年中無休、24時間営業。お客さんがいつもいる中でいつ工事できるのだろう、そんなことも思いました。すると年配のスタッフさんが言いました。「ちょうど来週メンテナンスで臨時休業するんですよ。その時にやりましょうか。いま責任者が出ちゃってるので後で相談してみますよ」あああ、ぜひそれでお願いします!1週間スマホ使えないのは痛いけど、待てば帰ってくるならそれで十分。次の日連絡を取り合うことを約束してその日は帰ることにしました。帰り際、受付の方が「スマホ落としちゃった方ですよね?大変ですね。取れるといいですね」とやさしく声をかけてくれたのがこころに沁みました。

翌朝しきじに電話しました。来週予定通り工事ができるかどうか聞くためです。すると電話の向こうから聞こえたのはなんと「スマホ、取れました!」の声。「え!取れたんですか?どうやって?」「あのあと便器を外してもらって取りました」そうだったのか。僕が困ってたので急いでやってくれたんだな。ありがたい(涙)。そしてさらに。。。

「工事代おいくらでした?お出ししますので・・・」

「あ、それは結構です。お風呂入りに来てくださればそれで。また来てくださいね」

聖地。この瞬間しきじは僕の中で紛れもない聖地に認定されました。

いい水といいサウナがあれば聖地になるのだろうか。それだったらパクることもできなくはない。でも人はそうはいきません。聖地を守る人のマインドとハートは簡単にコピーできない。しきじで出会ったスタッフさんはみなさんプロでした。たったひとりの面倒なお客さんのために動き、なんとか解決できないか汗をかいてくれた。そのちいさな珍騒動をほかのスタッフも把握し理解していた。お客さんになるたけいい思いをして帰ってもらおう、という強固な意思をしきじという存在すべてから感じました。いま自分もサウナ付きの宿泊施設をつくっていますが今回の一連の出来事は本当に勉強になりました。何がお客さんを幸せにするのか。それがわかっているからしきじは単なる良いサウナを超えて聖地になったのだと思います。

サウナであたたまり、
トイレで肝を冷やし、
ひとのあたたかさに癒される。
お風呂の外でも温冷交互浴できたすばらしい経験でした。

そんなわけで僕は後日、お礼の鳩サブレーを持ってしきじに戻りました。聖地の一部になり損ねたスマホを引き取りに。もちろんサウナにも入りました。やっぱりしきじは最高です。

お菓子のお礼にタオルいや聖布までいただいてしまった

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